毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「やれやれ、締まりませんね」
苦笑しながらヒョウエが杖を動かした。
転がった鉄鍋が宙に浮き、土ぼこりが綺麗にぬぐい去られ、最前から空中にぴたりと止まっていた鉄鍋の中身――彼らがこれから食べるはずの炒飯――が鍋の中に戻る。
そのまま手元に戻ってきた鉄鍋を、店の親父が目を丸くして見ていた。
「念動の魔法かい? すごいなあ・・・あいたたた」
「はいはい、動かないように」
両手にふうふう息を吹きかけているロージに一声かけて、赤くなった手のひらに指を当てる。やわらかな魔力光が指先に灯り、すっとやけどが消えていった。
「おおー。治癒魔法まで使えるのかい! 若いのにすごいねえ! いや、ありがとう!」
手をぐっぱぐっぱと開いたり閉じたりしながら、ロージが感嘆の声を上げた。
ヒョウエはそれに答えず、曖昧な笑みを浮かべる。
一方でモリィ達は飛んできた石を回収していた。
石はどれもつるりとした球形で、均一の灰色をしている。
「自然の石じゃねえな。
「モリィ様は
「いや、前に一緒に仕事した奴から聞いた話だ。こんな完璧な石は天然ものなら一生に一度お目にかかれるかどうか、だそうだぜ」
「とするとやはり魔法でしょうか。土の術にこのような石を飛ばすものがあるそうですが・・・」
ロージの治療が終わり、三人はそこで話を切り上げた。
五人が再び席に着き、食事を再開する。
到着した炒飯を、もりもりと食べるロージ。豪快ではあるがどこか品がある。
「しかし、危ないいたずらをする奴もいるもんだね。誰にも怪我が無くてよかったよ」
「あなたがやけどしましたけどね?」
ヒョウエが笑み混じりにからかうと、苦笑してボリボリと後頭部をかく。
「いやあ、それを言われるとつらいね。それにこの炒飯も無駄にならなくてよかった!」
「ヒョウエの野郎は食い意地が張ってるからな。そりゃあまず最初に飯を助けるさ」
「一度あなたとはちゃんと話をすべきかも知れませんね、モリィ?」
快活に笑いながら更に炒飯をかきこむロージを見て、モリィとヒョウエがじゃれ合う。
リアスが僅かに眉をひそめていた。
(いたずら、ですか。どう見ても故意の襲撃ですが)
(その通りですが話を合わせて下さいお嬢様)
(わかってますわそのくらい)
リアスが唇を尖らせる。カスミが納得したように頷いた。
(ああ・・・さらりと話を合わせるモリィ様に焼き餅を焼いているんですね、これは)
「カスミ、何か言ったかしら?」
「何でもございませんお嬢様」
六人分ほど注文した料理をデザートまで綺麗に平らげて、一同は席を立った。
ちなみにロージとヒョウエで三人分以上食べている。代金はロージが二人分出した。
「いやあ、いい店を教えて貰ったよ、ありがとう!」
「いえいえ、楽しいおしゃべりでしたよ。それじゃこのへんで」
「ああ。メットーにいる間にもう一回くらい食事できるといいね」
手を振ってロージが雑踏の中に消えていく。
笑顔で手を振り返してそれを見送った後、四人が視線を交わして頷き合った。
数分後、エブリンガー一行の姿は空中500mにあった。
もっとも、透明な『場』にくるまれて周囲から見る事はできない。
「どれくらいもちますか、カスミ?」
「二十分というところかと」
「疲れてきたら言って下さい。疲労を回復しますから」
「かしこまりました」
術を発動・維持するためには魔力が必要になる。そして魔力を練るには体力が必要になる。つまり術を使うと肉体的に疲労する。
逆に言えば疲労を回復する手段があるのならいくらでも術は使えるし、ヒョウエは"
「ロージさんはどうですモリィ?」
「ずっと北に向かってるな」
「つまり、ウィナー伯爵邸ですか」
「ああ、今のところは・・・っ!?」
モリィが引きつった声を出す。
「どうしました」
「視線があった。あいつ振り向いてこっちを見やがったぞ!」
リアスが呆れたような声を出す。
「まさか。500mは離れているんですのよ?」
「ならどうしてあいつは振り向いて何もない空中を見たんだよ?」
「それは・・・」
ヒョウエが後ろを振り向いた。
「カスミ、透明化の術は問題ありませんね?」
「はい」
厳しい表情でカスミが頷く。
「カスミの術の問題じゃねえ。あいつが鋭いんだ。正直舐めてた」
ヒョウエが今度はモリィの顔を見る。
「・・・できますか?」
「ああ。獣と同じだ。山の中の獣だ。あいつら、下手すりゃ一キロの距離からでもこっちの視線を感じて逃げやがる。だから木になるんだ」
「木?」
「あたしに
獣を狩るときは木になる。人間の視線を感じれば奴らは警戒するが、木や石に見られても警戒はしない」
(・・・マタギの口伝に「木化け」「石化け」というのがありましたね。
合気道の開祖植芝盛平は銃弾の弾道が赤い線として見えて、一瞬早く動くことで銃弾をかわすことができた。しかし狩りの名人の銃弾はかわせないと言った。
そう言うあれでしょうか?)
目を閉じて深呼吸するモリィを見ながら、そんな知識を掘り起こす。
やがてモリィが深呼吸をやめ、目を開く。
目が合い、頷いた。
「いいぜ。やってくれ」
ヒョウエが無言で頷き、追跡を再開する。
裏路地を早足で歩くロージを、モリィが静かな目で追いかける。
ウィナー伯爵の屋敷に到着するまで、彼が振り向くことはなかった。
ウィナー伯爵の屋敷は6mの高い塀に囲まれている。
周囲を確認し、ロージがずだ袋から手ぬぐいと水袋を取りだした。
手ぬぐいを濡らしてから水袋を戻し、ずだ袋を塀の中に放り投げる。
そのまま垂直にジャンプして、塀のてっぺんに濡れた手ぬぐいを投げる。
手ぬぐいはピタリと塀に張り付き、それを手掛かりにロージはそのまま軽々と塀を越え、内側に着地した。
「・・・ってわけだ」
「何ですのそれは? 魔法か、何かの《加護》でしょうか?」
「いえ、お嬢様。我が家に伝わる体術の中にそう言うものがあります。濡れた布は、驚くほどぴったりと壁や屋根にくっつくんですよ」
「ですね。まさかこっちの世界で見る事ができるとは思いませんでしたけど。モリィ、ロージさんは?」
「そのまま庭木づたいに隠れて・・・今屋敷に入った。やべえな、手際がよすぎる。あいつプロだぞ」
「そんな人には見えませんでしたが・・・」
快活で純朴そうな人となりを思い出し、ヒョウエが沈思黙考する。
とはいえ、短い会話だけで本性を見抜けるほど人物眼に自信があるわけでもない。
「どういたしますの、ヒョウエ様?」
「少し待ちましょう。多分騒ぎが起きるでしょうから、それに乗じて突入します」
四人が頷く。
屋敷の周囲が騒がしくなり、門前で待機していた「星の騎士」の一党が屋敷の中に突入したのはそれからまもなくのことだった。