毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
青い鎧が王都の空を駆ける。
ざっと見て一割、スラムでは三割を越す家が崩れ、そこかしこに煙も立ち上っていた。
メットーのあたりは地盤が安定しており、滅多に地震が起きることはない。
そのため建物の耐震性には不安があったが、思ったよりは被害は少なかった。
昼下がりで昼食の時間が終わっていたのも幸いしているだろう。
(取りあえずは消火ですね)
関東大震災の死者は約十万人だが、そのおよそ九割が火災による死者だ。
オリジナル冒険者族の都市計画によって作られたおかげで建物の過度な密集も少なく、石造りの建物も多いメットーは当時の東京に比べれば火災に強い都市だが、それでも21世紀の東京とは比較にもならない。
合掌するように両手を合わせ、天に向けて突き出す。
「"
全魔力を込めた両手からほとばしる洪水のような水。重力に逆らって下から上へと流れる大瀑布。それは優に王都の四分の一を濡らす土砂降りとなる。
王都南西のスラムから南東の平民街、北東から北西をぐるりと回り、王都を一周。
ものの数分で王都各所から立ち上っていた煙は全て消えた。
(次は救助活動ですね)
"
倒壊した建物を手当たり次第に掘り起こし、被災者を救出して、並行して治療呪文。扱いが多少雑だったが、非常時である。やむを得ないと自分に言い聞かせて数を助けることを優先した。
一時間ほどで王都の要救助者はほぼいなくなった。
見送る歓声に脇目もふらず南へ飛ぶ。
王都の南には狭い平原が広がっており、川を半日も下ると海に出る。
青い鎧はそのまま海へ出た。
(ジュリス宮殿で念響探知をしたとき、地震の震動波は南から来ていた――確かめておかなきゃならない)
津波である。
正確な統計を取ることはできないが、東日本大震災では恐らく死傷者の大多数がこれによる。
滅多に地震の起きないメットー周辺では、当然津波に対する認識も薄い。
王宮の書庫で読んだ古文書では、王都が一度崩壊した900年前のそれが最も新しい津波だった。
よほど強力な魔術師か、神と契約して永遠の命を授かった〈百神〉の〈使徒〉でもなければ直接見た人間は既にこの世におるまい。
津波に対する備えや知識も恐らくは失われているだろう。
震度五か六程度であれば問題はないと思うが、念のため確認しておく必要があった。
(ん・・・)
いくつかの離島を飛び越え、沖合20kmほどの所で津波を発見する。
ただしその高さは30センチほど。
青い鎧をまとったときの強化された視覚か、あるいはモリィの《目の加護》でもなければ上空からでは見逃してしまうだろうほどの波。
念のためにもう少し南へ飛んで新しい津波が来ていないかどうか確かめてから、青い鎧は陸地にとって返した。
その後、河口の港町ビップルを始めとしたメットー周辺の町や集落の救助を終えて、ヒョウエは屋敷に戻った。既に空は赤く染まっている。
"
居間に転移し、杖にもたれかかって深く息をつく。
「ヒョウエ!」
「ヒョウエくん!」
「ヒョウエ様!」
「お疲れさまでした。ご無事で何よりです」
少女たちの声に手を上げて応える。声を出すのもおっくうだった。
「お役目お疲れさまでした。お父上から使者が参りましたが、その件は後にした方が良さそうですね」
「うん、そうして。流石に疲れた、先に休ませて貰いますよ・・・」
「それでは」
「ふわっ!?」
フラフラと部屋に戻ろうとしたヒョウエを、サナが無造作にお姫様抱っこする。
「ちょっとサナ姉!?」
「昔は何度もこうして寝所まで運んで差し上げたではありませんか。恥ずかしがる事はありません」
「今は僕も大人ですよ!?」
「そう思うならもっと肉をつけることですね。ヒョウエ様は昔も今も羽根のように軽くていらっしゃる」
「いや僕は頭脳労働者ですし・・・あ、ちょっと! 下ろしてくださいよ!」
騒ぎながら抵抗することもできず運ばれていくヒョウエを、四人の少女が唖然として見送った。
「おはようございます」
「おはよう、ヒョウエくん!」
「よっす」
「おはようございます、ヒョウエ様!」
「おはようございます」
ヒョウエが目を覚ましたのは翌朝だった。
泊まっていたモリィ達と共に朝食。
焼きたてのパン、鳥肉のホワイトシチュー、スクランブルエッグ、カリカリベーコンに生野菜のサラダ。
それらを親の仇のように腹に詰め込んでいく。
朝食としては重めの料理の山が見る見るうちに消えていくさまを、モリィ達が目を丸くして見ていた。
「ふーっ・・・ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
だらんと椅子の背にもたれかかるヒョウエ。
食事の後の心地よい虚脱感だ。
「それでお父上からのご伝言ですが、今よろしいでしょうか」
「ええ、お願いします」
「今日の朝十時までに王宮に参内するようにと」
「はい?」
ヒョウエが怪訝そうな顔になった。
「僕がですか? ジュリスではなく王宮に?」
「はい。礼服や馬車などはジュリスで用意するので、その前に立ち寄るようにとのことですが」
「うーん・・・」
頭をひねってみるが、それで答えが出るものでもない。
ちらりと置き時計を見るが、もうすぐ八時半というところだった。
「まあしょうがありませんか。これから出ますからサナ姉とリーザはついてきて下さい。
他の三人はすみませんけど留守番お願いできますか」
「うん、わかった!」
リーザとサナ、モリィ達がそれぞれに頷くのを確認して、ヒョウエは席を立った。
スラムからジュリス宮殿は数キロ。歩いて一時間ほどあるので、杖でさっと飛んでいく。
宮殿を守る兵達は空から降りてきた一行にぎょっとしたが、ヒョウエと気付くと一糸乱れぬ敬礼の姿勢になった。
「ご苦労様です、モート、フォレスト。フォレストは随分様になりましたね」
「!」
「・・・はっ! ありがたくあります!」
名前を呼ばれて感動している二人に微笑みかけると、ヒョウエは玄関に続く階段を上っていった。
宮殿に入るなり父親への挨拶もそこそこに、侍女のおばちゃん達に捕縛連行される。
「さあ若様! 今日ばかりは逃しはしませんよ! 旦那様にきつく言われてますからね!」
「勘弁して下さいよ、カニア。今まで逃げた事なんてないでしょうに」
「ええ、ええ、そうでしょうとも。嫌なときは最初から書庫に立てこもって出てきやしないんですから! リーザやサナを随分困らせてたのもご存じないでしょうね!」
「えーと・・・」
姉代わりの執事と乳母子の方をちらりと見る。
にっこり、と明白な拒絶の笑顔を突きつけられてヒョウエは溜息をついた。
冠代わりのサークレットにぴったりした青のチュニックとズボン、短いマント。
王族にふさわしい衣裳を着せつけられて、ヒョウエは父と一緒に馬車に乗っていた。
サナと、ジョエリーの従者が同乗している。
自分の着ている服を見下ろして、誰にともなくヒョウエが独りごちた。
「しかし、四年で体つきも随分変わっているのに良くぴったりに仕立てられますねえ」
「それだけ仕立て屋の腕がいいと言うことだ。カーマインはいい仕事をしてくれている。
しかしお前、それを本当に持っていく気か?」
ジョエリーの視線が向いているのは、
「別にいいでしょう、これくらい。術師としては手元に置いておかないと落ち着かないんですよ」
「・・・まあいいがな」
素人目にも業物なのは理解出来るので、ジョエリーもそれ以上は言わない。
「しかし、王宮に呼び出しと言うことは陛下の? 地震で何かあったんですか」
「ここでは言えん話だ。兄者から直々に聞くがいい」
「・・・わかりました」
そこはかとない不安に溜息をつきつつ、ヒョウエは背もたれに身を預けた。