毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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01-10 娼婦ナヴィ

 夕方まで王都の上空を周回し、二人は六虎亭に戻った。

 

「見つけられませんでしたね。運が悪かったのか」

「どうするよ?」

「もう一日探してみて、それでダメならアプローチを変えてみましょう。今日はこれで解散って事で」

「オーケイ、んじゃまた明日な」

 

 六虎亭の前で二人は別れた。

 モリィは店の中に、ヒョウエは南門、スラムに近い方角に。

 モリィはちょっと怪訝な顔になったが、特に何も言わなかった。

 

 

 

 翌日。

 一日王都の上を飛んだが、やはり猫は見つからなかった。

 かなり日も傾いてきたところで二人は六虎亭に戻る。

 

「見つからなかったなあ」

「ええ。こうなると誰かに捕まったのか、もしくは本当にさらわれたのかも」

 

 じゃあどうする? とモリィが視線で問いかける。

 

「聞き込みをするか、もしくは広く懸賞金でも懸けて探すかですけど、前者は効率が悪いし後者は僕たちの手柄にはなりませんねえ」

 

 なにせ人口50万の超超巨大都市だ。

 目立つとは言えどこに逃げたかもわからない猫一匹を探すには余りに広すぎる。

 

「んじゃ打つ手無しか」

「まあ・・・こう言う時に頼れる人はいますから、諦めるのはそっちを頼ってみてからにしましょう。ついてきて下さい」

「ん、わかった」

 

 ヒョウエと連れだってモリィが歩き出した。

 

 

 

 二人が街路を歩く。

 アルファベットに似たこの世界の表音文字に加えて、つづりの怪しい漢字やひらがなが書き込まれた看板の群れは、ちょっと見るとファンタジーというよりサイバーパンクの街路にも見える。

 

「おうバアさん。椀に虫が入ってたぜ! こ~んなもんで客から金とろうってのかよ?」

「そ、そんなことは・・・!」

「あぁん?!」

「うっわー。古典的だなあ・・・」

 

 2街区(ブロック)ほど歩いたところで屋台の老婆がガタイのいいチンピラどもに絡まれているのに出くわした。

 難癖をつけてただ飯を食おうという輩だろう。

 

(ま、ご愁傷様)

 

 モリィが心の中で肩をすくめる――チンピラたちに対して。

 その時には既にヒョウエがチンピラたちの前に立っていた。

 

「お婆さんから手を放しなさい」

「は?」

 

 チビの闖入者に一瞬チンピラたちが目を丸くし、次いで爆笑する。

 

「おいおい、自分が何言ってるのかわかってるのかよこのガキ?」

 

 リーダー格らしい一番の巨漢が老婆を放り出してヒョウエに向き直る。

 放り出された老婆が、ふわりと地面に降りたことに気付いた者はほとんどいない。

 

「まあ金持ちのガキはちょっとばかり痛い目を見て・・・えぇぇぇっ!?」

 

 巨漢がヒョウエに手を伸ばそうとして、その手が空を切った。

 その手がどんどんヒョウエから離れていく。

 いや、巨漢が地面から浮いているのだ。

 

「ひゃっ、ひゃあああああああああああああああ!?」

「あ、兄貴・・・!?」

「ま、魔法使いだ!」

 

 情けない悲鳴を上げる兄貴分。ヘタレと言うなかれ、「飛行」が魔法の領域にしかない世界である。足が宙に浮いてその下に何もないという状況は恐怖以外の何物でもない。

 

「ひっ、ひ・・・」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!」

「あ、お前らっ!?」

 

 舎弟二人が巨漢を捨てて逃走した。その間にも巨漢はぐんぐん上昇していく。

 

「大丈夫ですか、おばあさん?」

「は、はい、ありがとうございます・・・」

「助けてぇぇぇ! 俺が悪かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 涙と鼻水を垂らして謝る巨漢を更に数分放置してから、ヒョウエは地面に下ろしてやった。

 舎弟達と同じくほうほうの体で逃げていったことは言うまでもない。

 

 

 

「・・・・」

 

 先ほどの老婆にお礼として貰った水飴を舐めながら歩く。

 歩きながら、改めて相棒となったこの少年をしげしげと見た。

 モリィから見るとこいつはどうにも変な奴だった。

 見るからに争いごとを嫌うくせに、もめ事と見ると必ず首を突っ込んでいく。

 

 その現場に遭遇したことは、この二週間でも両手の指の数を超える。

 単なる喧嘩や言い争いなら強制的にでも二人を分け、片方がもう片方を虐げているようなら問答無用で立ちふさがる。

 杖の先がちょんと触れただけで10m以上吹っ飛ばされれば、何か別のところで用事を見つけようという気にもなるものだ。

 

 もっとも大多数の場合においてはその必要すらなかった。

 豪奢なローブに素人目にも明らかな呪鍛鋼の杖。半数くらいはまずここで怯む。

 "大魔術師(ウィザード)"の衣裳の上に乗っているのが美少女のような生っちろい少年の顔であっても、だ。

 

 それだけ術師は希少であり、畏怖されている。ましてや若々しい姿で数百年を生きる術者が数は少なくとも実在しているのだ。ひょっとしたら目の前のこれも、と思ってしまうのは当然だろう。まあ先ほどのチンピラたちのような底抜けの馬鹿もいるが。

 なおもう半分くらいはヒョウエの姿が視界に入っただけでこそこそ去っていく。界隈ではそれなりに有名なのだろう。こんな目立つ格好で暴れていれば当然だが。

 

 

 

 そんな事を考えつつ歩いてしばらく、モリィは妙なことに気付いた。

 

「おいお前この道、あたしの記憶間違いじゃなきゃスラムの方じゃないか?」

「そうですよ?」

「大丈夫かよ? いや、お前みたいに腕が立つなら問題ないだろうが」

「そうじゃなくて・・・まあ見ればわかりますよ」

 

 スラムは王都の南西部に広がる広大な地域だ。

 一応城壁の中ではあるが、治安は悪く外から来た流れ者も多い。

 元はと言えば二十年ほど前の飢饉で食べていけなくなり、王都に流れ着いた者たちが建物のまばらな南西部に住み着いたのが始まりで、その数があっという間に増えてバラックを形成し、かつては犯罪者の巣窟だった。

 "青い鎧"が出現した今でもお世辞にもガラのいい所とは言えない。

 

 が、その悪所に向かってヒョウエは恐れる様子でもなく真っ直ぐ歩いて行く。

 歩きながらもしばらく悩みはしたが、

 

(ま、こいつと一緒にいるなら問題はないか)

 

 そう割切ることにした。

 考えるのが面倒くさくなったとも言う。

 

 

 

(ん・・・んん・・・?)

 

 周囲の家の造りが雑になり、明らかにスラムとおぼしき街路に入り込んでしばらく。モリィは妙なことに気付いた。

 妙に小綺麗なのだ。

 通りは狭いし両側の家々も廃材で素人が作ったような粗末さなのは間違いないのだが、路上にゴミや汚物が転がっていることもないし、行き交う住人の服も粗末ではあるがちゃんと洗濯してあり、垢じみたという感じではない。

 

 道の両側にはやはり粗末ではあるが店や露店が並び、呼び込みの声が聞こえてくる。

 何より住人の顔が明るかった。貧困や犯罪に苦しむ住人の顔ではない。

 通行人や店の主人がヒョウエに笑顔で挨拶してくるのはまだしも、時折頭を下げてくるのも不可解だった。

 

「なあヒョウエ・・・」

「言ったでしょう? 見ればわかるって」

「まあなあ。あたしがガキの頃はこんなじゃなかったぜ? "青い鎧"のおかげか?」

「まあそれもありますが、色々ありまして」

 

 みすぼらしい身なりの子供がどんっ、とヒョウエにぶつかってきた。

 スリかと身構えたモリィだが、抱きついてにかっと笑う子供とその頭を撫でるヒョウエを見て思わず力が抜ける。

 

「ヒョウエさま、おかえりなさーい!」

「おかえりー!」

 

 いつの間にか何人かの子供がまわりに集まり、ヒョウエに話しかけてくる。

 

「こっちのお姉ちゃんだれー?」

「こいびとー?」

「およめさんー?」

「あいじんだろ」

「ちげーよ! 何だよヒョウエこのガキどもは!」

 

 子供相手にむきになって反論するモリィ。ちょっと顔が赤い。

 

「あー、ヒョウエさま呼び捨てにしたぞこいつ!」

「いけないんだー!」

「ああ、このお姉ちゃんはいいんだよ」

「えー」

 

 ぶーぶー言う子供達をなだめて、ヒョウエがモリィの方に向き直る。

 

「で、なんだよこいつら。それからヒョウエ『さま』ってのはなんだ」

「見ての通り近所の子供たちですよ。さま付けなのは・・・」

「それはここがこの人の土地だからよ。ね、『領主様』?」

 

 色っぽい、それでいてからりとした声がヒョウエの言葉を遮った。

 モリィがそちらに顔を向けるのと同時に、白い腕がヒョウエの首に絡む。

 

「ナヴィさん、そう言うのは仕事でやってほしいんですけど」

「つれないわねえ。領主様なら仕事抜きでいいって何度も言ってるのに。あー、ほっぺたの感触が最高だわ」

 

 年の頃は20才ほどだろうか、幸せそうにヒョウエにほおずりする女性。

 ヒョウエも迷惑そうな顔はしてるが突き放そうとはしない。

 明らかに娼婦だろう露出度の高い服装にあかね色の髪。色っぽくはあるが気さくなお姉さんと言った風貌。白粉はつけず、紅だけを差している。

 

「・・・・・・・」

 

 しばらくヒョウエの頬の感触を堪能した後、ようやく娼婦の女性――ナヴィは愉快な表情で硬直したモリィに気付いた。

 

「あら、ひょっとして領主様のお友達? ・・・あなたもすりすりする?」

「しねえよ!」

 

 素で聞いてきたナヴィに、モリィが力一杯突っ込んだ。

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