毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「それでどうなったんです、カレン姉上」
数日後の王宮、カレンの居間。
膝の上にカーラを乗せてヒョウエが聞いた。
「地震に乗じて放火をするために雇われたごろつきだったみたいね。
青い鎧のおかげでほとんど役には立たなかったけど」
「青い鎧さまさまですね」
しれっとのたまうヒョウエ。
「で、あそこに溜まっていたのは・・・"本番"があったということですか?」
「らしいわ。いつとは聞かされていなかったようだけど――まあ念のために残しておいただけで、実際にはもろとも地震に巻き込まれる予定だったかもしれないわね」
「下っ端は辛いですね」
「因果応報よ」
カレンが優雅に香草茶を口にした。
「で、その本番がいつかはわかってないんですか?」
「それがまったく。お父さまもおっしゃったけど雲を掴むような話でね」
香草茶のカップを置き、カレンがお手上げのポーズ。
「あいつらに依頼をした何者かの話は聞けなかったんですか?」
「接触したのが頭目格の一人だけでね。そいつは最初に、ってわけ」
カーラも聞いているので表現を濁す。
「振り出しに戻ってしまいましたね」
「ええ」
言葉が途切れる。
視線を宙にさまよわせて何やら考え込んでいた二人だが、下の方からの仰ぎ見るような、こちらの様子を窺うような視線に気付く。
くすり、とカレンが相好を崩した。
「まあいつまでも考えていてもしょうがないわね。
折角三人でいるんだからもっと楽しいことを話しましょ。ね、カーラ?」
「はい、姉様!」
カーラの顔がパッと明るくなり、ヒョウエの首に抱きつく。
今まで我慢していた賢い妹に、ヒョウエはご褒美とばかりに額にキスをしてやった。
「それでね、それでね。キャリーの犬が子供を生んだの!
とてもかわいい子犬で、私にも一匹分けて貰ったのよ!」
「へえ。名前はなんて言うんです?」
「それがね、この子悩んでばかりで全然名付けられないのよ。代わりにつけて上げようかって言ったら怒るし」
「もう、お姉様うるさい! 私ちゃんと考えてるんだから」
「そうね、ごめんなさい」
口を尖らせる妹に、笑みを浮かべて謝るカレン。
「そうだ、ヒョウエお兄様。お兄様が名前をつけてくれない?」
「あら、ヒョウエはいいの?」
「お兄様はいいの!」
きっぱり断言するカーラ。ヒョウエとカレンが笑い出した。
「はいはい、いいですよ。でもその前にその子犬と会わせてくれませんか?」
「うん、わかった!」
言うとカーラはヒョウエの膝から滑り降り、ドレスのすそをつまんで走り出した。
「これ、カーラ様! その様なはしたないことを!」
カーラ付きの女官がたしなめるが、本人は気にも止めない。慌てて後を追う女官を、姉と兄が苦笑しながら見送った。
「相変わらず元気ですね、カーラは」
「かわいいでしょう?」
姉馬鹿そのものの顔で胸を張るカレンにもう一度苦笑する。
(むしろそうしてカーラを愛でてる姉上もかわいいというか)
そんな事を考えていると、カレンが半目でこちらを睨んでいるのに気付く。
「ヒョーウーエー? 今何を考えたのかしらー?」
「いえいえ、何でもございませんとも、お美しいカレン姉上」
「ふーん」
全く信じていない表情でカレンが相槌を打つ。
立ち上がり、ヒョウエの横に腰掛けてほっぺたを引っ張る。
「痛いんですが」
「相変わらず嘘は下手ね。あなた顔に出るんだからもうちょっと気を付けなさい」
「はーい」
自覚はあるので素直に頷いておく。
「よろしい」
満足そうに微笑んで指を離す。
引っ張られた頬をさすっていると、今度は肩に腕をおいてしなだれかかってきた。
「・・・今度は何です?」
「いえね、あのモリィって子。随分と仲良さそうだったじゃない?」
「まあ、いい相棒ですよ」
「ふぅん」
更に身を乗り出すカレン。
ひしひしといやな予感がする。
「ただの相棒なの? それにしては随分打てば響くように通じ合っていたけど」
「言ったでしょう、いい相棒なんですよ。最高の、でもいい」
「相棒な訳だ、あくまでも」
「何を言いたいんですか」
更に身を乗り出す。頬と頬がふれあわんばかり。
「いえね、ヒョウエにそう言う人がいないなら――まだ私にもチャンスあるかなって?」
「・・・」
思わず真顔で姉の方を振り向く。
額を寄せ合うほどの距離で目が合った。
「言っておくけどね、ヒョウエ。私は――」
ばん、と扉が開かれた。
「お兄様! 子犬を・・・あーっ!? お姉様ずるい! 私のいない間にヒョウエお兄様と仲良くしてる!」
「あら、早かったわね」
艶然と微笑み、カレンがヒョウエの首に抱きつく。
「私だってヒョウエのことは好きなのよ? いいじゃない、少しくらい、ねえ」
「僕に同意を求めないでいただけますかね」
「ずるい! 私も!」
てててっと走りより、子犬をそっと長椅子に置いて兄の体によじ登る。
ヒョウエが苦笑しながら妹を抱き寄せてやった。
「むー!」
ヒョウエの首に抱きつき、姉を睨む。にっこりと微笑み返すカレン。
「くぅーん」
長椅子に放置された子犬が、どこか切なげな声で鳴いた。
なお子犬の名前はあれこれ一段落した後、ヒョウエによって無事「クリプト」と命名された。
「秘密基地なら"孤独の要塞"以外有り得ませんし、犬の名前ならこれ以外ないです!」
「お姉様、お兄様は何を言ってるの?」
「ヒョウエは時々おかしな事を言い出すのよ。あなたも慣れておきなさい」
「失礼な」
「ただの事実でしょ」
――暗闇の中で、影が会話している。中央にいるのは禿頭のシルエット。
「始末したか」
「こちらと接触したものは確実に殺しました。生き残ったものがいてもただの下っ端でしょう」
「ご苦労・・・ちっ、あの放蕩王子め。星の騎士の件と言い目障りな。優秀な人員を育てるための投資も馬鹿にはならんのだぞ」
「消しますか」
「――あれは腕が立つ。消すなら確実に消さねばならん。準備を整えろ」
「はっ」
それきり、声は途絶えた。