毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第三章「三の辻・さすらいの剣士」
4-14 二刀流の男


「例え相手が二刀流でも一刀の技に勝るとは限らん!

 悪い頭でも考えればきっと勝機は掴めるでござる!」

 

                          ――るろうに剣心――

 

 

 

 奇妙な男だった。

 肩から腰をすっぽり覆う胴鎧(ブレストプレート)。卓の上に飾りのないシンプルな鉄兜(ノルマン・ヘルム)

 革の上着とズボンにマント、ブーツ。足元には投げ出した背負い袋。

 

 ここまでならよくある冒険者か傭兵の装いだが、胴鎧はどこか奇妙に見える。

 更に奇妙なことに、腰には長剣が左右に二本。盾は持っていない。

 

 この世界でもやはり二刀流は珍しい。片手武器に盾か、両手武器が普通。

 カスミのように右手で武器、左手で様々な道具を用いるタイプもいるし、レイピアなどの軽い剣に防御用の短剣というスタイルもないことはないが、それにしても常時武器を二本というのはまずいない。

 単純に弱いからだ。

 

 腰を入れて振らなければ剣はまともに切れない。そして人間に腰は一つしかない。

 つまり、一度に振るえる武器はどうあっても一本。

 残り一本を防御に使うスタイルであっても、それなら盾の方がいい。

 しかし二刀を自在に操って無双するのは多くの剣士が抱く夢だ。

 

「だってかっこいいし。ニホンにだって二刀流の超強い剣士がいたんだろう?」

 

 まあ大体このようなものである。

 どこぞの二天ナントカ流の開祖様が講談やら小説やらをベースに滅茶苦茶に美化されて伝わった結果、鍵屋の辻の三十六人どころではない百人斬り千人斬り、果ては竜を斬っただの、城を真っ二つにしただの、とんでもないスーパーヒーローになってしまっているのだ。

 

 もっとも四千年前の「最初のサムライ」からして「海を一刀で断ち割った」などの伝説が伝わっているために、この世界ではそこまで荒唐無稽というわけでもない。

 「最初のサムライ」ほどではないが荒唐無稽な冒険譚の主人公として人気があり、ヒョウエのような語り部や劇団にとってはいい飯の種になっている。

 閑話休題(それはさておき)

 

 それらを身につけているのは一見してさえない男である。

 もじゃもじゃのくせっ毛に無精ひげ。

 頬のこけたやせぎすの顔に、とろんとした覇気のない目。

 くたびれた冒険者というのがぴったりの表現だ。

 

 一人でテーブルに座り、注文した串焼き定食をもそもそと腹に詰め込んでいる。

 昼食時の賑やかな六虎亭で、その姿は忘れ去られたように埋没していた。

 

 やがて食事を終えて、串焼きの串で歯をせせる。

 その目がちらりと、二つ向こうのテーブルを見た。

 

 

 

「やっぱりここの料理はいけますねー」

「前々から思ってたけど、メシでここ選んだろお前。スラムにだって冒険者の店はあるのに、食い意地の張った奴だ」

「失礼な。否定はしませんが」

「しないのかよ」

 

 鳥のソテーを大きめに切ってほおばるヒョウエ。頬を膨らませる様は少しリスっぽい。

 モリィは呆れ顔。

 

「実際美味しいですわ。このソテーのソースなど家でも出して欲しいくらいです」

「基本は柑橘系のソースですが、複雑すぎて私ではちょっとわかりませんね・・・あ、甘水のお代わりお願いします」

「はーい」

 

 カスミがウェイトレスに甘水(スイートウォーター)――六虎亭名物の、魔法で甘ったるい味をつけた水――を注文する。ちなみに五杯目だ。

 それに眼を細めつつ、リアスが口元をナプキンで拭いた。

 

「しかし、まさかペット捜しが立て続けに四件も入るとは思いませんでしたわね。しかも私どもを名指しで」

「リアス達が加入する少し前にクリーブランド商会の猫捜しをしましたからね。

 そっち方面の噂が広まったのかも」

「クリーブランド商会の・・・なるほど」

「意外とヤバい依頼だったよなあれも」

 

 王都最大の商会の名前にリアスが頷き、ぽろっとこぼれたモリィの言葉にヒョウエが顔をしかめる。

 

「はいはいお口にチャックですよモリィ。口止め料も込みで報酬貰ってるんですから」

「わーってるよ。そう言えばお口にチャックのチャックってなんだ?」

「・・・あ、なるほど。そりゃこちらの世界にはチャックなんてありませんよね」

「ニホンの産物なのですか?」

「ええ。こんな感じで互い違いになっていて、ここのつまみを引っ張ると前が合わさって・・・」

 

 先日覚えたばかりの初歩の幻影魔法で仕組みを説明するヒョウエ。この世界、チャックはないが「お口にチャック」という言い回しだけは何故か定着している。

 

 なおチャックは(ジッパーも)登録商標で、正式にはファスナーが正しい。

 携帯カセットテープ再生機がみんなウォークマンだったり、ゲーム機が全部ファミコンだったりするようなものである(古)。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「ですからこれがこうなって・・・」

「??? 訳がわかんねえ。どうしてこれでぴったり閉じるんだ?」

「私もわかりませんわ・・・カスミはどう? わかる?」

「ええと、なんとかわかると思いますが・・・このからくりを考えた方は天才ですね」

 

 ファスナーの構造で盛上がっているヒョウエたちのテーブル。

 

「ごちそうさま」

 

 それを横目で見ながら、奇妙な男は店を出て行った。

 

 

 

 六虎亭を出た後、ふらふらと裏路地に入り込み歩き回ること一時間。

 

「うーん・・・?」

 

 男は首をかしげた。

 ならばとスラムに入り込み、狭い路地をしばらく歩く。

 

「うーん?」

 

 再び首をかしげる。

 路地の向こうから歩いてきた通行人を呼び止める。

 

「もしもし済まないね、ちょっといいかい。スラムってまだ遠いのかな?」

 

 通行人は一瞬きょとんとした顔になり、次いで笑い出した。

 

「遠いも何も、ここがもうスラムさ! あんた東の方からずっと来たのかい?

 なら、もう半分くらい通り抜けちまってるよ!」

「はい?」

 

 今度は男がきょとんとする番だった。

 

 

 

「なるほど、その王子様がスラムを文字通り立て直してくれたと・・・」

「炊き出しをして、スラムの住人を雇って街路を掃除させて、家も少しずつ建て直して、俺達スラムの人間にとっちゃ本当神様みたいなお方さ。

 母君も優しいお方で、親子二代に渡って世話になりっぱなしさね」

 

 男が腕組みをして唸る。

 

「うーん、普通裏路地とかスラムとか歩くと、大体ガラの悪い連中に絡まれるものなんだけどねえ」

「ガラの悪い連中はヒョウエ様と執事さんが片っ端から退治して回ったからねえ。

 ああ、あんたよそから来た人かい? そっちは"青い鎧"のおかげもでかいかな。

 とにかく今のメットーはどこもかしこも、女子供でも安心して歩ける町ってわけさ」

 

 自慢げな通行人に、男が溜息をつく。

 

「絡んで欲しかったんだけどねえ」

「え、何だって?」

「いや、何でもないよ、ありがとう」

 

 右手を振って、男は歩み去っていった。

 左手で剣の柄をさすりながら。

 

 

 

 その後、未練がましくスラムや下町を一時間ほどウロウロして男は六虎亭に戻った。

 既にヒョウエたちの姿はない。恐らくは杖にまたがって猫捜しをしているのだろうが、男に知るよしはないし、どうでもいいことだった。

 

 テーブルや受付ではなく、依頼の張られた壁に向かう。

 一通り眺めた後、男は溜息をついて店を出た。

 

 その後も、男はいくつかの冒険者の店を回った。

 五つめの店で、お目当ての依頼を見つけたのか依頼書を壁から剥がす。

 山賊退治の依頼だった。

 

 

 

「お姉さん、この依頼お願いします」

「はい、ではこちらの依頼受諾書にお名前とパーティ名、等級、これまで仕事をした店をご記入下さい」

「ほいほいっと」

 

 さらさらと、羽根ペンで紙に必要事項を書き込んでいく男。

 ちなみにこの世界筆記用具の主流はまだ羽根ペンだが、「かっこいいから」という理由で和風の筆を使う人間も一定数いる。

 閑話休題(それはさておき)

 

「どうぞ」

「はい、ありがとうございました。バリントンさんですね・・・お一人ですか?」

「のんびりものでねえ。仲間がいてもペースが合わないんだよね。

 一人だと気楽だしさ。あ、ひょっとして疑ってる? 本当に青等級だよ、ほら」

 

 ははは、と笑う男を受付嬢が見上げる。

 胸元から取りだした認識票は、確かに藍染めの陶片――青等級冒険者の証だった。

 

「山賊は少なくとも数人から十数人の集団と思われますが・・・?」

「大丈夫だって。特に腕利きがいるわけでもないんでしょ? そのくらいならおじさん一人で十分よ」

 

 依頼受領書に再度視線を落とす。字は意外と達筆で、教養を感じさせる。

 もう一度男を見上げる。しょぼくれているしどこかだらしないが、使い込まれた防具は手入れが行き届いており、物腰にも素人臭いところはない。

 

「わかりました。それではバリントンさんの依頼受諾を確認致します。

 ――気を付けて下さいね?」

「わかってます、わかってますとも。俺だって死にたくはないからね。それじゃ」

 

 ひらひらと手を振り、貧乏臭い笑顔とともに男は身を翻した。

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