毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-16 生クリームのひみつ

 

「優先順位の問題なんだよ。

 いい? 一番大事なのはもちろん俺の命。次にその子の命。

 その子の命は大事だけど、俺の命がなくなったらダメでしょ?

 だったら俺の命が助かるほうを選ぶしかないじゃない。依頼も達成できるし」

 

 1+1は2、とでもいうかのように軽く言い切るバリントン。

 山賊の男の脳がフリーズする。

 

「――うるせえ! とにかく武器を捨ててそこをどけ! 本当にブッ殺すぞ!」

「ひっ・・・!」

 

 再起動した山賊が、ナイフを更に女の喉に押しつける。

 血がにじんだ。女の顔が恐怖でこわばる。

 

「あーわかったわかった、しょうがないね。これでいいかい」

 

 バリントンが剣を捨てて、両手を高く上げる。

 重い音を立てて二本、長剣が床に転がった。

 

「よ、よし! そこをどけ! 俺が外に出るまで動くなよ! この小屋から出たらこいつは放してやる!」

「きゃっ!」

 

 震える女を無理矢理立たせ、引きずるように部屋の出口を目指す。

 バリントンは道を開けるようにドアの前から体をどけた。

 

「あ、そうそう」

「なんだ!」

 

 バリントンが何の気なしに口を開く。手は上げたままだ。

 震える声で山賊の男。

 

「いや、そっちのお姉さんの方。目をつぶってた方がいいよ。見たくないものが見えるし」

「・・・」

 

 どう反応していいかわからないようだったが、ともかく女は目をつぶった。

 そのまま山賊の男に引きずられて再び歩き出す。

 

「・・・?」

 

 次の瞬間、頭上と顔のすぐそばを何かが通りすぎたのがわかった。

 喉元に突きつけられていた刃の感触がなくなる。

 山賊の男の体から力が抜け、倒れるのがわかった。びしゃりと液体のはねる音。

 

「ひっ・・・」

 

 思わず身を固くしたところで、ごつい手が女の目を覆った。

 

「はい、そのまま。見ても何もいいことないからね。これから運んで上げるけど、目は閉じておくことをお勧めするよ」

「・・・!」

 

 こくこくと女が頷く。

 

「やれやれ、ガラじゃないんだけどねえ」

 

 ぼやきながらバリントンは散乱していた服を集めると、女を横抱きに抱き上げた。

 

 

 

 その様な会話が交わされている頃、ヒョウエたちは屋敷で揃って夕食をとっていた。

 

「結局、三つ目の依頼主もヒョウエ様が目的だったようです」

「腑に落ちませんね・・・何か嫌な感じです」

「同感です、ヒョウエ様。あるいはヒョウエ様の素性がばれたのかもしれませんが」

「こいつとお近づきになりたいって事か、サナさん?」

「ヒョウエくん、王子様だって隠してるわけでもないもんね。長老たちには名乗ってるし」

 

 サナの言葉に首をかしげるモリィ。リーザが溜息をつく。

 テーブル下の「隠しポケット」の背負い袋から、カスミが依頼書を二通取りだした。

 

「今日になって名指しの依頼も二つ追加されましたしね。片方はやはり猫捜し、ただもう一つは・・・」

「何ですカスミ・・・ケーキ作りの手伝い? 冒険者に頼むようなことですか?」

 

 文字を読み取ったリアスが怪訝そうな顔になり、ヒョウエが苦笑した。

 

「ああ、それは多分別口ですね」

「あ、バーバンク子爵様だっけ? 前にも呼ばれた」

「そうそう」

 

 思い出した!と手を打つリーザに頷くヒョウエ。

 

「バーバンク子爵・・・どなたでしたかしら、うっすら聞き覚えが・・・」

「夫婦揃ってお菓子が大好きなおじさんですよ。作る方も食べる方も」

「ヒョウエ君がお土産に持ってきてくれるお菓子も美味しいんだよね!」

 

 嬉しそうな顔のリーザ。その言葉にぴくりとまぶたを動かすカスミ。

 それを横目で見つつリアスが頷いた。

 

「ああ、思い出しましたわ。ですが何故ヒョウエ様が?」

「それがですね・・・生クリーム造りの手伝いなんですよ」

「「「はい?」」」

 

 三人娘の声がハモった。

 なおこの世界にも生クリーム(ホイップクリーム)は存在したが、極めて手間のかかる貴重品だったそれを、冒険者族が泡立て器の発明などでコストを下げて一般庶民にもどうにか手の届くものにしていた。

 泡立て器を一子相伝の秘伝としていたお菓子職人の一族がそのあおりを受けて衰退し、呪いの叫びを上げたという伝説があるが真偽は定かではない。

 

「つまりですね・・・生クリームの作り方知ってますか?」

「知ってるわけねえだろ」

「存じません」

「冷やした牛乳を泡立て器(ホイッパー)でひたすらかき混ぜる・・・でしたか?」

「カスミ正解」

 

 パチンと指を鳴らすヒョウエ。

 

「正確にはクリームと脱脂乳を分けたり寝かせたり色々ありますが、ともかくそれを何時間もひたすら続けなくちゃならないから、正直凄い辛い仕事なんですよ。

 おまけに上手く混ぜないと美味しいクリームにならないし」

 

 ぴん、とモリィの脳裏に閃くものがあった。

 

「そうか、お前の念動か!」

「モリィ正解。素早く大量に作れる上に僕の作るクリームはきめ細かくて質が良い、っていうのでお二人とも大変お気に入りなんですよ。

 拘束時間が一時間くらいの割に、報酬は金貨で支払ってくれますし」

 

 苦笑するヒョウエ。

 転生チートで手に入れた魔法がハンドミキサー代わりにされているとなれば、現代日本を知るオリジナル冒険者族としては苦笑するしかあるまい。

 

 もっとも、電気のない世界にハンドミキサーが九本である。

 九つの泡立て器が宙に浮いて回転し、九つのボウルをかき回す様はこの世界の菓子職人には神の御技としか見えないだろう。

 閑話休題(それはさておき)

 

「まあそっちは受けさせてもらっていいでしょう――あ、今回はメレンゲもですね。

 問題は猫捜しの方ですが・・・商家ですか?」

「はい。これまでと同じく中規模の、そこそこの商家です」

「最初はクリーブランド商会の話が伝わったのかとも思いましたが、流石にちょっと不自然ですね」

「いかが致しましょう?」

 

 問うてくるカスミに、ちょっと考えてからヒョウエは返事を返した。

 

「次の依頼達成の報告は僕が行ってみましょう。その際は何があるかわかりません、三人とも気を付けて」

 

 モリィ達が真剣な表情で頷いた。

 

 

 

「いやあ、よく見つけて下さいました!

 このご恩は忘れませんぞ!」

「いえ、冒険者として依頼を果たしたまでです」

 

 四件目の依頼の主。四十過ぎの、小太りで頭頂がハゲかかった商家の主が喜色を浮かべてヒョウエの手を両手で握る。

 どう考えても、そこそこの商家の主が緑等級とは言え一介の冒険者にとる態度ではない。猫捜し程度の依頼なら尚更だ。

 ヒョウエの方は営業スマイル。ちらり、とモリィの方を見る。

 

「いやあ、私はあの猫がいなくては昼も夜も明けませんでしてな! いやはや噂通りの腕利きだ! よろしければこれからもいいお付き合いをお願いしたいですぞ」

 

 モリィが頷いたのを確認して、ヒョウエが主に向き直った。顔は営業スマイルのまま。

 

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしたいところです。

 ところで噂とおっしゃられましたが、どちらで?」

「えーえまあ、これでも商家の主でございまして。その辺は色々と」

「なるほど」

 

 営業スマイル。

 

「で、あなたが欲しいのは僕とのお付き合いですか? それとも僕の実家との?」

「え、いやあ、もちろんあなた個人との・・・」

 

 モリィが首を振る。

 営業スマイル。

 

「それでは最後に。僕のフルネームをご存じですか?」

「いやあそれは・・・」

「知ってるってさ」

 

 モリィが肩をすくめた。

 

「いや、そんな事はございません・・・」

 

 営業スマイルが冷たい無表情に変わる。

 

「ダーシャ伯爵、王族に対する暗殺従犯容疑でこの者を捕縛せよ!

 抵抗するなら殺害してもかまわん!」

「はっ! 大人しく縛につけ! さもなくば切り捨てるぞ!」

 

 武芸の心得もない商人には目にも止まらぬ抜刀。

 後ろ手は雷光銃を構えるモリィと、捕縛用の縄を構えるカスミ。

 

「え・・・ひえええええええええ!?」

 

 目の前に突きつけられた刀の切っ先と、ヒョウエの言葉の内容。

 それが脳にしみこんだのか、主は情けない声を上げて腰を抜かしてしまった。




ダーシャ伯爵というのはニシカワ家が持つ称号です。(普通は領地である土地の名前)
例えばアメリカ独立戦争で有名なラファイエットも「ラファイエット」というのは本人の名前ではなく称号だったりします。
フルに記すと「ラファイエット侯爵マリー=ジョセフ・ポール・イヴ・ロシュ・ジルベール・デュ・モティエ」となりますね。
これをリアスに当てはめると「ダーシャ伯爵リアス・エヌオ・ニシカワ」というわけです。
名前や名字で呼ぶよりこの場合はハッタリになるかなと。
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