毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
さて、ここで種明かしをしておこう。
無論ヒョウエたちは最初からこの主を疑っていたが、それを確信に変えたのはモリィの《目の加護》であった。
表情筋、視線の動き、全身の緊張――極めて高い精度を誇るモリィの視覚は、人間の出す様々なサインを見逃さない。
子供の頃からこの力に慣れているモリィは、熟練の交渉者をも上回る精度で相手の内心を察知することができる。それゆえの今回の起用であった。
「さあ、全て白状しろ! 素直に吐くならばお上にも慈悲はあるぞ!」
「は、ひいいい! ひらに! ひらにご容赦を!」
どこの町奉行か大目付かと言いたくなるような口上を叩き付けるヒョウエ。
恐怖と混乱で顔をぐちゃぐちゃにして主が平伏した。
三人娘が呆れた表情になる。
(ノリノリじゃねえか)
(楽しんでいらっしゃいますわね)
(意外と子供っぽいところのある方ですし・・・)
(いやどこをどう切ってもガキだろ)
「私をこの場におびき寄せ、何を企んだ! 事と次第によってはそのそっ首はねて広場にさらすぞ!」
そんなことを思われているとはつゆ知らず、ヒョウエが杖を突きつけた。
主が更に情けない悲鳴を上げる。
「ぞぞぞぞ存じません! 本当でございます! うちの若い者がスラムの方との飲み話に、スラムを立て直したのがヒョウエ殿下だと言う話を聞いて参りまして!」
「ふむ、それで?」
「毎日戦隊エブリンガーとか言う変な名前のパーティで冒険者をやっていると・・・」
「よしお前車裂きの刑な」
「ひいいいいいいいいいいいいいいい!? お許しを、お許しをぉぉぉぉ!?」
真顔のヒョウエ。
涙と鼻水を垂らし、額を絨毯にこすりつける主。
呆れを通り越して哀れみの表情になったモリィが、雷光銃のグリップでヒョウエの後頭部をこづく。
「あいたっ」
「そのへんにしとけよ。大体名前が変と言われるたびに処刑してたら、メットーに住んでる奴は九分九厘処刑しなくちゃならねぇだろ」
「そこまで言います?」
「サナさんやリーザ含めて身内に賛同者が一人もいない時点で察しろ、馬鹿」
「うぬぬぬぬぬぬ」
救いを求めるようにリアスやカスミの方を見るも、曖昧な笑みを返されるだけだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、まあそれは置いておきましょう。今は・・・うん?」
平伏したままピクリとも動かない主。
どうやら緊張の余り気絶してしまったらしい。
「つまり、猫捜しなり何なりをダシにすれば僕とお近づきになって、王弟大公家とのコネクションもできるのではないか・・・と」
「はははい、そうでございます・・・!」
ヒョウエが新しく覚えた"
彼の店の若いのが、見知らぬ男と仲良く酒を飲んだ。
その話の中で色々と吹き込まれて、それを主に話した。聞いた主がそれならばと試してみたのが今回の一連の出来事だ。
王都在住の商人にとって、貴族とのコネは喉から手が出るほど欲しいもの。
ましてや王族、さらにさらに王族御用達ともなれば、これ以上の金看板はない。
商売の種が向こうの方から寄ってくる。
「取りあえず五つめの猫捜しはキャンセルですね」
「だな」
モリィと顔を見合わせて溜息をつく。リアスもだ。
「一連の事件の手掛かりかもしれないと期待しておりましたが・・・そのスラムの人間を自称する男というのはどのような?」
「は、はい、今連れて参ります」
しばらくしてやってきた男は、やや線が細く実直そうな若者だった。
「はい、なんでしょう旦那様」
「こちらの・・・」
「冒険者」
「ぼ、冒険者の方々に、お前が話を聞いた男の人相その他を教えて差し上げなさい」
「? はい、わかりました」
主の言葉を遮るヒョウエ。
その様子をいぶかしげな顔で見ながら、若者は頷いた。
「ではまず最初に。どこでどのようにして出会ったのですか?」
「あ、はい。ここから東南の方の、『ディニロス』です。場所は・・・」
「"
「は、はい」
ちょっと驚いた様子で若者が頷く。
「それで、どんな相手でした?」
「そうですね・・・ええと・・・あれ・・・え? すいませんちょっと待って下さい。ええと・・・」
眉をしかめて必死に何かを思い出そうとする若者。
しばらく部屋に沈黙が降りた。
じれたのか、主が若者を叱りつける。
「おい、何を遊んでいるんだ! 早く教えて差し上げろ!」
「も、もうしわけありません。それが・・・」
「相手の顔も声も、ぼんやり霞がかかったようで思い出せない?」
「! そ、そうです! そんな感じで!」
「?」
ヒョウエの言葉に、勢いよく頷く若者。逆に主はクエスチョンマークを浮かべている。
モリィの顔色が僅かに変わった。
「おい、それって・・・」
「ええ、"
"
モリィに頷いてみせると、ヒョウエは再び若者の方に向き直った。
「で、聞いたことがもの凄くいいアイデアに思えて、ご主人に話したと」
「は、はい」
「ふむ。"
いずれも名前通りの精神系統の術だ。
あごに手を当てて考え込むヒョウエを見て、若者がハッとした顔になる。
「・・・・・・その、まさかあなたは・・・」
いたずらっぽい顔でヒョウエが口元に一本、指を当てた。
「僕はただの術師ですよ。しいて言うなら"六虎亭の
格好をつけてウィンクをするヒョウエ。
その後ろでモリィが溜息をついていた。
結局それ以上の情報は手に入れることができず、ヒョウエたちは商会を後にした。
「しかしまた面倒くさい話になってきたなあ」
「ですねえ」
ヒョウエが溜息をつく。
「なんでこう、僕の回りにはトラブルが絶えないんでしょうね。
のんびり生きたいと心から願ってるのに」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
周囲の雰囲気を察してヒョウエが振り向いた。
「なんですかその沈黙は。何か変なこと言いましたか?」
先ほどに引き続いてモリィが再び溜息をつく。
「・・・まあなんだ、お前は取りあえず自分の胸に手を当てて考えてみような」
「よくわかりませんけど頭撫でないでくれます?」
そうやっていると、誰かが歩み寄ってきた。
じゃれ合いを中断して、四人の視線がその人物に集中する。
「おやまあ、これはこれは凄い美人さんばかりだねえ。ひょっとして毎日戦隊エブリンガーのみなさんかな?
どうも、はじめまして。青等級冒険者のバリントンと言います」
飾り気のない鉄兜に胴鎧。マントに皮の上下。
とろんとした目つきの男が、貧乏くさい笑みを浮かべて手を上げた。