毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-19 バーバンク子爵

 そんなこんなで数十分後、ヒョウエはバーバンク子爵邸の門前にいた。

 

「失礼します。ご依頼を受けました毎日戦隊エブリンガーのヒョウエですが」

「ああ、いつもの冒険者さんですね。どうぞ、お待ちしておりました。中へ」

「ありがとうございます」

 

 貴族の屋敷の門番と言えば大抵は横柄な態度をとるものだが、主の薫陶か門番の受け答えは至極丁寧なものだ。

 頭を下げてヒョウエはバーバンク子爵邸に足を踏み入れた。

 

「ヒョウエ様ですね。こちらへどうぞ」

「どうも」

 

 同じく丁寧な物腰の使用人が調理場までヒョウエを案内する。

 調理場の前で礼を言ってドアをノック。

 

「失礼します」

 

 返事を待たずに中に入った。

 中はちょっとしたホールほどもある調理場。

 木製の作業台がずらりと並び、魔導かまどや冷蔵庫などの高価な設備も揃っている。ヒョウエの実家のジュリス宮殿の調理場と比べても規模・質ともに遜色ない。

 

「おお、ヒョウエくんか! よく来てくれたな、待っていたよ!」

 

 小太りでコック姿の中年男が振り返り、喜色をあらわにする。手元には今まで刻んでいたのだろう、見事な彫刻を施されたチョコレートの小鳥。

 ヒョウエがとん、と杖を突いて一礼。営業スマイルではない笑顔を浮かべる。

 

「いえいえ、閣下。いつもお世話になっていますし」

「君はいつも頑張ってくれているからね、当然だよ」

 

 にこにこと、親しみやすい笑みを浮かべるこの人物がバーバンク子爵。

 貴族と言うよりは定食屋の主人か小金持ちの学者といった方がぴったりの人のよさげな風貌で、気品あるダンディな風貌で片眼鏡を手放さない料理長と並ぶと、どっちが主人かわからないとよく言われるような人物であった。

 横にはふっくらした同年代の女性――似たもの夫婦と言われる子爵夫人――も立っており、笑顔で一礼する。ヒョウエも笑顔で礼を返した。

 

「今日はメレンゲも作ってもらいたいから、いつもよりちょっと時間かかるけど大丈夫かな?」

「はい、大丈夫ですよ」

「うん、じゃあまずクリームからお願いするね。おーい、生クリーム準備してくれ!」

「はいっ!」

 

 若いコックたちが大きな冷蔵庫(加熱に比べて冷却は高度な術式を必要とするため、これだけでも一財産だ)からよく冷やした牛乳の入ったボウルと、氷水の入ったボウルを取り出す。 

 一抱えもある牛乳のボウルを、同じく一抱えもある氷水のボウルに重ねて、作業台にそれを九つ並べる。

 

「では、お願いしますね」

「はい」

 

 頷くと、ヒョウエが杖を掲げた。

 同じく作業台に並べられていた大型の泡立て器が九つ、ふわりと宙に浮く。

 続いて杖で作業台とボウルを指さすと、泡立て器がボウルの牛乳に先端を沈め、次の瞬間猛烈な勢いで回転し始めた。

 

「おおおおおおおおおお」

 

 ぱちぱちぱち、と料理人一同及び子爵夫妻が拍手する。

 ヒョウエが苦笑して肩をすくめた。

 

 

 

 さすがの魔導ミキサーでも、一瞬でクリーム分離とは行かない。

 一分もすると料理人たちはそれぞれ自分の仕事を再開した。

 料理長はそれらの監督、子爵は新しくライオンらしいチョコレートの彫刻だ。

 

 それらを横目で眺めつつ、ヒョウエはひたすらに泡立て器を回転させる。

 時々ボウルをちらりと確認すれば、後は自動のようなものだ。

 調理場を見渡すくらいの余裕はあった。

 

 訓練された料理人たちが、一糸乱れない動きでそれぞれの品を素材から料理に仕上げていく。

 その様はミュージカルの役者が集団でダンスを踊っているようにも、あるいは巨大な彫刻を集団で仕上げているようにも見えた。

 

「・・・・・・・・・」

 

 それらを楽しそうに観察する。

 ヒョウエはものを作るのが好きだったし、作っているのを見るのも好きだった。

 ただの木片や石ころや肉の塊でしかないそれを、人の知恵と技術で椅子や家や料理にしてしまう、その過程が好きだった。

 

「『創造とは長く骨の折れる仕事である。破壊とはたった一日の思慮なき行為である』でしたっけかね」

 

 酒と葉巻の好きな、皮肉屋で毒舌な某英国首相の言葉を思い出すヒョウエ。

 ちなみに肥満で猫背でふてぶてしい顔のイメージが完全に定着している彼であるが、若かりし頃はヒョウエもかくやという美少年であった(本当)。

 二十代でもダンディな美青年であったが、三十代になってからぶくぶく太り始めたという。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 三十分ほど経ち、泡立て器が動きを止めた。

 

「料理長、クリーム分離出来ました」

「ああ、わかった・・・うん、やはりいい出来だな。便利なものだ」

 

 片眼鏡をつけた料理長がボウルを一瞥して笑みを浮かべる。

 

「この術で美味しい料理を作れるなら、いくらでも活用させて貰いますよ」

 

 料理長が笑顔のままヒョウエの肩を軽く叩いた。

 

「それじゃ次はメレンゲを頼む」

「わかりました」

 

 先ほどと同じく手すきの料理人たちが既に用意されていた、砂糖を混ぜた卵の白身のボウルを冷蔵庫から出してくる。

 入れ替わりに抽出したクリームをバットに入れて冷蔵庫に。

 ここから数時間寝かせることでクリームがなじんで舌ざわりがよくなる。

 

「料理長! 泡立て器、洗い終わりました」

「ご苦労。じゃあ頼むぞ、ミスタ・ヒョウエ」

「はい」

 

 頷き、再び術を行使する。

 九つの泡立て器が浮き上がり、ボウルの中で回転を始めた。

 透明な卵の白身が、泡立て器の回転に応じて見る見る不透明になっていく。

 それを満足そうに見て、料理長は再びヒョウエの肩を叩くとかまどの方に向かった。

 

 

 

 ひたすらに念動で泡立て器を回転させる。

 十分ほど後。泡立った白身は空気を含んで大きく盛り上がっている。

 

(そろそろかな?)

 

 確認のために料理長を呼ぼうと、調理場の奥に視線を向ける。

 その瞬間、背後の調理台の中から影が飛び出した。

 みすぼらしいマントを纏ったその影の両手には、鈍く光る二本の長剣が握られている。

 同時に振り下ろされる二振りの剣。

 

 何かを切り裂く鈍い音。血しぶきが飛ぶ。

 九つのボウルが作業台から落ち、泡立て器とメレンゲが床に散乱した。




>酒と葉巻の好きな、皮肉屋で毒舌のイギリス人
もちろんサー・ウィンストン・チャーチルさんのことです。
興味ある人はググってどうぞ。若い頃はほんと凄い美少年/美青年です。
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