毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-20 刺客

「くっ」

 

 短くうめいて、影が後ろに飛んだ。こめかみから一筋、血が流れている。

 両手の剣は弾かれて、メレンゲの作業台を叩き割るに留まっていた。

 ヒョウエが驚いた顔で振り向く。

 

「今のをかわしますか。完全に不意を突いたと思ったんですが」

「いやあ、不意を突いたのはこっちのはずでしょ。

 お菓子作りに集中しているところを後ろから襲いかかったのに。

 おじさん自信なくしちゃうなあ。それとも、ひょっとして最初から気付いてた?」

 

 影――バリントンが困ったようにへらへら笑う。

 

「さあ、どうでしょう? ただ、身の回りが不穏でしたからね。

 用心をしておいて損は無いんじゃないですか」

 

 にっこり笑うヒョウエの周囲にはいつもの金属球。

 背後の作業台の下、戸棚の中からバリントンが飛び出した瞬間、ヒョウエはその素早く念動の魔力を金属球にスイッチし、バリントンを迎撃したのである。

 

 ヒョウエは戸棚の中にバリントンがいることも知っていたし、念入りに油を差した戸棚が音もなく開いた時にもそれを察知していた。

 前者は部屋に入ったときに発動した念響探知(サイコキネティックロケーション)の、後者は念動を応用した全周囲触覚の賜物だ。

 サナほどはっきりと周囲のものを感知できるわけではないが、数十メートルの範囲内なら大雑把に何かがあって、何かが動いたくらいはわかる。

 むしろ完全に不意を打ったと思った瞬間に逆に不意打ちを受けたバリントンが、金属球の直撃を避けた事の方を称賛するべきだろう。

 

「しかし」

 

 ちらりと作業台が叩き割られたせいで床に散乱したボウルとメレンゲに目をやる。

 

「僕を狙ったり子爵を利用した事も許せませんが、食べ物を粗末にした事も同じくらい許せませんね。この卵と砂糖と、どれだけの人の手がかかってると思うんですか!」

「あ、はい、すいません」

 

 素直に頭を下げるバリントンに、逆にヒョウエが面食らう。

 

「謝るくらいなら最初からしないで欲しいですねえ・・・」

「いや、おじさんのもくろみだとね、君だけを綺麗に斬ってメレンゲや作業台は傷つけないつもりだったんだよ。でもその玉ッコロ?で弾かれちゃったからさあ」

「斬られそうになったらそりゃ身をかばいますよ。つまり襲って来たあなたが悪い」

「おじさんもね、仕事だからね。その辺は勘弁してね」

 

 へらへらと笑うバリントン。

 すっ、とヒョウエの目が細まる。

 宙に浮く金属球に緊張が走る。

 対してバリントンの両手の剣は左右中段に広げた自然体。

 

「!」

「?」

 

 突然、金属球が一つを除いて床に落ちた。

 ヒョウエが視線はバリントンから外さないまま、調理場の奥の方に一瞬意識を向ける。

 

「あちゃあ」

 

 バリントンが溜息をついた。

 

 

 

 調理場の奥では、料理人たちや子爵夫妻が手に手に包丁や彫刻刀などの刃物を持っている。

 ただしその切っ先はバリントンやヒョウエではなく、自分の喉に向けられていた。

 

 ヒョウエの操っていた金属球が地面に落ちると同時、それらの手から刃物がはじき飛ばされる。

 どこか虚ろな目で、のろのろとそれを拾おうとする料理人たちが、見えない縄でまとめてくくられたかのように一箇所に集められた。

 ヒョウエの念動だ。それでも数が多い。もがく彼らを傷つけないよう、動けないように捕縛するのはヒョウエと言えども難しかった。

 

「こっ、の・・・精神操作、いや後催眠系の術か! 面倒な真似を・・・」

「あー・・・ごめんね。でもお仕事選べるような立場じゃないんだ、先に謝っておくよ。

 君が死ねば彼らも解放されると思うからさ」

 

 最後の金属球が落ちる。

 ゆらりと踏み出したバリントンを念動の鎖が縛るが、その動きはほとんど変わらない。

 

「・・・経絡一つ分だけとは言え、なんて筋力!」

「しょうがないね、おじさん結構強いから。それじゃ――」

 

 ヒョウエの額に汗が浮かぶ。

 バリントンが右手の剣を無造作に振りかぶる。

 ヒョウエが集中しながらも杖でそれを防ごうとして、その瞬間調理場の扉が破られた。

 

「!?」

 

 咄嗟にバリントンが跳んだ。

 雷光が三条、ヒョウエをかすめて疾る。

 

 床に転がったバリントンに更に追撃。

 両手に剣を持ったまま背筋の力だけで跳ね起き、杖のように剣をついてバリントンはそれもかわす。

 

 同時に駆け込んでくるリアスとカスミ。

 斬りかかるリアスの剣を右手一本でいなし、左からの一刀。

 リアスも深追いはせず、素早く跳び下がる。バリントンも一歩後ろに跳んだ。

 

 その間にカスミが素早くヒョウエとバリントンの間に割り込み、リアスもそれに続く。

 ヒョウエが大きく息をついた。

 

「助かりましたよ、三人とも。

 できればもっと早く来て欲しかったですけど」

「お前と違ってズレがあるんだよ。間に合ったんだからいいじゃねえか」

 

 油断無く雷光銃を構えながら、モリィが調理場に入ってくる。

 リーザの加護による、心の声の中継のことだ。

 ヒョウエ、リーザ、サナの三者間ではほぼ瞬時に意志疎通が可能だが、数ヶ月程度の付き合いである三人娘ではどうしても声が伝わるまでにタイムラグがある。

 

「いやあ、別行動してるって話だったけど・・・そこまでお芝居だったわけか。全く一杯食わされたね」

「用心に越したことはないって言ったでしょう?」

 

 汗をぬぐいながら、にやりと笑みを浮かべるヒョウエ。

 

 ――ヒョウエたちは最初からバーバンク子爵の依頼が罠である可能性を考えていた。

 そこで六虎亭で一芝居打って別行動をする振りをしつつ、三人はカスミの術で監視を撒いて付近で待機していたのである。

 

「僕は暗示を受けた人をどうにか無力化します。その人をお願いできますか?」

「わかりました」

「気を付けろ、そいつあたしの射撃を全部かわしやがったぞ」

「あら、モリィさんの腕が悪いのではなくて?」

「こきゃあがれ」

 

 ちっ、と舌打ちするモリィ。

 視線と銃口はバリントンから外さない。

 リアスもだ。

 

(――とは言え、雷光をかわしたのは偶然でもモリィさんの腕のせいでもありませんわね)

 

 リアスの目が鋭くなる。

 バリントンが雷光をかわすところはリアスも見ていた。

 最初の三連射は狙われていることを咄嗟に察知して大きく避けた。次の三連射は明らかにどこに雷光が来るかを知覚し、モリィが引き金を引く一瞬前に体をかわしていた。

 

(並じゃない)

 

 技量はもちろん、身体能力も桁外れに高い。

 よほどの実戦経験を積んで、モンスター――あるいは人間の生命の核から放射される魔力を浴びてきたのだろう。

 

(難敵ですわね)

 

 それでも勝てないとは言わない。冷静な判断だ。

 正面から青眼に構えるリアス。

 主の援護をしようと、カスミが左側から回り込む。

 右側からは、作業台を盾にしつつモリィが慎重に回り込む。

 

 バリントンは薄笑いを浮かべて両手中段。

 時折剣先がぴくりと動いてリアスとカスミを牽制している。

 

(自信。よほどの)

 

 技量は確かに相手の方が上。

 だが身体能力は白の甲冑を身につけたリアスが一回りか二回りは上回る。

 「柔よく剛を制す」とは言うが、同時に「剛よく柔を断つ」もまた事実。

 問題はその両者の合計がどれほどか、だ。

 

 バリントンの技量は恐るべきものだが、その上で怪人ムラマサほどの身体能力か、サーベージ老ほどの超絶的な技量の持ち主でもなければリアスには勝てない。

 祖父をして天才と言わしめた剣技、白甲冑の破格の身体強化に勝てるものはそうはいない。

 

(ですが油断は禁物)

 

 まさか技量でリアスを上回るほどの難敵が、彼我の実力を見誤るとも思えない。

 それはつまり。

 

(ヒョウエ様も指摘していらしたあの胴鎧・・・)

 

 何かがある。だがそれが何かわからない。

 警戒を新たにした瞬間、無造作にバリントンが踏み込んだ。

 

 虚を突かれて、ごく僅かにリアスの反応が遅れる。

 間を盗まれた。

 相手の僅かな意識のズレにつけ込む、完全にタイミングを合わせた攻撃。

 

 だがそれでもリアスの方が早い。

 カスミも反応している。

 モリィも雷光銃の引き金に力を込めている。

 

 牽制をかけたカスミの忍者刀が右手の剣で弾かれた。

 咄嗟に振るったリアスの刀が左手の剣でそらされる。

 バリントンの剣は二本。これで攻撃は防ぎ止めた。

 雷光銃をかわすために追撃は諦めざるを得ないはず。

 そうリアスが確信した瞬間、雷光が空中で弾けて飛び散り、熱い何かがリアスのみぞおちを貫いた。

 

「な・・・」

 

 ごぼりと喉が鳴り、口の端から血がこぼれる。

 確かにバリントンは達人の域に達した剣士だ。

 身体能力も恐ろしく高い。

 二刀の理を突き詰めたその剣さばきもおよそ理想的と言える境地に達している。

 

 だがそれだけで足りるわけがない。

 いくら早くてもあの怪人ほどに早いわけではなく、二刀流とは言え剣は二本。カスミとリアスの攻撃を受け止めつつ、リアスに攻撃できるわけがない。

 だから答えは、とても簡単だった。

 

「四本、腕・・・!?」

 

 バリントンのマントの下、奇怪な胴鎧から二本。剣を握った銀色の腕がにょっきりと生えていた。

 

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