毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-21 ショーグン

 四腕四刀。

 異形の神々のごとき姿。

 自前の二本の腕に長剣を握り、胴鎧の脇の下から生えた銀色の腕は、先端にやや細めの長剣がそれぞれ取り付けられている。

 カスミとリアスの攻撃を防いだのが自前の二本の腕と剣。

 リアスの腹を貫き、モリィの雷光を空中で受け止め四散させたのが銀の腕の剣。

 光り輝くそれが、ハチドリのはばたきのような、微細な振動音を発していた。

 にまっ、とバリントンの口元が緩み、すぐに引き締められる。

 

「おっと」

 

 バリントンがやや慌てたように一歩下がった。

 

「チェェェェェッ!」

 

 ほとんど同時に上段からリアスの一閃。

 自分の腹に刺さる剣の腕を狙っての一撃だったが、だが一瞬早く後退したバリントンには届かない。

 バリントンのもつれた前髪が数本切り飛ばされ、胸甲に火花が散った。

 

「くっ・・・」

「リアス様!」

 

 ごぼり、と吐血。

 動いたせいで血が逆流した。

 幸いにも刺されたのは肺ではなく胃だ。

 呼吸に支障はないが、だからと言って問題がないとは言えない。

 

「問題ありませんわ」

 

 剣の抜けた腹の傷の周辺にひきつりのような違和感。

 リアスは知らないが、これも《白の甲冑》の機能だ。

 周囲の筋肉を収縮させて、無理矢理に止血する。

 傷が治るわけではないが、失血死を先延ばしすることはできる。

 そんな事を理解しているわけではなかったが、リアスはもう一度はっきりと言った。

 

「問題ありません」

 

 

 

(参ったねえ)

 

 バリントンは内心で嘆息していた。

 「白のサムライ」の末裔、ニンジャとおぼしき少女、そして雷光銃の使い手。

 一人一人なら斬って倒す自信はあったが三人、それもかなりの連携を積んでるとなるとたやすく倒せる相手ではない。

 

(こいつを見せたからには全部斬っておきたいんだが、というか今ので少なくとも白のサムライのお嬢ちゃんは殺れると思ったんだけどねえ)

 

 高速で震動する「ハチドリの剣(ヴァイブローブレード)」を突き込む瞬間、バリントンは咄嗟に狙いを心臓から胃に切り替えた。心臓と胸は筋肉の収縮が激しく、剣が咄嗟に抜けない可能性がある。

 そして腹を刺された状態でなお、リアスは踏み込んで上段の一撃を放ってきた。

 心臓を刺した場合リアスを無力化できてはいたかもしれないが、腕を引くのが一瞬間に合わず、最後の一撃で腕を切り落とされていただろう。

 

 殺害できていればまだしも、今の呼吸を整えて剣を構える様子を見ると、心臓を刺していても戦闘を続行する恐れがあった。それで腕一本は割に合わない。

 それを見切っていたわけではないが、勘に従ったのはどうやら正しかったらしい。

 そこまで考えて、バリントンは次の瞬間、モリィの言葉に目を丸くした。

 

「・・・思い出した! お前ひょっとして『ショーグン』か!?」

「おやまあ」

 

 今度ばかりは心底驚くバリントン。

 もっともその表情や口調から違いは判別できないが。

 

「よく知ってたね、そんな古い名前。おじさんだって忘れかけてたのに」

「盗賊ギルドに『違い目』って情報屋がいてな。昔話に話してくれたのさ。四本腕の馬鹿みてぇに強い剣士がいたってな」

違い目(ヘテロクロミア)・・・ああ、ソルの奴か? やだなあ、面倒な奴が生き残ってたもんだ」

 

 嘆息する。

 モリィの返事は無言の乱射。

 

「たっ! とっ! はっ!」

 

 顔をこわばらせながらもそれをかわし、かわしきれないものは銀の腕のハチドリの剣で弾くバリントン。高速震動してきらめく銀の刀身は、どういう訳か魔力の塊である雷光を弾いて四散させることができるらしい。

 

「はっ!」

「――!」

 

 そして同時に斬り込むリアスとカスミ。

 僅かに動きが鈍いとは言え、正面から白の甲冑の膂力と速度で斬り込んでくるリアス。

 低い位置から足を狙ってくるカスミも、剣使いとしてはやりづらい相手だ。

 

 そして後方、調理場の奥の方ではヒョウエが可能な限り手早く、子爵夫妻と料理人たちを物理的に拘束している。

 バリントンの額にじわり、と汗がにじんだ。

 

 今のうちに彼女らを突破しなければ、あの念動の術が全力で自分に襲いかかるだろう。

 一対一ならひょっとしたら活路はあるかも知れないが、それまでに少なくとも三人を倒しておかないとバリントンにはもう手の打ちようがなくなる。

 だが今の三人を手早く突破する手段がバリントンにはない。

 

(いや、あるっちゃあるけど・・・使いたくないんだよなあ)

 

 顔をしかめた瞬間、バリントンの後方に何者かが出現した。

 

「「「「「!」」」」」

 

 ヒョウエとバリントンを含めた、その場にいる全員が吃驚する。

 現れたのは召使いのお仕着せを着た男。

 ヒョウエを調理場まで案内したあの男だ。その両手には数十本の異様な光を反射する太く長い針。振り向いたバリントンが棒手裏剣と同様の武器だと見てとった瞬間、男が針全てを投げはなった。

 

「!」

 

 バリントンの右脇を通るように放たれた針。

 そのうちの何本かをバリントンの剣が叩き落とし、召使いの男――そう化けた暗殺者が顔を歪める。

 残りの針が飛ぶ先はヒョウエ。

 

「ヒョウエ様!」

 

 それを悟ったリアスの声も一手遅い。

 魔術的な強化がかかっているのか、矢よりも速い速度で毒針がヒョウエに迫る。

 何もない空閑からいきなり放たれた銃弾に等しい攻撃。

 

 とはいえ、術の切り替えと発動にほとんどタイムラグを要さないヒョウエにとっては、念動障壁を張るのに十分な時間である。

 魔力の発動を感知した暗殺者はしかし、それでも内心ニヤリと笑った。

 

(あの針には全て解呪の術が仕込んである。どれほど強力だろうとも、魔法である限り無効化して貫通できる)

 

 強力な催眠の術を操る暗殺者、バーバンク子爵家という罠、バリントンという捨て駒の囮、そして極めて高価な解呪の毒針。

 それだけのものを重ねて得た、逃れ得ぬ必殺の一瞬。

 だが、その自信は一瞬にして、文字通り「ひっくり返」される。

 

「っ!?」

 

 ヒョウエが左手を床に突く。

 それと同時に床板の石が数枚めくり上がり、ヒョウエと子爵夫妻、料理人たちを守る盾になった。

 間髪を入れず数十本の毒針が石板に突き刺さる。

 

「うわぉ」

 

 石の床板を貫通して目の前で止まった毒針を見て、ヒョウエが思わず冷や汗を流した。

 

 

 

「くっ!」

 

 必殺の罠を回避され、愕然とする暗殺者。

 だが素早く頭を切り換え、次の行動をどうするか考えたところで、バリントンの――生身の――右手がそののど首をぐいと掴んだ。

 

「なっ」

 

 そのままバリントンが、無造作に暗殺者をリアスに投げつける。

 両断しようとして、咄嗟に刃を返して暗殺者を叩き伏せた。

 刀の背が暗殺者の脇にめり込み、アバラの折れる嫌な音が響く。

 

 その時にはもう、バリントンは身を翻して壁際に向けて駆け出していた。

 駆けながら、四本のうち左の二本の剣でカスミを狙う。

 正面からぶつかってはカスミに勝目はない。やむを得ず間合いを外す。

 それによって空いた空間をバリントンが走り抜ける。

 ヒョウエは盾にした石畳で視界が遮られている。

 

「ちっ!」

 

 モリィが雷光銃を構える。

 得意の三点射。

 

「!?」

「くっ!」

 

 雷光がマントを貫き、バリントンの脇腹をかすめる。

 だがバリントンの動きは鈍らず、大きなゴミ箱を開けてその中に飛び込んだ。

 

「え!?」

 

 慌てて駆け寄ったリアスが見たものは、真っ暗な穴。

 飛んできたヒョウエが覗き込んで頷いた。

 

「ああ・・・下水直通のゴミ捨て穴ですね。古い屋敷には多いと聞きます」

「追いますか?」

「暗く入り組んだ地下道で、腕利きの暗殺者を相手に? やめておきましょう」

「で、ございますね」

 

 カスミが溜息をついて頷いた。

 モリィも雷光銃を下ろして大きく息をつく。

 ヒョウエがその顔をちらりと見るが、何も言わない。

 口に出したのはリアスだった。

 

「モリィさん」

「あんだよ」

「あなたなら外す距離ではないでしょう。相手はヒョウエ様を狙った暗殺者でしてよ」

「・・・わざとやったわけじゃねえよ」

 

 答えにくいというか、きまりの悪そうな顔になるモリィ。

 

「モリィさん?」

 

 リアスの声の調子が半オクターブ上がった。

 

「それは・・・」

「彼が、料理人たちに命中しそうだった毒針を弾いたからじゃないでしょうか」

「えっ!?」

 

 リアスの傷を癒しながらヒョウエ。

 リアスとカスミが揃って驚く。モリィが頷いた。

 

「あの時、あいつヒョウエに当たらない奴だけを選んで剣で弾いたんだ。

 そのまま飛んでたら、そこの端っこで転がってるコックたちに当たってた」

「・・・!」

 

 目を丸くするリアスとカスミ。

 角度的に彼女たちからではそれはわからず、狙われたヒョウエと《目の加護》によって高度な空間把握能力を持つモリィだけがそれを理解出来たのだろう。

 その困惑が撃つ手をブレさせたのかも知れない。

 カスミが戸惑うようにモリィを見上げる。

 

「料理人の方々を守った、ということでしょうか?」

「裏の奴らにも色々あってな。表の連中に迷惑かけるのを何とも思わない奴らもいれば、カタギには絶対手を出さないって奴もいる。あのおっさんは多分後者なんだろうさ」

「・・・」

 

 リアスは難しい顔をしていたが、取りあえずモリィを追求するのはやめたようだった。

 はあ、とヒョウエが溜息をつく。

 

「しかし、僕だって表のカタギなんですけどねえ。手を出しちゃいけない対象には含まれないんでしょうか?」

 

(・・・ご自分が王族でスラムの統治者であちこちの事件に首を突っ込むお節介という自覚はないのでしょうか?)

(か、カスミ!)

 

 リアスとカスミが小声で何かを言い交わし、モリィが無言で肩をすくめた。

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