毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「ヒョウエさまばいばいー!」
「はい、さようなら。もうそろそろ日が暮れますから早く帰りなさい」
「はーい!」
やがて子供達が散っていき、後にはヒョウエとモリィ、そしてナヴィが残る。
「で。領主様ってのはどういうこったよ?」
「だからそのままの意味よ。このスラム街は丸ごとヒョウエさまの土地なの」
「ほわっ!?」
顔のデッサンが崩れたような表情でモリィが大口を開けた。
「いやその・・・待てよおい! スラム丸ごと!?」
「このスラムね、潰されかかってたのよ。犯罪の温床だからって。
当時は"青い鎧"もいなかったしある意味しょうがない話なんだけど、住んでる私たちにしてみれば『しょうがない』で済む話じゃないわよね」
肩をすくめるナヴィ。
ここから追い立てられると言うことは、王都からも追い立てられると言うことである。
この時代、大都市でも壁の外には狼や、稀に地上に適応したゴブリンなどのモンスターも出没する。人間の追い剥ぎなどもだ。
武力を持たない人々が安心して暮らしていける環境ではなかった。
「それでね、この人がスラムの土地を丸ごと買い取って私たちが暮らせるようにしてくれたの。私たちの暮らしの面倒も見てくれたりして・・・ね、領主様でしょ?」
「ただの地主ですよ。自治会にしても実際に動かしてるのは長老衆ですし」
「そのおじいちゃんたちをまとめてるのがあなたじゃない。だからせめて『税金』を受け取ってくれないかなー、なんて思うんだけど」
「受け取っても予算の足しにならないので、現金化して自治会に収めてください」
「あーん、領主様のいけずぅ」
ナヴィにじゃれつかれるヒョウエをモリィは呆然と見ていた。
この世界、基本的に土地は国王の所有物である。貴族の領地も建前としては王から下賜されたものであり、都市での土地の売買もあくまで「土地使用権」の売買だ。
だから領主というのもふざけて言っているだけだろうが、家一軒程度ならともかく王都の1割以上の面積を持つ広大なスラム全てとなると、いくら金があってもそうそう許されるものではない。
よほど高位の貴族か下手をすると王族の・・・と、そこまでモリィが考えたところでナヴィがヒョウエから離れた。
「余り引き留めても悪いし、私行くわね。領主様もお仕事頑張ってちょうだいな」
「はいはいどうも。ナヴィさんもお仕事頑張って下さい」
「はーい」
苦笑するヒョウエに投げキッス。歩み去ろうとしたところで思い直したようにナヴィがモリィに歩み寄った。
「な、なんだよ?」
とまどうモリィの耳に口を寄せる。
(領主様をお願いね? 冒険者って事は危険なこともしてるんでしょう?)
(そりゃまあそうだろうがよ・・・ぶっちゃけ一人でも大丈夫だぞあいつ)
思わず小声で返したモリィに、今度ははっきりと苦笑を浮かべる。
(かもしれないけどね。あの子が仲間とか友達を連れて来たの、あなたが初めてなのよ。きっと信頼されてるんだわ。だからお願い。あの子を支えて上げてね)
(そりゃまあ仲間だから、必要なら支えるけどよ・・・)
「ふふっ、ありがと」
これははっきりと口に出して、ナヴィがモリィをハグする。戸惑うモリィと肩をすくめるヒョウエにウインクしつつ、今度こそナヴィは去っていった。
「しかしこのスラム全部がお前の土地か。いくらかかった・・・おい、まさか例の借金って」
「ええまあ」
ヒョウエが肩をすくめる。
「それじゃお前が銭ゲバしてたのも借金返済の?」
「それだけでもないんですよ。もっと恐ろしい相手がいましてね。借金の方は担保があるのである程度待って貰えますが、待って貰えないお金もあるんです」
「・・・盗賊ギルドにでも借りたのか?」
「まさか。その程度の話ならこんなに悩みませんよ」
この上なく真剣な表情。
モリィがごくりとつばを飲み込む。
「おい、それじゃあ一体・・・」
「それは・・・」
「それは?」
「固定資産税です」
思いっきりシリアスな顔でヒョウエは言ってのけた。
一瞬硬直していたモリィが再起動した。
「あ・・・アホか!?」
「アホとは何です! 税吏ってのは下手な犯罪組織より怖いんですよ!?」
思わず突っ込んだモリィに、真っ向からヒョウエが反論する。
元より徴税人というのは天下の嫌われ者だが、商業が盛んなこの世界では前近代では普通あり得ない所得税や法人税に相当する税が既に存在する。
有力商人というのは基本的に武力も抱えているため、そうした税を導入したばかりの頃は力づくで抵抗することがままあった。その頃の名残で、税吏には独立した武力の保持とかなりの強権が認められている。
アル・カポネだって殺人や密輸ではなく、脱税で逮捕されたのだ。
そうした近代的な税務署が、既にこの世界にはあった。
アンタッチャブルごっこをしたい冒険者族が暗躍していたとまことしやかに伝えられるが、真偽の程は定かではない。
なお現在一番高い税収を誇るのは酒税である上に、密造酒で利益を上げようとするものは絶えない。件の冒険者族の望みは十分以上に叶えられたと言えるだろう。
「それじゃダンジョンの権利を売り飛ばさなかったのも・・・?」
「一定の収入を長期間確保できるのは極めて魅力的ですからね。売却だと多分十年しないうちに尽きます。
後、あのダンジョンは立地が理想的でしょう。一時金より持ち続けて入場料をもらい続けた方が間違いなく得ですよ」
「なるほどなあ」
そんな事を話しながら歩いていくうちに、周囲は夕暮れの赤い光に染まっていた。
広大なスラムの奥へ奥へと二人は歩いて行く。
やがてかなり薄暗くなった頃、二人は大きな屋敷の前に出た。相当に古いものだがそれなりに手入れはされていて、廃墟とかお化け屋敷という感じはしない。
「ここが?」
「ええ、僕の家です。どうぞ、モリィ」
「お招き光栄に存じます、領主閣下」
「よしてくださいよ!」
ふざけて一礼するモリィにヒョウエが吹き出した。
屋敷の中の様子もおおむね外から想像したようなものだった。
古びてはいるが清掃は行き届いている。
玄関ホールから階段を上って右側の廊下を歩いていく。
「ん」
ヒョウエが足を止めた。
廊下の角から執事服を完璧に着こなした女性が現れ、きびきびした動作で一礼する。
ちなみにこれも冒険者族が持ち込んだものだがそれはさておき。
「お帰りなさいませ、ヒョウエ様。そちらのかたは例のご同輩でしょうか?」
「ただいま、サナ姉。モリィ、こっちはサナ。僕の世話してくれてる人。サナ姉、こっちはモリィ。話してたエブリンガーの仲間」
「お初にお目にかかります。どうぞお見知りおきを」
「モリィだ。よろしくな」
やはりきびきびと礼をする執事に軽く会釈する。
モリィより頭半分は大きい。175はあるだろうか、女性としてはかなり長身である。
豊満だが均整の取れた、鍛えた体付きが執事服の上からでもわかる。
腰までありそうな長い黒髪を頭の後ろでアップにまとめている。
凜とした、という表現がぴったりの男装の麗人であった。
「・・・」
その凜としたまなざしがちらりとヒョウエに向く。視線に微妙な色があった。
「なあ、サナさん」
「サナで結構ですよ。なにか?」
「ああその・・・毎日戦隊エブリンガーって名前、どう思う?」
「・・・わたくしからは何とも」
サナがさっと目をそらす。
ヒョウエはもの言いたげにしていたが、さすがに空気を読んで何も言わなかった。
「ところでサナ姉、リーザは?」
「リーザ様なら恐らくお部屋のお掃除かと思いますが」
「ありがと」
一礼して女執事が去っていく。
その背中を少し見送った後、モリィはヒョウエの後を追って歩き出した。