毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
04-22 前兆
「2011年3月11日14時46分18.1秒」
――東日本大震災発生時刻――
「くそっ! しくじりおって!」
ウィナー伯爵が拳を机に叩き付けた。
伯爵家の書斎である。
「・・・」
周囲には主の激昂にも動じず、不動で直立するいくつかの人影。
「クレーラーが捕らえられたのは痛いな。そう簡単に口を割るとも思えんが・・・」
「"
「だろうな」
舌打ちをするウィナー。
あの後、王国諜報機関に引き渡された催眠術使いの暗殺者のことである。
"
話術による心理操作、物理的な拷問、魔術を使っての肉体や精神への干渉。
暗殺者クレーラーは強い意志と忠誠心の持ち主だが、それでも"
「やむを得ん。可能な限り早く動くしかあるまい。
アイアン・スカルから接触はまだないか?」
「はっ、あの一件以来音沙汰がありません」
「所詮は蛮族出身の脳足らずか。転送棺の調整も呪縛のマント止めも全部こちらでお膳立てしてやったというのに――いや、あれは放蕩王子の動きが見事だったか」
再び舌打ち。
「石材や木材の買い付けは順調だな?」
「はい。主な生産地には既に人を配しております。追加の要請にも応えられるかと」
「よし。大工や石工ギルドに引き続き手を回すのも忘れるな」
「はっ」
これがウィナー伯爵にとっての、メットーを破壊するメリットであった。
人為的に大災害を起こし、抑えておいた資材や人材を高く売り抜ける。
それによって得られる財は、彼をディテク一の大富豪に押し上げるはずだった。
「"青い鎧"はいかが致しましょう。恐らくは出てくるかと思いますが」
「
万が一止めたなら、それはそれで絶好の機会だ。とにかく発動まで遺跡の場所を気取られぬ事だけを考えろ――本番のためのエネルギーはいつ溜まる」
「報告では三日か四日と」
ウィナーが頷いた。
手元の小像をいじると、壁の本棚がスライドして隠し扉が現れる。
「よし。それまで私は『あれ』の調整に集中する。計画の進行は任せたぞ」
「はっ」
影達の礼を背に、ウィナー伯爵は隠し扉の中に入っていく。
扉が音もなく閉まった。
「うめえ・・・」
「これは・・・おいしいですわね」
「・・・! ・・・!」
感嘆の声を上げるモリィとリアス。
ひたすらお菓子を口の中に詰め込むカスミ。
そのころ、ヒョウエの屋敷ではお茶会が開かれていた。
チョコケーキ、バウムクーヘン、クッキー、甘納豆、羊羹、カステラ、月餅、胡麻団子、花を封じた透明な飴、ナッツをカラメルで固めたシリアルバーのようなもの。
オリジナル冒険者族が四千年間積み上げてきた涙と汗の結晶、欲望の行き着く果て。
食堂はさながら国籍どころか世界も問わない、お菓子の博覧会の様相を呈していた。
「バーバンク子爵様のお土産だよね? 一体どうしたの、こんなに沢山?」
ペア(丸ごとバナナを生クリームと薄いスポンジで包んだケーキ)を切り分けながらリーザが首をかしげた。
モンブランケーキを念動で宙に浮かべて丸かじりしていたヒョウエが、口の中のマロンクリームを香草茶で洗い流す。
「ヒョウエくん、お行儀悪い」
「モンブランは切ると崩れやすいから面倒なんですよ・・・まあ、例の一件で子爵が大変感謝してくれまして。それでお土産をどっさりくれたんです」
「ああそれで」
「どっちかというと僕が巻き込んでしまった方なんですけどねえ」
いささか申し訳なさそうなヒョウエ。
とは言えあの後解呪の術をかけて、姉と交渉して諜報機関の精神術の専門家のケアを受けられるように手配したのもヒョウエである。そういう意味では恩義も十分にあった。
「しかし壮観ですね。一週間くらいは朝昼晩お菓子だけでいけそうです」
こちらはベイクドチーズケーキを上品に口に運んでいたサナが楽しげに言う。
「それは流石に勘弁ですね。保存の利くものが大半ですし、今日明日で生ものだけ片付けてしまいましょう」
「大丈夫でしょう、カスミが頑張ってくれてますし」
リスかハムスターのようにはむはむはむと、ひたすらお菓子を食べ続けるメイドを見ながらリアスが微笑んだ。
普段から甘いものが好きな彼女だが、目の前に広がる圧倒的な甘味の無法地帯、糖分の
隣で交わされる会話も、時折主人に口元をぬぐって貰っていることにも気付かずに少女はこの夢の世界を堪能し続ける。
カスミが我に返って盛大に悶え転がるまで後十二分三十秒。
「あの男はどう?」
「手強いですね。ダーシャ伯が気絶させてから術を使う隙は与えなかったはずですが、あらかじめ自分の記憶をブロックするような術をかけていたようです」
"
「随分優秀な部下を抱えていること。ウィナー伯爵は良い人持ちね」
「その点は認めざるを得ませんな。部下の育成に随分と投資しているようで」
部下が物言いたげな笑みを漏らす。
カーラもからかうような笑み。
「あら、もっと予算が欲しいって? 我慢しなさい。どこも厳しいんだから」
「わかっておりますとも。活動資金は可能な限り節約して動いておりますよ」
「けっこう」
互いに笑みを交わす。
長身に禿頭、彫りの深い顔立ちのこの部下は、祖父の懐刀だった男だ。
才能があるとは言え弱冠二十才でカーラが諜報機関の長を務められているのも、この男の力によるところが大きい。
「それにこの件では後手後手だものね。予算獲得のためにはまず実績を上げなきゃ」
「心得ております」
「頼むわよ、"
「無論のこと」
きびきびした動作で"
諜報活動とディテク王国に全てを捧げた男。彼の本名はカーラも知らない。知っているのは死んだカーラの祖父――先代の"
「さて、私もヒョウエに笑われないように仕事しなくちゃね」
うん、と伸びをして、カーラは目の前の大量の報告書を片付けにかかった。
「それでジョエリー、ヒョウエはその後どうした?」
「冒険者の仕事は休んで、家で大人しくしていろと言ったのだがな。それなら遺跡の場所を探す手伝いをすると言って学者たちに混じって
国王の執務室。
マイアとジョエリーの兄弟が顔を付き合わせて話している。
「命を狙われたというのに図太い奴だな。まあオリジナル冒険者族でお前と
どこか遠い目の兄をジロリと睨む弟。
「言ってくれるじゃないか兄者。そんなことを言うなら兄者の子は
「・・・カーラは繊細な子だ。そんなことはない」
一瞬口ごもる兄に、にやりと意地の悪い笑み。
「そうかな? もう徴候は現れてきてるぞ。今は純真に見えるが、五年もすればカーラも・・・」
「やめろ! 言うな! カーラは、俺の末娘はいつまでも素直でかわいい娘なんだ!」
頭を抱えてマイアがわめき、ジョエリーが満面の笑みを浮かべる。
「それで? わたくしはいつまでこの
先ほどからずっと無言で二人の会話を聞いていた老人が冷たく言い放つ。
兄弟二人が揃って咳払いをした。
フィリップ・ワイリー。二人の祖父、ヒョウエの曾祖父の代から王国に仕える老人だ。
内政の長である宰相であり、国王であるマイア、軍の長であるジョエリーと並んで王国のトップ3であった。
「改めてお尋ねしますが、私はこのまま帰ってよろしいのでしょうかな」
「・・・悪かったからそう睨むな。甥ッ子が殺されかけたのだ、心配にもなろうが」
「あの方は強い方ですよ。命を狙われた程度でどうにかなるほどヤワではございません。
わたくしとしては、むしろ歳を食っても全く成長の跡が見られないお二方の方が気になるところですな」
僅かに笑みを浮かべる老人。兄弟二人がばつの悪そうな顔になった。
「まったく、これだからおまえはやりにくいんだ」
「幼い頃からいたずら小僧二人に付き合ってきた、些細な代価と言うところでしょうか」
笑みが大きくなる。おほん、とマイアが再度咳払い。
「まあともかくお前達を呼んだのはだ。農業研究所のウィンスローから報告があった」
「?」
ジョエリーとワイリーが顔を見合わせた。
「この状況で農業研究所? フィル爺はともかく俺に関係のあることか?」
「ウィンスローは優れた
「・・・それはつまり・・・」
「そうだ。『本番』が近づいている」
それきり、部屋にはしばらく沈黙が落ちた。