毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
案内されたのは書庫だった。規模はメットー王宮のそれにも劣らない。
「ここがエルフの書庫ですか! いやあ、許されるなら一ヶ月くらい滞在させて頂きたいところですね!」
目をきらきらさせるヒョウエにセーナが微妙な表情になり、サーワがくすっと微笑む。
「そう言う感覚はわからんな・・・私はこう、弓の稽古でもしている方が楽しいのだが」
「ダメですよセーナ様、もっと書にも親しまねば。族長を継ぐなら武芸だけでは足りないと、お父様にも言われているでしょう」
「それは・・・そうだが」
リアスがカスミに同様のお小言を言われていたとはつゆ知らず、今度はヒョウエがクスリと笑った。
「さて・・・地脈上の、真なる魔法の時代の遺跡についてでしたね」
言いながら、サーワが書棚に並ぶ本の背表紙に手をついた。
「~~~」
「む?」
サーワが何かを口ずさむと手から流れた魔力が本棚と本を駆け巡った。
やがて本棚から手を離したサーワが書庫の奥を指し示す。
「こちらへどうぞ」
一分ほど歩いたところで、サーワが棚から二冊の本を抜き出す。
向かいの棚からもう一冊。
「遺跡の位置についてはこの三冊に書かれております」
「おお! 便利な魔法ですねえ!」
セーナが得意げに胸を張る。
「サーワは本の魔法の使い手だからな。ここの本ならどこに何があるかすぐわかるんだ」
「司書ですからね」
妙齢のエルフの美女が微笑んだ。
書庫内の机に移動して本を広げる。柔らかい魔法の光がページを照らした。
「ズールーフの森の遺跡がこれ、北の方の地脈周辺の地図がこちら、人族の都周辺から南にかけてはこれですね。ただ、私どもも把握していない遺跡がある可能性はお断りしておきます」
「それはもちろん。では失礼しまして・・・」
かばんの中から和紙の束を取り出す。
続いて
「紙がありますなら私が」
「そうですか? ではお願いします」
興味深げに頷くヒョウエ。
目がちょっとキラキラしているのが見て取れて、エルフの美女が再び微笑んだ。
「~~~」
再びサーワが呪文を口ずさむ。左手の人差し指は広げた本の一冊に、右手の人差し指はヒョウエの出した紙の一枚に。
ヒョウエの魔力視覚が、本のページをなぞる魔力を感知する。
魔力がページをなぞるに従い、紙の上に同じ線が描かれていく。
「おお・・・」
セーナもこれは見たことがなかったのか、感嘆の声でそれを注視している。
この世界で一般的な植物性のインクとも、和風の墨とも違う黒い線が和紙の上を走る。
数秒で模写は完了した。
「これはまた便利な・・・神授魔法にも複写の術はありますが、ここまでお手軽じゃありません」
ヒョウエも同様の術は使えるが、ヒョウエの術力と処理能力をもってしてもこのような複雑な地図を綺麗に写すには一分ほどかかる。
(おそらく図形を見て写しているのではなく、地図という概念、本という概念をそのまま紙に写してるんですねこれは)
「残り二枚もちゃちゃっとやってしまいますね」
十秒後、真新しい模写三枚が完成していた。
原本と付き合わせて漏れがないかどうか確認すると、ヒョウエが頭を下げた。
「ありがとうございます、サーワさん。時間が節約できました」
「お役目ですので」
微笑むサーワ。
「それでは早速これを王都に届けてきます。セーナさんもありがとうございました。
またこちらにくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「うん?」
何を言っているのだお前は、という顔のセーナ。
「うん?」
ヒョウエも同じような顔で首をかしげた。
「私もついていくぞ。この件の間はお前について助けてやれと、お爺様はおっしゃられた。世話をするというのはそう言う事だ」
「あー。ではもうしばらくよろしくお願いします。メットーの王宮に行きますけど問題ありませんか?」
「ああ。許される限り、お前についていこう」
満足そうな笑みを浮かべ、セーナが頷いた。
世界樹の王宮を出て、来た道を戻る。
広場から再び
足止めされるのが面倒なので、城門はスルーする。
そのままメットー北部中央の王宮へ飛ぶ。セーナに言ってあらかじめ「エルフの隠れマント」は発動させてあった。王宮の前庭に着地。衛兵たちが駆け寄ってくる。
「何者・・・これは、ヒョウエ様。失礼しました。ですが・・・」
「すいませんね、状況が状況なもので。もう一人客人がいるんですが、今姿を見せますので驚かないで下さい」
「は?・・・え、ええええええええええ!?」
ヒョウエの横に孔雀鷲とセーナが姿を現す。
衛兵たちがあるものは絶叫し、あるものは口をあんぐりと開けた。
「まず玉座の間で伯父――国王に謁見して状況を伝えます。いや、今時分ならまだ執務室かな。その後は書庫で写しを学者たちに渡して、仲間と合流してから捜索開始です」
「うむ」
少女のような美貌の少年と褐色銀髪の凜とした顔立ちのエルフの少女が王宮の廊下を歩いていく。
すれ違う廷臣や侍女たちはあるいは呆然と立ち尽くし、あるいは頬を染めてそれを見送る。腰を抜かしてしまうものもいた。
そうした廷臣たちの一人から伯父がまだ執務室にいることを聞き出して、ヒョウエたちは王のもとへ向かった。
「失礼します、陛下」
「ヒョウエか、どうし・・・ぬぉっ?!」
ワイリーと何かを話していたマイアが、大声を出してのけぞる。
振り返ったワイリーはのけぞることこそなかったが、それでも絶句した。
「伯父上、フィル爺。こちらズールーフの森の族長トゥラーナ様の孫にあたるセーナさん。セーナ、こちらが僕の伯父、ディテク国王マイア・ジェイ・ボッツ・ドネ陛下。あちらは宰相、そちらで言えば内の長であるフィリップ・ワイリー侯爵閣下です」
「かたじけない。人族の王よ、私はズールーフの森のエルフが一族、セーナ。
そなたら風に言うのであれば『
ようやく気を取り直したマイアが頷いた。
「う、うむ。丁寧な挨拶痛み入る。ディテク国王マイア・ジェイ・ボッツ・ドネである」
「宰相を務めさせて頂いております、グラディ侯爵フィリップ・サベッジ・コライド・ワイリーです。・・・エルフなど、半世紀ぶりに見ましたよ」
あ、と何かを思い出したようにヒョウエがワイリー侯爵の方を向く。
「そう言えばフィル爺、昔エルフの森に使者に行ったことがあるんだっけ?
じゃあ僕の前、数十年前にエルフの王宮に立ち入った人間ってフィル爺のこと?」
父親達がフィル爺呼びするので、自然と身についた呼び方で宰相を呼ぶヒョウエ。
口調も家族に対するように砕けたものになっている。
実の祖父、マイアたちの父は早世しているので、彼がヒョウエたち王族の子供にとっては祖父のようなものであった。
「はい、そうなりますかな。まだ30かそこらの若造でしたが、未だにあの雄大な情景は忘れられません」
「ほぉ。あなたがあの時の使節か。意外な縁があったものだな。私もあの時は幼かったから、兄と一緒に人間を一目見ようと王宮の廊下にこっそりと隠れていたものだ」
「おや、それはそれは」
驚いた表情になったあと、ワイリーが頬をゆるめる。
「それで、この顔を見てご満足頂けましたかな」
「いやあ・・・申し訳ないが拍子抜けだったな。エルフではないが、それだけだ」
苦笑するセーナ。ワイリーは微笑み。
「エルフも元は人族より産まれたものですからな。大きくは違いませぬでしょう」
「だな」
セーナが笑って頷く。
「すまぬ、話がそれたな。この件で族長はあなた方人間と協力するつもりだ。
既にエルフの領域にある遺跡には調査隊が差し向けられているはずだし、使者を出せば色よい返事を返すだろう」
「そうか、ありがたい! この地図の写しも含めて感謝する」
「こちらこそ原因を教えて貰って感謝に堪えない。自然現象ではいかんともしがたいが、人工的なものであれば止められる可能性があるからな」
「その通りだ」
マイアとワイリーが真剣な顔で頷く。
「先だっての地震ではここメットーでも百人を超える死者が出た。
青い鎧がいなければ、あるいは千人、一万人の犠牲者がいたかもしれん。
二度とその様な事を起こすわけにはいかん」
「はい」
同じく真剣な顔でセーナとヒョウエも頷いた。
「ところで」
「?」
ちらりとヒョウエを見下ろすセーナ。
「その青い鎧というのはいったい? ヒョウエ王子から名前だけはちらりと聞いたが」
僅かに笑みを含んだ声。
ヒョウエはポーカーフェイス。
「そうだな、人々を助ける謎の戦士だ。強大な力を持ち、メットー周辺で活動している。
一年ほどでこの都の犯罪の大半を撲滅し、ここ最近数ヶ月だけでも暴走した真なる魔法文明の時代の巨人兵器を破壊し、身の丈200mに達する怪人を打ち破り、夢の中に引きずり込まれた人々を救っている」
「夢の中?」
「心を操る能力を持った怪人だったらしいが、詳しいことはわからん。これについてはヒョウエの方が詳しいのではないか?」
「なるほど、確かに詳しそうだな」
「・・・」
楽しそうに笑うセーナ。
それから数分、ヒョウエは苦労してポーカーフェイスを保ちつつ、いかにもそれらしく聞こえる「推測」をでっち上げて語るはめになった。