毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
本のカオス。
部屋の中はそう表現するしかない惨状だった。
歴史書に政経書、思想書や魔術書らしきタイトルがあるかと思えば小説、詩集、薬草書、旅行記、貴族名鑑、グルメ本、農業書、犬の飼い方指南。
人を殴り殺せそうな鉄表紙の巨大な本もあるし、和紙を糸で閉じた和綴じ本も、羊皮紙の巻物や木簡もある。
それらが本棚からあふれ出し、棚や床、ベッドの上にまで乱雑に積み上げられている。
それを整理していたらしき少女が両手で抱えた本をよっこいしょとサイドテーブルに置いた。
「お帰りなさい、ヒョウエくん。そちらはお友達?」
「ただいま、リーザ。毎・・・冒険者パーティの仲間のモリィだよ。モリィ、彼女はリーザ。幼なじみで僕の友達」
年の頃は15、6。裕福な平民の娘と言った感じの簡素だが上品な服装。短く整えた
胸は無いも同然だが、スレンダーで均整の取れた体つきをしている。
そこまで見て取って、モリィは少女の目が先ほどから閉じているのに気がついた。
「その、あんたその眼・・・」
「はじめまして、リーザです。ええ、見えてませんよ。生まれつきですからお気になさらず」
微笑みながらさらりと流すリーザ。
しかし、そう言いつつも二人の方に歩み寄ってくる足取りに不確かさはなかった。
「そうか、何かそう言う《加護》があんのか?」
「はい、《耳の加護》が。音で大体どこに何があるかわかるんですよ」
「奇遇だな。あたしは《目の加護》だ。ああ、あたしはモリィ。よろしくな」
「よろしく。仲良くして下さいね」
にっこりとリーザが笑った。
「ところでリーザ、僕の部屋の本は片付けなくていいと言ったじゃないですか」
「しょうがないでしょ。これだけ散らかってたらお掃除もできないもの。
ヒョウエくんだってどこに何があるかわかってた方がいいでしょう?」
「片付けた方がわからなくなりますよ! 一見散らかってるように見えても、僕はどの本がどこにあるかちゃんと把握してるんです!」
ヒョウエの熱弁を無言で受け流し、リーザが顔をモリィに向ける。
「モリィさん。私とヒョウエくんと、どっちが正しいと思います?」
「そりゃ全面的に
「ひどい!?」
うんうんと頷き合う少女たち。
ヒョウエの抗議は当然の如く聞き流された。
「夕食には少し時間がありますね。お茶でも淹れましょうか」
「ああ、その前にちょっと頼みたいことがあるんですが」
「何かしら?」
ヒョウエの頼みはつまりリーザの《加護》で王都中のうわさ話を聞いて、例の猫に関する情報を集めてくれないかと言うことだった。
「そんなことできんのかよ!? すげえな、何でもやり放題じゃねえか」
目を丸くするモリィ。
繰り返すようだがさしわたし八キロ、人口五十万の超巨大都市である。
その中から自分の聞きたい話を拾えるとなれば、スパイとしては無敵だろう。
「聞きたいことを確実に聞ける訳じゃないし、凄く疲れますけどね・・・そのへんわかってるよね、ヒョウエくん?」
「そうなんだけど他に手が思いつかなくて・・・お願いしますよ、リーザ様」
唇を尖らせて「私不満です」とわかりやすくアピールするリーザと、手を合わせて頭を下げるヒョウエ。二人の力関係が見えた気がしてモリィは苦笑した。
何度も拝み倒した末に、ようやくリーザは《加護》の使用を承諾した。
ヒョウエは何やら代価を約束させられていたようだが、モリィが聞いても上機嫌なリーザは「秘密です」と笑うだけだった。
「それじゃヒョウエくん、あれ持って来るからちょっと待ってて」
「ええ、よろしく」
「ベッドの上の本、私が戻るまでに片付けておいてね」
「はいはい」
「はいは一度で」
「はーい・・・」
リーザが部屋を出て行き、扉が閉まる。それを見送ったモリィが何とも言えない視線を向けると、ヒョウエはついと目を逸らした。
ベッドに数十冊放り出していた本を、念動の呪文でまた適当にその辺に積み上げているところでリーザが戻ってきた。
手にはヘッドバンドと同じく銀製の、護符のようなものを持っている。
新しく積み上げられた本の山の方を向いて眉をぴくりと動かしたが、取りあえずお小言は後にすることにしたようだった。
「それじゃお願いね、ヒョウエくん」
「了解です」
「・・・?」
リーザがベッドに仰向けに横たわり、銀製の護符を胸元に当てた。
本の山の中から椅子を掘り出して、ヒョウエがその横に座る。
モリィは訳がわからないながらヒョウエの後ろからその様子を覗き込む。
リーザが深く息を吸い、吐く。ヒョウエが右手の杖から手を離し(杖は当然のように直立を続けている)、彼女の額、正確にはヘッドバンドに指先を当てた。
「!」
ヒョウエをおぼろげな光が包んだ。額に当てた指先からは特に強い光が発せられている。同様にリーザの胸元の護符からも。
それが通常見えない魔力と呼ばれるものであると、モリィは何となく理解していた。
しばらく光は続き、リーザが手を上げるとふっと消えた。
ヒョウエがリーザの顔を覗き込む。少女の額には僅かに汗がにじんでいた。
「大丈夫ですか、リーザ」
「うん、ヒョウエくんが守ってくれたから」
「そりゃまあ僕の頼んだことですしね」
頬をかくヒョウエに、リーザがにっこり微笑んだ。
「成功したのか? つか今のは何だったんだ? もの凄い光だったけどよ」
「はい、聞こえたと思います・・・え、ヒョウエくんの魔力が見えたんですか?」
ヒョウエに汗を拭いてもらいながら、リーザが目をしばたたかせた。
「モリィの《目の加護》はかなり強力なんですよ。モリィ、リーザの《加護》も強力なんですけど、余り沢山の『声』を聞くと負担が大きいんです。
このヘッドバンドと護符はその負担からリーザの精神を保護するものなんですよ」
「でも最大限に力を発揮するときは普段より遥かに多くの魔力を・・・そうだ、ヒョウエくん! 急がないと!」
「え?」
いきなり慌て始めたリーザの話はやや要領を得なかったが、どうやら猫はやはり意図的にさらわれたものであり、犯人たちにとって猫は既に「用済み」であるらしい。
「猫ちゃん、殺されちゃうかもしれない!」
「落ち着いて、リーザ。場所はわかりますか? 何か手掛かりは?」
「ば、場所は北西の、お屋敷が並ぶあたり! 西の方だとは思うんだけど・・・!」
「他には? 何でもいいです、どんな細かい事でも」
「ええと・・・そうだ、『庭のあのでかいオークの樹にでも吊すか』って言ってた!」
「庭に大きなオークの樹ですか。もう暗いですがモリィなら・・・」
「場所ならわかる」
ぼそりと、モリィがヒョウエを遮った。
「えっ?」
「いいからとっとと支度しろ。飛ぶんだろ? あたしの指示に従って飛べ!」
一瞬間が空いたものの、即座にヒョウエは首を縦に振った。
「わかりました。それじゃそう言う事でリーザ、サナ姉に伝えておいてください」
「う、うん。気を付けてね!」
両拳を握るリーザの頬を優しく叩き、ヒョウエはバルコニーに飛び出した。モリィが後に続く。
僅かに遅れて、リーザは二人が風を切って舞い上がる音を聞いた。
ヒョウエの部屋にある本の種類は、江戸時代のベストセラーを参考にしています。
こちらの世界は金属活字による活版印刷も一応開発されてますが、コストの問題で木板印刷と貸本文化が主流という設定。
目の見えないリーザが本を整理できるのは、指で字を読めるからです。
この時代の本の表紙は大体表紙にタイトルが刻字されてますので。
・・・と、言うことにしておこう。