毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-35 金剛不壊の冒険者

 大地が激しく揺れる中、戦いは続く。

 そう、続いている。

 

 あらゆる攻撃を防ぎ止め、山を砕く膂力と目にも止まらぬ速度を与える真紅の魔導甲冑。

 それをまとったウィナー伯爵相手に、『星の騎士』は一歩も引かない。

 

 時速五百キロで疾駆する真紅の拳。

 毎秒十発近く放たれるそれを、ことごとく剣と盾でかわし、そらし、受け止める。

 防いだところで普通の武具なら中身ごと潰され、仮に"ヴィブラント"同様の不壊の盾を持っていたとしても腕が砕ける。

 

 更に言うなら、どれだけベクトルを逸らそうとも、その反作用はゼロにはならない。

 吹き飛ばされ、少なくとも体勢は崩すはずだ。

 

(だのに・・・こいつはっ!)

 

 全力で連打しようとも、渾身の力を込めて強打しようとも、不意を突いて胸から光線を放ってさえ、小揺るぎもしない。

 むしろ僅かながら前進し続け、ウィナーにプレッシャーを与えてくる。

 

 組み合いに持ち込もうとしてもあっさりとかわされる。

 足払いも通用しない。

 体当たりで吹き飛ばそうとしても、足に根が生えているかのように動かない。

 空を飛んで上から突破しようとすれば、相手も空中に駆け上がってウィナーをブロックしてきた。魔導甲冑に備わった魔力感知機能と魔導技師としての経験が即座に正解を導き出す。

 

(ちっ、"空中歩行(スカイウォーク)"の魔力を付与されたブーツか!)

 

 駆動兜の下で舌打ちすると、見えていないはずなのに星の騎士がニヤリと笑った。

 

「それはこれくらい用意してるさ。僕は魔法も使えなければ強い《加護》もないからね」

「くっ・・・」

 

 足元の戦況をちらりと見る。

 部下たちは更に一人倒されていた。

 ダーシャ伯の相手をしている者達は部下の中でも特に手練れだが、それでも一人が重傷を負って動きが鈍くなっている。あれが倒れたら一気に斬り伏せられるだろう。

 

「ミターパーラ・ジェニプライティ・プタムーマサ・フリダヤム・ハーワース・ティーホー・サン・ラーパ・カーテ・パーラ・カーテ・サン・ラーパ・カーテ・・・」

 

 剣撃や魔法の炸裂する戦闘音の中で、エルフの聖句が静かに響いている。

 魔導甲冑の機能でも解析しきれない力が、確かにセーナから発せられて床にしみこんでいく。

 心なしか、先ほどより揺れが収まっているような気がした。

 

(《精霊神の加護》と言っていたな。あるいは、本当に地震を止められるのか?)

 

 大陸の長い歴史の中でも、神そのものの《加護》は二例しか確認されていない。

 だとしても杞憂と断ずることは出来なかった。

 

(それにしても・・・他の者どもは何をやっておる)

 

 遺跡内部にいる残りの部下の動きがないのが気にかかった。

 星の騎士に何人か倒されたにしても、まだ二十人を超す部下が各所に点在している。

 彼らがここに参戦すれば、自分が星の騎士に足止めされていてもセーナを殺せる。

 そうすればウィナーの勝ちだ。

 

 だがこの場に現れるものは一人としていない。

 少なくともモニター室に配置した部下たちはここの状況を把握して、他の者達に指示を出しているはずだった。魔導甲冑の思考スイッチで通信機能を起動する。

 

「モニター室! どうした! 早く増援を送れ! お前達もそこを放棄してこちらに援軍に来るんだ!」

 

 返事がない。

 

「・・・!?」

 

 愕然とするウィナー。

 星の騎士が眼を笑みの形に細める。

 

「よくわからないが、どうやら当てが外れたようだな、伯爵? 同情するよ」

「だ・・・黙れ黙れ黙れっ!」

 

 焦りと怒りに駆られてウィナーが拳のラッシュを叩き込む。

 大陸最優の冒険者は、先ほどまでと同じく冷静にそれをさばいた。

 

 

 

 無数の映像が空中に浮かぶモニター室。

 そのいくつかには、当然ながら魔導装置を安置した広間の光景も映っていた。

 

『モニター室! どうした! 早く増援を送れ! お前達もそこを放棄してこちらに援軍に来るんだ!』

「いやあ、無理だと思うねえ。なんせほら、おじさんが全部斬っちゃったし」

 

 へらへらと、貧乏くさい笑みを浮かべるのは四本腕の剣士――バリントンだった。

 周囲には血の海に倒れ伏す死体。死体。死体。

 中には後ろから斬られたもの、剣を抜いてすらいないものもいる。

 

「ま、捨て駒にされた借りはこれで返したって事で。それじゃ、後は若い者どうしでよろしくやってちょうだいな」

 

 へらへらした笑みが闇の中に消えた。

 

 

 

 連打(ラッシュ)連打(ラッシュ)連打(ラッシュ)

 空中でのめまぐるしい攻防。

 雨あられのような拳の連打をひたすらに星の騎士が凌ぐ。

 

「ちっ」

 

 舌打ちしてウィナーが距離をとった。

 ロージは追わない。油断なく剣と盾を構えて様子を窺う。

 息を整えて心を落ち着ける。

 

(認めよう、確かに奴は大陸最強の冒険者の一人だ。単純な性能(スペック)ではこの『真紅の衣(クリムゾン・ガーブ)』には遠く及ばないが、技量が圧倒的だ。

 あの盾も侮れない。金剛不壊というのも満更嘘ではない・・・単純な殴り合いでは勝ち目はないか)

 

「・・・む?」

 

 真紅の魔導甲冑が両腕を大きく広げた。いぶかるロージ。

 次の瞬間、体の各部がシャッターのように小さく展開する。

 

「っ! モリィ、セーナの傍に! 他の人間も備えろっ!」

「!」

 

 声に含まれた切迫感に、モリィが反射的にセーナの方に跳ぶ。

 同時に盾を構えてロージが突撃をかける。

 

 真紅の魔導甲冑の全身から光弾が発射された。

 散弾のようにばらまかれるそれは星の騎士の盾どころか鎧でも何とか防げる程度の威力しかないが、それは彼の甲冑が遺物(アーティファクト)を除けば最上級の防御力を誇る業物だからだ。並の装備で防げる攻撃ではない。

 

「くっ!」

「ぬっ!」

 

 大半は肉薄した星の騎士の体に阻まれ、その影にいたセーナとモリィは無傷だったものの、それでも幾ばくかの光弾がリアス達とエージェントたちに降り注ぐ。

 白の甲冑を纏うリアスは直撃にも耐えられるが、それ以外の人間にとってはかなりの脅威だ。

 実際に三人のエージェントが被弾する。一人は重傷。ポーションで処置はするが、もう戦力としては数えられない。

 

「チェェェェェェイッ!」

 

 ほぼ同時に、着弾で僅かに動きが鈍ったウィナーの部下をリアスが切り伏せる。

 白甲冑を纏っていると言うこともあるが、光弾を全く意に介さずに剣を振ったリアスと、光弾を僅かにでも意識した男の違い。

 

「それ! それそれそれそれっ!」

「くっ!」

 

 だがウィナーの光弾は一斉射だけではない。

 先ほどは星の騎士が肉薄できたが、そもそも飛行速度はウィナーの方が圧倒的に上。

 セーナとモリィを守るために、ウィナーと二人をさえぎる直線上から動けない。

 三度目の斉射で更に一人エージェントが脱落。同時にウィナーの部下も一人倒れたが、ディグ達にも負傷が蓄積している。

 その様子を見てウィナーの口元に笑みが戻ってくる。

 

「ははははは! お前達! 部屋から離脱しろ! 逃げ遅れたものはどうなっても知らんぞ!」

「! ははっ!」

 

 言うなり、ウィナーが両手の間にエネルギーを溜め始める。

 セーナに撃とうとした、最初にロージの盾に弾かれた一撃だ。

 ただ、規模が違う。30センチほどだった最初の光球が、今度は2メートルを大きく越し、更に大きくなり続けている。

 

(魔法装置は惜しいが、既に役目は終えた! 地震の被害を抑えられるよりは破壊してしまった方がいい!)

 

「ははは! はははははははは!」

「くっ・・・!」

 

 狂喜に近い笑い声を上げるウィナー。

 星の騎士がそれを追うが、やはり機動力の圧倒的な差で追いつけない。

 

「~~~っ! 全員! セーナ殿下を守れ! 何としてでもだ!」

 

 撤退するウィナーの部下たちを放置して、動けないセーナの周囲にエージェントたちが集まる。

 戦闘不能になった者達も、ふらつく足で立ち上がってセーナをかばう人盾になった。

 

「くそっ! 間にあわねえ・・・!」

 

 モリィが雷光銃をチャージしようとするが、チャージの速度が比較にならない。

 ウィナーが雷光銃を見て興味を惹かれた表情になる。

 

「雷光銃か! そう言えば報告にあったな! なんだったらそれを差し出せばお前は見逃してやるぞ、娘! そこの扉から出ていくがいい!」

「ざけんな! ヒョウエにしてくれたことの落とし前をつけてやる!」

 

 雷光銃から光芒がほとばしる。

 真紅の甲冑が掲げる光球に命中するものの、何か影響を与えたようには見えない。

 

「ははは、残念! だがこの『真紅の衣(クリムゾン・ガーブ)』に比べればやはり玩具でしかないな! ではさらばだ! 放蕩王子と同じところへ行け!」

 

 四メートルを超すサイズの光球をウィナーが放つ。

 巨大な光の爆発が広間を包み込む。

 

「ははは! はははは・・・は?」

 

 ウィナーの高笑いが途中で途切れる。

 光が収まった後に残るのは、全く無傷の魔法装置とモリィ達。その顔全てに歓喜の色。

 

 ファンファーレが鳴った。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 奏でるものなどいなくとも。

 そこがたとえ荒野のただ中であっても。

 ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。

 

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