毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-36 大地の怒りを止めるもの、海の怒りを止めるもの

「"青い鎧"」

 

 呆然とその名を口にするもの。

 

「"青い鎧"・・・」

 

 感極まったように頬を染めるもの。

 

「"青い鎧"っ!」

 

 歓喜をみなぎらせ、拳を突き上げるもの。

 

「"青い鎧"だとっ!?」

 

 怒りを込めて叫ぶもの。

 

 ヒーローがそこにいた。

 どこまでも青い騎士甲冑。

 翻る紅のマント。

 空中に浮いているにもかかわらず、腕を組んで仁王立ちしたその姿は山よりも不動。

 見上げるその視線は真紅の魔導甲冑にひたりと据えられて離れない。

 

 見下ろす真紅の魔導甲冑。

 青い鎧とは対照的にのっぺりした、宇宙服のようなそのヘルメットに隠されてウィナーの表情は見えないが、憤怒の相を浮かべていることだけは確信できる。

 静かな青い鎧の視線と憎々しげな赤い鎧の視線が宙でぶつかり、火花を上げる。

 

「ナマス・サルヴァジュ・ヤティスマ・ヤーム・カナーラ・アールヤ・アウレー・・・」

 

 トランス状態のセーナが唱えるエルフの聖句だけがその場に響く。

 ふと、赤い鎧からの憎々しげな気配が消えた。

 

「くくく・・・ふふふ・・・ははははは!」

「・・・?」

 

 いぶかる青い鎧やモリィ達を見下ろし、ウィナーが哄笑する。

 

「考えてみれば・・・これはこれでチャンスではないか!

 私を邪魔しようとするものは全てここに集まっている!

 貴様ら全員を殺して改めて魔法装置を発動させればいい!」

「馬鹿が! 青い鎧に勝てるとでも思ってんのか!」

 

 あざけるモリィを、余裕の笑みで見下ろすウィナー。

 その笑みがわかったのか、モリィがカチンと来た顔になる。

 

「青い鎧が何ほどのものか! 正面からのぶつかり合いでこの真魔法文明の遺産、『真紅の衣(クリムゾン・ガーブ)』に・・・」

 

 ウィナーは言葉を最後まで続けることが出来なかった。

 青き閃光が疾る。

 "青い鎧"の拳が顔面に炸裂し、慣性中和装甲が発動して光の爆発を起こす。

 同時に凄まじい破壊音。

 光が消えたとき、真紅の魔導甲冑は奇妙なオブジェのように壁にめり込んで停止していた。

 

「うわーお」

 

 星の騎士が唖然として呟く。

 

「五月蠅い」

 

 マントを翻して青い鎧が床に降りる。

 彼がウィナーに対して示した反応はそれだけだった。

 

 

 

 いつの間にか地震はほとんど収まっていた。

 青い鎧を纏ったヒョウエの目には、この地上で見るには余りに異質で高密度な魔力――恐らくは神の力がセーナを取り巻いているのが見える。

 その魔力がふっと消え、揺れが完全に止まる。

 

「おっと」

 

 倒れそうになるセーナをモリィが支えた。

 

「すまん、大丈夫だ」

 

 ふらつきながらもセーナが自分の脚で立ち、青い鎧を見上げる。

 青い鎧が頷く。

 

「お見事にござった」

「いや・・・」

 

 声色を作った青い鎧の言葉にセーナが首を振る。

 

「大地の怒りを収めることは出来たが、海の怒りを抑えるには私の力が足りなかった。

 何とかせねば・・・海沿いが・・・」

「!」

 

 緊張が走ったのは青い鎧だけだった。

 その他の人間は津波という脅威を知らない。

 時として城の塔より高くそびえ、人の営み一切合切を薙ぎ払っていく海の暴威など。

 

「よくわからねえけど、止められるのか?」

 

 モリィの言葉に青い鎧が頷く。

 交わす視線にあるのは信頼。

 青い鎧が周囲の面々を見渡す。

 

「それではそれがし、今から海の災い――津波を止めに参る。

 貴公らも注意しつつ撤収されよ」

「お、お待ち下さい!」

「何か?」

 

 声をかけたのはディグだった。

 

「申し訳ないが、ヒョウエ殿下をお助け願えまいか。リアス閣下の助けを借りるにしても我々だけでは・・・」

「「「「あっ」」」」

 

 事情を知っている四人の口から異口同音に声が漏れる。

 考えてみれば「ヒョウエ」は魔導甲冑に吹き飛ばされて馬車ほどもある魔法装置複数の下敷きになっているはずなのだった。

 

「・・・何です、その反応は?」

「気にするな。・・・むっ」

 

 セーナとディグの会話をよそに青い鎧が手を伸ばす。

 崩れた魔法装置を持ち上げ、その下から血まみれのヒョウエが現れた。

 

「!?」

 

 「何故か」目を白黒させるリアス達をよそに「ヒョウエ」に手をかざすと、その傷が治っていく。

 続けて手をかざしたディグ達のそれもだ。

 

「おお・・・」

「では彼のことはよろしく頼む」

「おう、任せな」

 

 最後にモリィに「ヒョウエ」をおぶわせて頷く。モリィがにやりと笑った。

 

(・・・そうか、幻術!)

 

 酒場でファスナーの説明をしていたときのことを思い出してカスミが腑に落ちた表情になる。

 こちらは訳のわからないといった表情のリアスがカスミにささやきかける。

 

(ええとその・・・どういう事ですのカスミ? それに何故私ではなくモリィさんに?!)

(後で説明致しますから、今は黙っていて下さいお嬢様)

(・・・はい)

 

 しょぼんとするリアスを見て、モリィが「こいつはなあ」という表情になった。

 こつん、とブーツが床に触れる音がして青い鎧が振り向いた。

 上空から降りてきた星の騎士。背中に気絶したウィナーを背負っている。

 二人の視線があった。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・驚いたね。つまり、そう言う事なのかい?」

「さて、何のことを言っているかはわからぬが・・・貴公ほどの男、見立てが大きく間違っていると言うことはそうあるまいよ」

「そうか」

 

 笑みを見せる星の騎士。

 

「では急ぐので失礼・・・と、それを下ろしてはくれまいか」

「? わかった」

 

 ロージが真紅の魔導甲冑を床に下ろすと青い鎧が喉元に手を当てる。

 僅かに間を置いて奇妙な音――現代日本人が聞けば電子音――と空気の圧搾音がして、魔導甲冑が開く。のびた中身(ウィナー)を放り出すと、真紅の魔導甲冑ののど首を掴んで持ち上げた。

 

「? ・・・!」

 

 光――常人にも見えるレベルの膨大な魔力が腕を伝って青い鎧の方に流れていく。

 「真紅の衣」が蓄えていた膨大な魔力を吸い尽くすと、空になったそれを放り出す。

 

「では、後は頼んだ」

「任せてくれ」

 

 星の騎士が微笑んで頷く。

 頷き返し、青い鎧の姿が消えた。

 

 

 

 全身を淡く輝かせ、青い鎧が飛ぶ。音の壁を越えた衝撃波が周囲の空気を切り裂く。

 

(・・・間に合ったっ!)

 

 周囲の海が比較的浅いのが幸いした。(津波は海が浅いほど速度が遅くなる)

 島を飛び立ってから十秒かからずに津波を追い越し、陸を背に津波に立ち向かう。

 

「・・・!」

 

 巨大な津波だった。

 高さ100mにも届こうかというそれに、さすがに一瞬気圧される。

 

「だが」

 

 両手を高く掲げる。冬神の吐息(テトラ・ブレス)の構え。

 周囲の空気を圧縮してから圧縮断熱により生じた熱を周囲に排出し、絶対零度の烈風を叩き付ける、青い鎧の必殺技の一つ。

 

 全身にみなぎる「真紅の衣」から奪った魔力と"隠された水晶の心臓(クリプトス・クリスタル・ハート)"が生み出す無限の魔力を全てつぎ込み、普段の数倍、周囲十数kmの空気を手の中に収める。

 手の中に生まれたプラズマの太陽が熱を失い、常温に近い超超高圧空気の塊となる。

 

(イメージしろ。一気に解き放つのではなく、一箇所だけ穴を開けて、迫り来る津波を冷気で薙ぎ払う。風神の風袋のイメージ)

 

 

 

 その日の午後遅く、浜辺で漁師の男が今日の漁を終えて網を繕っていた。

 かなり古く、あちこちほつれてきてはいるが、しがない漁師にとっては高い道具だ。

 そう簡単に買い換えるわけにもいかない。

 

 穴を塞ぎ、切れた部分を新しく繋いで数時間。終わる間際に地震が起きてぎょっとしたが、大した事もなく収まって胸をなで下ろす。

 修繕の終わった網を広げて満足そうに頷き――その顔が凍りついた。

 

「あ、あ、あ・・・」

 

 山が迫ってくる。

 近海ですら高さ数十メートルに達していたそれは、海岸近くになって200メートルを遥かに超える天変地異と化していた。

 

「         」

 

 思考が停止する。砂浜にぺたんと座り込み、目前の死をただ眺める。

 その時ファンファーレが鳴り響き、風が吹いた。

 空にキラキラと光の粒が帯状に舞い、消えていく。

 青い鎧の冬神の吐息(テトラ・ブレス)により生じたダイヤモンドダスト。

 

「・・・あ?」

 

 空のきらめきに見とれていた男は自分がまだ生きていることに気付く。

 水の壁は凍りついていた。見渡す限り海岸線に沿ってそびえ立つ高さ200mの氷壁。

 それが夕日にきらめいてこの上なく美しい。

 

 村の方から自分を呼ぶ声が聞こえる。

 そこでようやく助かったのだと気付いた。

 涙が両目から溢れだす。

 神に祈るように両手を組み、天を仰いで、男は静かに涙を流し続けた。

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