毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「生きているというのは体にものを入れてくということなんだな」
――孤独のグルメ――
「いやあ、うまい!
「あんたいつ帰るんだよ? セーナはとっくにエルフの森に帰ったぞ」
新鮮な魚介類に酢飯を合わせて醤油につける料理――つまり握り寿司をもりもりと食べながらロージが感に堪えたように漏らした。実に幸せそうな顔をしている。
ツッコミを入れたモリィを始め、女性陣は呆れ顔だ。
「まあまあそう言わないでやってくれ。地元だと中々羽を伸ばせないんでね。後アトラは山の中だから、新鮮な魚は中々食えないんだよな。あ、アカミとエンガワ二つずつ」
「あいよッ!」
そう言いながら自分もぱくぱくと寿司をつまむのは、人のよさげな中年男といった様子の男性。ただし、その身長は1メートルほどしかない。
"バグシー"と呼ばれる小人族だ。妖精の一派なのだがその中では最も俗っぽく、人間に近い暮らしをしている。力はないがタフで俊敏、天性の狩人で盗賊。
そもそも「バグシー」という名前自体、
本来は正式な種族名があったのだが忘れ去られ、本人達もこっちの方を使っているのだからいい加減なものだ。
大半の者は大陸に点在する里で素朴な農耕狩猟生活を送っているが、里を飛び出して冒険者として名を挙げる者もいる。
「まあ、この世界における忍者の元祖のようなものですね」
「"忍びの者"というわけですか」
ヒョウエのうんちくに、カスミが敬意とライバル心半々くらいで頷いた。
「本物の忍者に認めて貰えるとは嬉しいね、全く」
名を挙げた者の一人、星の騎士の相棒として有名なバグシーの盗賊"冬の"バギー・ビルは一見人の良さそうな笑顔を見せた。
ちらり、と大通りの建物を見る。いずれの建物もヒビ一つ入っていない。
「まあ俺達の苦労も無駄じゃなかったわけだ。美味しいところはエルフの姉ちゃんに持ってかれたけどな」
最初の揺れこそひどかったものの、セーナによって地震の威力は大幅に抑えられていた。
スラムでも倒壊した建物はほとんどない。作りのしっかりしているその他の区域では尚更だった。
ヒョウエが笑顔で頷く。
「ええ、あなた方がいなかったら、ここが廃墟の山になってたかもしれません。存分に堪能していって下さい」
「ありがとよ。まあ、流石にそろそろ帰らなきゃいけないだろうけどな」
「ええっ? もうちょっとくらいいいじゃないか」
反論するロージに、バギーが渋い顔になる。
「コートやロマンから矢の催促なんだよ! 全く、すぐに連絡が取れるってのも良いことばかりじゃねーな」
「そんなぁ・・・」
がっくりと肩を落とすロージ。
何とはなしに既視感を感じて、三人娘がちらりとヒョウエの顔を見る。
「・・・なんです、みんなして」
「べっつにー」
「い、いえその・・・」
「言わぬが花、という事もあるかと存じます」
「むう」
ヒョウエが不満そうに眉を寄せる。
「変わんねえなあ、どこも」
バギーが肩をすくめた。
「本当に今回は寿命が縮みましたね」
マイアの執務室で大きく息をつくのは王太子アレックス。
「王になったらこの程度の・・・とは言わないまでもそれなりの問題は何度も襲ってくる。
今回は良い経験が出来たと思っておけ、レクス」
「まあそうだな。とはいえレクスもまだ若い。その年で苦労をかけることにならなくて良かったよ」
「まあな・・・」
弟の言葉に遠い目をするマイア。
父が夭逝し、若くして王位を継いだ自分に照らし合わせているのだろう。
ジョエリーとワイリー、妻たちがいなければ途中で折れていたかもしれない。
「あの時は苦労致しましたが、良く切り抜けられましたよ。
マイア様もジョエリー様もご立派でしたぞ」
兄弟二人が顔を見合わせる。
「おい聞いたか兄者。フィル爺が俺達を褒めたぞ」
「参ったな、折角地震を止めたのに次は台風か、それともモンスターの大量発生でも起きるのか?」
「・・・はあ」
わざとらしくひそひそと会話する王と王弟に、老宰相は溜息をついた。
まだまだこのヤンチャ坊主どもからは目を離せないようだ。
「結局『星の騎士』が捕縛したのと、魔法装置のところにいた連中の生き残りだけか、捕縛できたのは」
「残りは全て斬殺されておりました。金属鎧も綺麗に断ち割る凄まじい切り口です」
"
先ほどまで残務処理をしていたディグの顔には疲労の色が濃かった。
「報告書を見る限り・・・『星の騎士』の仕業ではないか」
「はい、ロジスト卿に倒されたものは全て一命を取り留めております。
ヒョウエ殿下にお見せしたところ、以前襲われた四本腕の剣士の仕業ではないかと」
報告書をめくりながら、"
「『ショーグン』か。今になってその名前を聞くとはな―― 一応冒険者ギルドには回状を出しておけ。ウィナー伯爵の屋敷は?」
「もぬけの空でした。残っていたのは何も知らない使用人だけです。それなりの数の魔道具は押収しましたが・・・」
「ウィナー本人は"
追跡は継続しろ。次に・・・」
考えつつ、ディグに新たな指示を下す"
王国諜報機関"
王国の危機がひとつ去ったとしても、彼らの仕事がなくなることはない。
「むー」
ディテク王国第四王女カーラ殿下はおかんむりであった。
近頃お気に入りの子犬を胸に抱いているが、それもご機嫌を直す役には立っていない。
「ねえお願い、カーラ。機嫌を直して頂戴。姉様悲しいわ」
「だって姉様! ヒョウエ兄様が全然来てくれないんだもの! 全然お話ししたりないのに!」
「ヒョウエだって忙しいのよ。ただでさえ仕事が多いんだから」
「そうだけど・・・」
口を尖らせるカーラ。普段は我慢できる娘だが、姉にだけはこうしてわがままを言うことがある。
そんなかわいい妹の髪を手で梳きながら、ふとカレンの顔に邪悪な笑みがよぎった。
「そうね。でもカーラはいい子にしてるんだから、ヒョウエも会いに来ないといけないわよね。いいわ。姉様が連れて来て上げる」
「ほんと!?」
姉の邪悪な笑みに気付かず、カーラの顔がぱぁっと明るくなる。
「くぅーん」
カーラの胸の子犬が、怯えたように身を縮こまらせた。
「私からの報告は以上です」
ヒョウエの屋敷で一日休んだ後、セーナはズールーフの森に帰還していた。
謁見の間で膝を突き、それまでのことを族長に報告する。
「ご苦労じゃった。疲れたであろう、しばらくはゆっくり休め」
「はい、お爺様」
頷く。気遣いがありがたかった。
精霊神の託宣を受け、更には大地震を止めたのだ。
一日休んだ程度で疲れが抜けるものでもない。
「よくやったぞセーナ。俺もお前のことが誇らしくてたまらん」
「・・・はい、父様」
滅多に人を褒めない父が、この時ばかりは褒めてくれたのが嬉しくて、セーナが破顔する。
トゥラーナやサーワが微笑んでその様を見ていた。
数日後。毎日戦隊エブリンガーは今日も今日とて山のような依頼を受注していた。
「ディスク村から逃げた四頭の象の捜索、ルスーム砂漠の四本腕リザードマンとの折衝、ペルシド大空洞の翼竜人の目撃情報、"
「これがおかしく思わなくなってきた自分が怖いぜ・・・」
「そういうものでしょうか・・・いえ、どう考えてもおかしいですわね」
「はい、考えなくてもおかしいかと」
受付で手続きをするヒョウエを見ながら三人娘がそんな会話を交わす。
「島で回収した装備は随分な値段で売れたのでしょう? もう少し休んでもいいのではなくて?」
「あたしの目標はせいぜい屋敷一つだし、まあ確かに随分前進したけどよ。
あいつのほうはそれでも雀の涙がカラスの涙になったくらいだろうからな。
まあ休む気にはなれねえんだろ」
「それは・・・で、ございましょうが」
カスミが溜息をつくと、ヒョウエが手続きを終えて振り向いた。
「何の話をしてたんです?」
「何、今日も頑張って稼ごうってことさ」
モリィがニヤッと笑い、ヒョウエが破顔する。
「全く貧乏暇なしですね――それじゃ行きましょうか」
三人娘が口々に返事を返し、一行は杖にまたがって宙に飛び上がる。
足元には彼らが守ったメットーの町並みとそこに暮らす人々。
「――まあ、悪くない気分だよな」
「モリィ、何か?」
「何でもねえよ」
毎日戦隊は毎日が毎日日和。
雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。
かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。
全て世はこともなし。