毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
05-01 狂気の世界
「ここじゃあ、みんな気がくるってるんだ。みんなおかしいんだ」
――不思議の国のアリス――
取りあえずセーナのためにリラックス効果のある香草茶を頼んで席に着かせる。
勝ち気な彼女らしくもなく、席に着くなり突っ伏してしまった。
運ばれて来た香草茶を飲ませてしばらく待つと、落ち着いたのかぽつぽつと彼女は語り始めた。
「その・・・最初は些細なことだったのだ。ツクシソウの生えていたところにオオエラシダが生えていたとか、
それが次第にエスカレートしていって、バラの木に百合の花が咲いたり、角の生えた兎が出没したり、体長5mを越す猪が目撃されたり・・・」
「ちょっと待って下さい。それってモンスターの類では・・・?
話を遮るヒョウエ。
真剣な顔でセーナが頷く。
「可能性はある。だがモンスターの
猪もサイズ以外はズールーフの森に通常住んでいるそれだったそうだ」
「ふーむ」
顎に手をやって考え込むヒョウエ。セーナが話を続ける。
「だがそこまではまだマシだったんだ・・・一週間ほど前からは・・・」
香草茶のカップを持つ手がプルプルと震える。
怒っているのかとも思ったが、少し違うようだ。
「いや、私が話すより実際に見て貰った方が早いだろう。
ヒョウエ、モリィ、リアス、カスミ。森に来てくれないか。
無論礼はする。頼む、もうお前達しか頼む相手が思いつかないのだ・・・」
「・・・これはズールーフの森の総意としての依頼ですか?」
「いや、私の独断だ。前の一件でおまえたちに助けられたとはいえ、それでも人間と交わるべきではないという意見も根強いからな・・・」
ちらりと仲間達の顔を見る。
全員が頷いた。
「わかりました、この依頼引き受けましょう」
「あ、ありがとう! 感謝する!」
セーナがヒョウエの手を両手で握る。
リアスやモリィが微妙な表情になるが、今にも泣き出しそうなセーナの顔を見ては何も言えなかった。
「まあ取りあえず、今夜は僕の家に泊まっていって下さい。
ひどい顔をしてますよ」
「いやだが・・・そうだな、よろしく頼む」
結局その夜は、モリィ達三人も一緒にヒョウエの屋敷に泊まることになった。
翌朝四人は杖に、セーナは
門番や旅人の驚きの声を背に、一行は北へ向かった。
「ええと、ズールーフの森は確か・・・!?」
モリィが絶句する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いたたまれない顔で沈黙を守るセーナ。
「モリィさん、どうしたんですの?」
「あーいや・・・うん、すぐにわかる。確かに見た方が早ぇわ」
「・・・?」
残りの三人が顔を見合わせた。
「うわぁ・・・」
「何ですのこれは・・・」
「・・・」
十分も飛ぶと、ヒョウエ達にもその様子がわかるようになってきた。
「だろう?」
「・・・」
モリィはげんなりと、セーナもいたたまれない様子で目を伏せる。
彼らの視線の先、本来なら初夏の青々とした木々が生い茂る森は、青、ピンク、黄色、赤、紫、明るい茶色、オレンジ、水色、黄緑・・・その他鮮やかな色の乱舞する、サイケデリックなキャンパスと成り果てていた。
「うおっ!?」
「ま、待て! 違うのだ!」
孔雀鷲の発着場。
近寄ってきた人々の一人を見て、思わずモリィが雷光銃を構える。
両手を振って慌てて後ろに下がるそのエルフ?は、首から上がトナカイだった。
「・・・これもその異常の一つですか?」
「これだけなら可愛いものだ・・・」
うなだれたセーナの案内で森の中を歩く。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
四人はもはや絶句するしかなかった。
「~~~~~~~♪」
エルフの顔をしたカエルが樹に張り付いて、調子っ外れの陽気な歌を歌っている。
張り付く樹は樹でピンク色の幹に蛍光緑の葉が茂るオークの樹だ。
その隣の樹は水色の幹にオレンジの葉が繁り、咲き乱れるのは赤青緑の原色の花。
翼の生えた魚が空を飛び、川の中を真っ赤な小鳥が泳いでいる。
青い卵が列を成してぴょんぴょん道を跳ね、足の生えたカボチャが目の前を横切っていった。
「頭がおかしくなりそうだぜ・・・」
モリィのつぶやきに、その場の全員が頷いた。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・なあ、もう帰っていいか?」
「頼む! 気持ちはわかるが帰るな! 私を見捨てないでくれ!」
セーナがモリィにすがりつく。
エルフ達の王宮、文字通り天を貫く巨大な世界樹の真ん中にこれ見よがしに咲いた直径1kmを越すヒマワリの花と、その中央に浮かび上がる暑苦しい男の笑顔。
二足歩行する虎のラインダンスだの、ペチャクチャ喋りかけてくる白塗り厚化粧の顔付き大樹だの、「ねえ、私きれい?」と語りかけてくる牛だの、正気をガリガリ削ってくる代物をさんざん見せつけられた末にこれである。
鋼の意志もくじけようというものだ。
「僕は行きますよ」
「ヒョウエ! お前はきっとそう言ってくれると信じてたぞ!」
再び涙目でヒョウエの手を取るセーナ。彼女も大分消耗している。
「あの森もそうですが・・・鷲の広場にいたあのトナカイ頭の人。
同じような人がもっと沢山いるんじゃないですか?」
「あっ・・・」
モリィとリアスが目をみはった。カスミも僅かに表情を動かす。
セーナが沈痛な顔で頷いた。
「変異した大半のものは家の中にいて出てこない。
中には人としての知性を失い閉じ込められているものや、森の中に消えてしまったものもいると聞く。
この状況を何とかしたいのだ、ヒョウエ」
無言でヒョウエが頷いた。
「モリィ」
「あー、わーったよチクショウめ。そんな話を聞いて帰れるかってんだ」
モリィが苦々しげに息を吐く。
「きっとそう言ってくれると思ったぞ、モリィ」
セーナが微笑んだ。
「ゲーロゲロゲロ♪ ゲーロゲロゲロ♪」
「やっぱり帰れば良かったかな・・・」
「私も少しそんな気が・・・」
「頼むから言わないでくれ・・・」
王宮の中も、森の中に負けず劣らず狂気の世界だった。
壁を這うツタに花ではなくカエルの頭が咲き、ゲコゲコとやかましく合唱している。
げんなりするモリィとリアスにセーナが再び懇願し、ヒョウエも流石に苦笑するだけであった。
「まあ、虫やミミズでないだけまだマシかと」
「やめろよおい!?」
「勘弁して!」
カスミがぽろりと漏らした一言に想像してしまったのだろう、二人が悲鳴を上げた。