毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「アレはちょっと前の事じゃったのう。わしが目がさめてからあんまり経ってないころ・・・だったような気がするなぁ」
「・・・明るくなったり暗くなったりを何回繰り返したとか、そういうのはわかりませんか?」
「うーん、すまんのう。そう言う事はよぉ気にせんわぁ」
「ですか」
溜息をつくヒョウエ。
うすうす感じてはいたが、やはり時間感覚は人間と随分違うらしい。
「ファンタジー・・・いえむしろSFのお約束ですねえ」
「んん~。何かゆうたかのぉ?」
「じいさん、こいつは時々訳のわからないことを言うんだ。聞き流しておけばいいぜ」
「失礼な」
例によってヒョウエが抗議するが、こちらも例によって聞き流すモリィ。
溜息をついてカスミが続きを促した。
「申し訳ありません、話を続けて頂けますか、エルビス様」
「ほいほいぃぃ。えーと、そうそうぅ。ピクシーのことじゃったのぉ。
ちょっと前にフラフラ飛んでてのぉ。鳥でも虫でもエルフでもなかったから話しかけてみたんじゃ。
『ほうい、お前さん。一体全体虫かのぉ? 鳥かのぉ? それともエルフなのかのぉ?』っての。そしたら顔を真っ赤にして怒りよってのぉ。
『おれはピクシー!
「ピクシーですか・・・」
ピクシーとはエルフやドワーフと同じ妖精の一種族で、名前の通り透き通った虫のような羽の生えた小妖精だ。
魔力の制御に特化した種族で、特に術の精度についてはエルフをも上回ると言われている。
「セーナ、もう一度確認しておきますがこの森にピクシーはいないんですね?」
「少なくとも私は聞いたことがないな。昔はいたかもしれないが」
「それで何を話したんですか?」
「それでじゃのぅ、えーと・・・」
「・・・」
「うーんと・・・」
沈黙が生まれる。
コオロギの鳴き声や、ガランガランとやかましい鐘の音が遠くから聞こえる。
「うん、思い出せんわぁ」
「・・・・・・・・・・・・・」
四人が盛大に溜息をついた。
「まあそんな事だろうと思いましたが」
「おいじいさん」
「いやあ、長く話してた記憶はあるんじゃがのぉ。何を話してたかがおぼろげでなあ」
疲れたように肩を落とすモリィ。ヒョウエが不審げに頭をひねる。
「うーんん」
「ヒョウエ様、何らかの魔法でしょうか?」
「可能性はありますね」
「精神を操る類の奴か?」
「ええ。あくまで可能性ですが」
その後もしばらく会話を重ねたが、意味のある話は引き出せなかった。
既に周囲は暗い。カスミの灯した魔法の光だけが周囲を照らしている。
「日が暮れてからかなり時間も経ちましたし、そろそろ戻りましょうか」
ヒョウエの言葉に他の三人が疲れたように頷く。
「おやぁ、帰るのかぃ。また話に付き合ってくれると嬉しいねぇ」
「まあ時間がありましたらね」
たっぷり三時間は付き合ったヒョウエが苦笑しつつ頷いた。
「ふむ、その岩、エルビスか・・・改めて話を聞いてくる必要があるかもしれんの」
丁度間に合った夕食の席でパンダ、もとい族長であるトゥラーナが頷いた。
ちなみにパンダは本来雑食である。笹しかないからそれを食べているだけで、肉でも穀物でも普通に食う(本当)。なので、料理はエルフの時と変わらない。
(うーんシュール)
そんな食事風景を眺めながら、それを表に出さずにヒョウエが頷いた。ただ、その表情に疲労の色がある。
「そのお役目は誰か別の方にお願いしたいですね。ただでさえテンポが間延びしていて辛いのに話が長くて・・・おまけに当人はおしゃべり好きで何時間でも平気で喋っていられるんですから」
「まあ年寄りは話が長いからな」
苦笑するトゥラーナ。
見慣れるとパンダでも多少表情が読み取れるようになるのだから不思議なものだ。
それに対してセーナの母サティが悲しげに眉をひそめた。
「それもあるかもしれませんが、話が出来るのにその場から動けず、森の中でただ時間を過ごすだけというのもお辛いのではないでしょうか」
「ああ・・・それは違いないな」
妻の言葉にセーナの父ナタラが頷いた。
なお「上品な貴婦人」という形容が形になったような彼女であるが、若かりし頃はセーナも鼻白むほどの女傑、猛女であったらしい。
ナタラがヒョウエの方を向いて軽く頭を下げた。
「ともあれ重要な情報を持ち帰ってくれた。私からも礼を言うぞ、ヒョウエ殿」
「かたじけなく。人間というのがうまい具合に働いたかもしれませんね」
「そうか、なるほどな。私の方でもその岩のことは報告を受けていたし、話を聞きに行かせもしたんだが、さっぱり要を得なくてな」
「僕もその要を得ない話を数時間聞きましたよ」
「それは大変だったな」
苦笑し合う。
「ともあれ一歩前進じゃ。まずはそのピクシーを捜してみるとするか」
その場の全員が頷いた。
月が出ていた。
真円の、青い月。
「結界の中でも月って出るんですね・・・」
王宮の窓、無数の木のこぶに開いた穴からヒョウエは月を見上げていた。
与えられた部屋は想像していたよりは広く、
「当たり前だろう」
「セーナ?」
苦笑を含んだ声。
入り口の垂れ幕をめくって入って来たのはエルフの王女だった。
「お前達はどのような務めをして暮らしているのだ?」
「えー、お金と言ってわかります?」
不思議な味のする水――エルフ版の
借金のこと、都市での暮らし、エルフの護り手の務め、族長の後を継ぐために修めなければならないもろもろ。家族や仲間からのお説教。
「まー耳が痛いんですけど、それはそれとしてそうできたら苦労はしないというか」
「まったくだ。言われて簡単に変えられるようならとっくに変えている」
うんうんと頷き合う二人。
サナやリーザ、セーナの両親や祖父がいたら即座に雷が落ちただろう。
「しかしなんだな」
「うん?」
長椅子に並んで腰掛け、二人で月を眺める。
「お前ほど気兼ねなくなんでも話せる相手は初めてだ。無論森に友人がいないわけではないが、何と言うかな。お前といると、不思議なほどに口が軽くなる――」
「・・・」
セーナの横顔を見上げる。
褐色の頬が僅かに紅潮していた。
「僕は・・・」
「お前だな! 魔力のカタマリ!」
「「!?」」
突然、部屋に声が響いた。
甲高い少女の声。
月光の中に浮かぶ小さなシルエットは、羽の生えた人間の姿をしていた。