毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
杖にまたがって、文字通り矢のスピードでヒョウエとモリィが飛ぶ。
既に日は暮れ、王都は光の絨毯が敷かれたかのように美しく煌めいている。
「もちっと左だ! よし、そのまま!」
二人は2分と掛からずに王都を縦断し、ひときわきらびやかな高級住宅街、豪邸が建ち並ぶ一帯にさしかかった。
「ヒョウエ、あれだ!」
競い合うように明かりをともした豪邸の中、一つだけ暗いままの邸宅。
庭に高さ20mを越す巨大な樹のシルエットを確認してヒョウエが進路を変える。
三階建ての豪邸の屋根に音もなく降り立つと、ヒョウエは杖をついて軽く指で弾いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目を閉じてしばらく集中した後、ヒョウエが再び目を開いた。
「一階の正面から見て右奥二つめの部屋だと思います」
「えーと、あれか。大工のトンカチ」
「
「どっちでもいいだろ。気付かれなかったか?」
「念動波の強さはギリギリまで弱めたので恐らく大丈夫だとは思いますが・・・急ぐに越したことはないですね」
モリィが頷く。
「んじゃ右側の端に降ろしてくれ。そこに庭に出る扉がある」
「・・・? わかりました」
疑問を覚えつつも、指示に従って自分とモリィを地面に下ろす。
果たしてそこには扉があった。長い年月使われていなかったのだろう、うっすら錆のふいたノブに手をかけると、それはきしみながらも軽く回った。
「・・・」
「・・・」
顔を見合わせる。
頷きあって、二人は踏み込んだ。
戦闘というほどの戦闘は起こらなかった。
ドアを吹き飛ばして踏み込んだヒョウエに犯人たちは反応できず、七人全員がヒョウエの念動で身動き一つできなくなる。
続けて突入したモリィの出番が無くなるほどに鮮やかではあったが、単純に犯人たちがチンピラ以下の実力しかなかったのもあるだろう。
「フーッ!?」
ソファの脚に縄で繋がれたロシアンブルーの猫が毛を逆立てて二人を威嚇した。
「どうです、モリィ? 怪我とかしてませんか?」
「あー、大丈夫みてぇだな。傷がついてたら報酬大幅減になるとこだったぜ」
モリィが縄を切り、猫をなだめて抱き上げる。
ふう、と安堵の息をついてからヒョウエは犯人たちの方に向き直った。
文字通り指一本動かせない犯人たちは、いずれも恐怖の表情を浮かべている。
「さて・・・仕事を済ませたのはいいんですけどちょっと気になりますのでね。
正直に答えて貰えると嬉しいですが・・・何故猫をさらったんですか?」
ヒョウエが杖を僅かに動かすと、今まで無言だった犯人たちが口々に叫びだした。
「お、俺達は雇われただけなんだよ!」
「その猫をさらってくれば大金をくれるって言われてさ!」
「助けて、殺さないで!」
「悪かったよ、あんたの猫だなんて知らなかったんだ!」
叫びは次第にヒートアップし、依頼主への罵声と命乞いと自己正当化が混じった聞き苦しいものになっていく。
顔をしかめてヒョウエが杖を振ると、わめき声がぴたりと止まった。
「僕が聞きたいのは罵倒でも命乞いでもありません。あなたたちの依頼主は誰か、その目的は何かと言う事です。素直に喋らないようなら少し痛い目を見てもらいますよ」
「・・・・・・!」
犯人たちの目に恐怖の色が濃くなる。
モリィも少しぞくりとしたほどに、ヒョウエの声は冷たかった。
「はい、では右端の人」
今度は杖で指した一人だけが発言を許される。
「そ、その・・・俺たちゃ大金をくれるって言われて猫をさらっただけなんだ。
依頼主はその猫の首輪を取ると、金をおいて後は好きにしろって・・・」
「ふむ。それで、依頼主というのは?」
「それは・・・」
ヒョウエの目が細まった。
「痛い目を見たいようですね?」
「ま、待て! 待ってくれ! 喋りたくないんじゃねえ! どんな奴だったか思い出せないんだよ! 何かぼんやりして、声も顔も思い出せねえんだ!」
「む・・・他のみなさんも同じですか? 同じなら首を縦に振って下さい」
今度は首の運動だけを許されたのか、他の六人が一斉に激しく頷いた。
「はい、もう結構。意外と奥が深いかも知れませんね、この事件」
「けどよ、あたしたちにこれ以上何か出来るか?」
「・・・できませんね。残念ですがこいつらを警邏に突きだし、猫を依頼人に引き渡して終わりでしょう」
ヒョウエが大きく溜息をつく。
「そういうこった。あたしたちは"青い鎧"じゃないんだ、出来る限りのことはしたってことで満足しようぜ、
肩を叩くモリィに、ヒョウエはもう一度大きい溜息をつくことで応えた。
ヒョウエの念動で壁を越える。犯人たちは身動きできないまま浮かせていた。
「それじゃ行きましょう。ここからならファンゾ街の詰め所が・・・モリィ?」
モリィは今出てきた館を見ていた。静かに、だが強い情念を込めた眼差しで。
ちらりと館の方に視線を移して、ヒョウエはダンジョン・コアの中で見たものを思い出す。
「・・・大丈夫ですか、モリィ?」
呼びかけられたモリィが振り返り、肩をすくめた。
「あたしは何も言わなかったぜ。お前も何も言うな」
「了解」
微笑んで、ヒョウエは歩き出した。