毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「・・・」
「なんだったんだ・・・今のは?」
一瞬の暗転の後、周囲は何事も無かったかのように元の景色のままだった。ただ、ミトリカの姿だけがない。
「いや待て! "
「! 確かに」
先ほど人の顔を付けて地面から這い出した樫の巨木は、何の変哲もない樫の巨木のままそこに立っていた。
ヒョウエが"
「特に異常はないですね・・・モリィ、セーナ、そっちは?」
「あたしの見る限りでは変な魔力は感じねえなあ」
「私もだ。先ほど動き出したときは明らかに異常な精霊力を感じたのだが・・・」
木の幹に手をつけ、目を閉じてセーナ。
しばしそうしていたが、やがて目を開けてヒョウエたちの方に向き直る。
「ともかくこれから・・・ヒョウエ?」
「ん、ああ、すいません」
考え込んでいたヒョウエがふわりと宙に浮いた。
「何が起きたかはともかく、繋がっている感覚はまだ残っています。
追跡を続行しましょう」
四人が頷く。
ヒョウエが進もうとしたところで、森が揺れ動いた。
「!?」
地面から一列に木の芽が生える。
それはものの数秒で巨大な古木に成長し、からみあってそびえ立つ大樹の壁を形成した。
「おいおい・・・なんだこりゃ」
「セーナさん?」
「いや・・・私もこんなものは見た事も聞いたこともない。
伝説にあるようなエルフの
森の中なので視界は悪いがそれでも見渡す限り、森を東西に貫いて大樹の壁は続いているように見えた。
「"
気合を込めた、ヒョウエ渾身の呪文が炸裂した。
大樹の壁が幅数十メートルにわたって消滅し、壁の向こう側の木々も含めて巨大な空間が生まれる。
「うおっ・・・!?」
だがモリィの口から思わず漏れた声は、ヒョウエの呪文に対してではなかった。
ヒドラが数匹悠々と並んで通れる位の空間を、下から生えてきた新たな樹があっという間に埋めてしまったからだ。
「では・・・」
ヒョウエの姿がふっと消えた。
今度も"
「嘘でしょ・・・!」
だが亜音速に達するそれと同じ速度で大樹の壁は上方に伸びた。
横に飛ぼうとも、追随して大樹の壁が増殖する。
向こう側に行くことが出来ない。
エルフの結界のせいか、どれだけ上空に飛んでも息は苦しくならない。
恐らく一万メートルほど上昇したと思われるところでヒョウエは諦め、地上に戻った。
「・・・向こう側には行けなかったか」
「はい」
セーナの問いに、疲れたように首を縦に振る。
「どうしましょうねえ。小人になる呪文でもあればですが」
物体や生物の巨大化、もしくは縮小という呪文自体は存在する。
しかし質量そのものを上下させるそれは極めて高度な概念を操作する魔術であり、真なる魔法の使い手か、最低でも魔法を極めた文字通りの
「エルフの魔術にはそうした呪文はないな。あったとして私には使えないだろうが」
「植物を操作する術はあるでしょう? それでどうにかなりませんか」
「私の腕ではな・・・」
先ほどの"
セーナの扱える程度の術式ではせいぜい数メートル範囲の操作が限界だ。
「ふむ。では"
「"
考え込むセーナ。リアスが首をかしげた。
「何ですの、"
「簡単に言えば二人で一つの呪文をかけることです、お嬢様。うまく息を合わせれば強力な術を発動できます。ただ、この場合は呪文をセーナ様が、術力と消費する魔力をヒョウエ様が供与するという形になりますから・・・かなり難度は高いかと」
モリィがヒョウエとセーナを見比べる。
「できんのかよ、そんな都合の良いこと?」
「理屈の上では。ただ、僕もそう経験がある訳じゃないですし、断言は出来ません」
「そもそも神授魔法と精霊魔法で"
「神授魔法も精霊魔法も『真なる魔法』が元ですからね。極論すれば呪文の覚え方が違うだけで、理屈は全く同じです。つまり術式によって見えない網のようなものを作り、その網の中に"
モリィがSDヒョウエのおでこにデコピンを喰らわした。
「今は講釈してるときじゃねえだろ。後にしろスットコ」
「はーい・・・」
額をさすって溜息をつくヒョウエ。
モリィの方もヒョウエの扱いはもう慣れたものだ。
リアスがちょっとうらやましそうに見ている。
「まあともかくやるだけやってみましょう。駄目で元々です」
「・・・そうだな」
僅かな逡巡の後、セーナが頷いて大樹の壁の方を向いた。その肩にヒョウエが乗る。
「お嬢様、モリィ様。少し下がっていましょう。反動で何かあるかも知れません」
「わかりましたわ」
三人が下がると、ヒョウエとセーナの二人が集中を始めた。
モリィの目には、二人の魔力が解け合っていくのがわかる。
そしてモリィの目にも見えないところでもまた。
「・・・」
「・・・」
ヒョウエとセーナの精神が触れあった。
最初は注意深く、やがてもっと大胆に。
握手するようにお互いの思念を握りしめ、それがもやい綱のように精神を結びつける。
それと共に相手の断片的な思考が幾ばくか流れ込んでくる。
融合魔術に対する不安。
幼い頃の、森で兄と遊んだ記憶。
借金と冒険の日々。
ヒョウエに対する淡い思い。
「!? い、いや、それはだな・・・」
「集中して下さい。集中です、セーナ」
「う、うむ、そうだな」
動揺を抑え、平静を努める。
心の手を固く握り合い、二つの精神が完全に同期する。
呪文に集中。
自分の術式という矢を、ヒョウエの引き絞った弓につがえるイメージ。
雑念が消えていく。
術力という弓を引き絞る、たくましい精神の腕。
それにそっと寄り添って狙いをさだめ、矢をつがえる。
そのまま的に思念を集中。集中。集中。
――気付けば、矢は放たれていた。
「・・・おお!」
思わず声を上げたモリィ達の目の前で、分厚く絡み合った大樹がほどけて、樹のトンネルが生まれていた。
「そのまま急いでトンネルを通って下さい。いつまでもつかわかりませんので」
三人が頷き、トンネルの中に走り込む。
肩にヒョウエを乗せたまま、その後をセーナが――精神集中を乱さないよう――ゆっくりと追った。
息詰まる数分が過ぎ、20mのトンネルをセーナが通り抜ける。
大樹の壁の向こう側にたどりつくと、セーナとヒョウエが同時に息をつき、樹のトンネルはゆっくりと閉じていった。