毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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05-08 アンリアル鬼ごっこ

 それからも妨害は続いた。

 何度かミトリカの後ろ姿を捉えもしたのだが、そのたび図ったように障害が現れる。

 巨大なトゲだらけの針の山、倒しても甦る歪んだ狼のような怪物の群れ、眠りを誘う花畑、見えない蟻地獄が無数に潜む大砂丘、謎を解かなければ通れない門。

 

 トゲだらけの針山はヒョウエの術で森の木を引っこ抜き、針山に突き刺して渡り板にした。

 不死の狼はセーナの獣を操る魔法によって、脇にのいている間に通り過ぎた。

 眠りを誘う花の香りはカスミの家秘伝の毒を通さない忍び手ぬぐいを使って防いだ。

 見えない蟻地獄はモリィの目によって全て見分けられ、一行は慎重にその間を通り過ぎた。

 謎かけをしてきた人面獅子獣(スフィンクス)はブチ切れたリアスに鞘で殴り倒され、門が開いた。

 

「あー、疲れたぜ・・・頭を使うのは苦手だ」

「スッキリしましたわね!」

 

 蟻地獄を見分けるのに集中を続けたモリィが、疲れたように目元をもみほぐす。謎解きをまじめに考えていたのもある。

 対照的にスフィンクスを殴り倒したリアスは晴れ晴れとした顔であった。よほどストレスが溜まっていたのかもしれない。

 ノックアウトされたスフィンクスのほうをちらりと振り向き、カスミが深い溜息をついた。

 

「しかし一体どんな力が働けばこれだけのことが出来るというのだ。

 森の木々が姿を変える程度ならまだしも、大樹の壁にしろ底なしの谷にしろ、真なる魔術師か、さもなくば神々でもなくば到底叶わぬ業ではないか?」

 

 疲労と困惑がない混じった顔でセーナが首を振った。

 

「全くその通りです――ここが現実の世界であるなら、ですが」

「? どういうことだ?」

「――! それはつまり、ここがダンジョン・コア・・・いえ、怪人のコアの中であると?」

「推測ですけどね」

 

 僅かな時間を置いてカスミが正解にいたり、ヒョウエが頷いた。

 

「あー、あれか。インヴィジブル・マローダーの、偽の王都みてぇな?」

「そうそう」

「・・・なんですの。この前といい今回といい、折角ヒョウエ様と一緒にコアに取り込まれたのに、全然ヒョウエ様の思い出とか私の思い出とか、互いに見せ合ったりするような展開がないではありませんの」

「お嬢様、今はそんなことを言ってる場合ではございません」

 

 唇を尖らせる主に、冷や汗を浮かべながらカスミが諫言する。

 何せこの件に関してはカスミのほうが経験者で、リアスはそうではない。下手な事を言えば地雷を踏む。

 

「なるほど・・・察するに、ここはズールーフの森に似ているだけで別の場所と言う訳か?」

「大体そんなところだと思います。加えて言うなら、恐らくはミトリカさんの精神世界の色が強いのではないかと」

「根拠は?」

「勘ですが、彼女が逃げるたびにそれを守るように障害物が現れるところとか・・・呪的逃走って知ってますか?」

「いや」

 

 呪的逃走。昔話や神話で良くある、追っ手から逃げるために主人公が色々なものを投げつけると、それが障害物に変わって追っ手を食い止め、主人公は無事逃げ延びる・・・という物語類型のことだ。

 例えばイザナギが黄泉醜女から逃げるために櫛の歯を投げると、タケノコが生えて黄泉醜女がそれを食べている間にイザナギは逃げ延びる。

 グリム童話の「水の魔女」では魔女に追われる兄弟がはけを投げると、無数のトゲの生えた山になって魔女を阻む。

 旧約聖書のモーゼが海を割って、それを追うエジプト軍が渡ろうとすると海が閉じてエジプト兵が溺れ死ぬのも一種の呪的逃走と言える。

 

「『カルフィとヨキ』とか、『四枚のおふだ』とかあるでしょう? ああいうのです」

「あー、なるほど」

 

 こちらの世界にある昔話の例を上げると、モリィ達が納得したように頷いた。

 

「昔話では魔法の道具を投げるとそれが追っ手を阻みますが、ここがミトリカの精神世界だとすれば、ミトリカの『捕まりたくない』と言う意志が形になって僕たちの追跡を阻んでいるのではないかと」

「何か気に入らない話だな。あいつの方が主人公ってか?」

「彼女の精神世界ですからね。だったら彼女が主人公でもおかしくないでしょう」

「ちっ」

 

 舌打ちするモリィに、ヒョウエが肩をすくめた。

 

「しかしどうして私たちを自分の中に取り込んだのでしょう? 何らかの考えがあったのでしょうか」

「それは何とも・・・ただ、僕たちから逃げようとして、自分の心の中に逃げ込んだというのもありそうな気はします。推測ですけどね」

 

 その場の全員が顔をしかめ、やがて無言で歩き始めた。

 

 

 

 三十分ほども追跡を続けて、またしてもミトリカの背中が見えた。

 30m程先で振り向いたのが見える。顔には恐怖の表情。

 

「このっ・・・!」

 

 手をかざして、これまで同様力を解放しようとする。

 だが、種がわかった以上はヒョウエたちにも打つ手がある。

 

「来たれ、"青き鎧"よ!」

「!?」

 

 周囲を覆う青い鋼鉄。

 壁のみならず、地面、天井をも青い鋼が覆い尽くし、ヒョウエたちとミトリカを閉じ込める。

 気がつくと全員が密閉空間の中におり、ミトリカとの距離は数メートルにまで縮まっていた。

 

「な、なんだよ!? なんで・・・テメー何しやがった!?」

「簡単な事ですよ。精神世界とは言え、魔法と魔力は現実を改変するもの。そして魔力はより大きな魔力、術式はより強固な術式にかき消される・・・小さな波紋を大きな波紋がかき消すようにね」

 

 周囲をぐるりと見渡してヒョウエ。

 周囲の様子はさながらリベットと鉄板を重ねて作った家のようであり、一面にびっしりと精緻な表面彫刻(カービング)が施されている。

 モリィ達はそれが青い鎧の甲冑に施されている紋様に良く似ていることに気付いた。

 

 この場所を外から見る者がいたら、曲線を多用して作った装甲板のようなシルエットを持つ、青い鋼鉄の家が見えたことだろう。

 そして玄関の上にフルヘルムのような装飾があることも。

 

「僕たちとあなたを僕の術式でぐるりと囲みました。いやあ、さすが心の世界。随分と応用が利くものです」

「ぐぐぐ・・・」

「取りあえずは座りませんか。お茶でも飲みながら話しあいましょう」

 

 ヒョウエが指をパチンと鳴らすと、地面から青い鎧のマントのような赤いテーブルクロスの敷かれた、これも青い鋼鉄製のテーブルと椅子が生えてきた。

 

 

 

 ヒョウエの入れた香草茶と、カスミの出したお茶請けでお茶会が始まった。

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 無言で茶をすする音が響く。

 ヒョウエたちも、セーナも、ミトリカも、誰も口を開こうとしない。

 ミトリカが一抱えもあるビスケットを持ち上げてかじりつく。

 無言で咀嚼していたが、すぐに勢いよくかじり始めた。

 

「おいしいでしょう、"メナディ"ってところのビスケットですよ。僕たちのお気に入りなんです」

「・・・」

 

 無言のままヒョウエに視線を向ける小妖精。

 だがその視線は今までよりも険が取れたように見えた。

 他の四人は黙ってヒョウエの言葉を聞いている。

 

「木に魔力を与えて"歩く樹(ウォーキング・ウッド)"にしてたでしょう。ああ言うのが楽しいんですか?」

「・・・別に楽しいわけじゃねーよ・・・いや、ちょっと楽しいかな。

 森の中があんな感じで賑やかになるのは面白いだろ?」

「まあ、変化には富んでますね」

 

 セーナが顔をしかめるが何も言わない。

 ヒョウエは何事も無かったかのように言葉を続ける。

 

「じゃあ楽しいからやってるんですか」

「・・・ダチの頼みだよ」

「ああ言うことをしていたら、その友達は喜ぶかも知れませんけど、将来友達になれるひとも失ってしまいますよ」

 

 ミトリカの表情が一変した。

 

「うるせーっ! テメーなんかにわかってたまるか!

 大体なんだよ! そんなすげえ魔力持ってるのに、何でテメーには友達がいるんだ!」

「・・・」

 

 ヒョウエの表情に理解の色が差した。

 ミトリカの前に手をさしのべる。

 

「な、なんだよ」

「なら・・・あなたも僕の友達になりませんか。あなたの気持ちはわかるつもりですよ。僕だって最初から友達がいた訳じゃない」

「・・・」

 

 ミトリカが逡巡した。

 多分このピクシーは怪人であるか、そうでなくても並外れた魔力を持って生まれてきたのだろう。同族から白眼視され、人間の社会に飛び出しても恐れられ、蔑まれ・・・。

 

 先ほどヒョウエたちを鼻白ませた罵詈雑言の嵐についてもそうだ。

 あれだけ罵倒に詳しいと言うことは、常にそれを身近で聞いてきた・・・あるいは彼女本人が浴びせられてきたということだ。

 想像でしかないが、大きくは違っていないという確信があった。

 

「オレは・・・オレは」

 

 視線をあちこちにさまよわせ、ミトリカが口ごもる。

 ヒョウエは無言。

 

「!?」

 

 次の瞬間、周囲がぐにゃりと歪んだ。

 視界がぼやけ、何もかもが希薄になっていく。

 

「ミトリカ!?」

「ヒョウ・・エ! 顔だ! でかい木の顔・・・!」

 

 それを最後に、ミトリカはヒョウエたちの前から姿を消した。

 

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