毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第二章「マッド・ティーパーティ」
05-09 悪夢の国のミトリカ


『「ワインはいかが」と三月うさぎが親切そうに言います。

 

 アリスはテーブル中をみまわしましたが、そこにはお茶しかのってません』

 

 

                          ――不思議の国のアリス――

 

 

 気がつくとそこは森の中だった。

 モリィが眉を寄せる。

 

「ここは・・・まだあいつの心の中か?」

「わかるんですの?」

「説明はしにくいんだけどな。何となく見え方が違うんだよ。まあ別の奴の心の中かもしれねえけどな」

「《目の加護》のおかげと言う事でしょうか」

 

 顎に指を当てて少し考えた後、リアスがヒョウエに視線を向ける。

 他の三人の視線も集中して、ヒョウエが少し考え込んだ。

 

「鎧が解除されたのも気になりますが、取りあえずは彼女を捜してみましょうか。どのみち、コアを見つけないと出るのは難しそうです」

「そのコアか、それ以外にここから出る方法はあるのか?」

「精神世界に取り込まれているのもある種の術式ですから、解呪の術か、極めて強力な魔力で無理矢理術構成を破壊すればなんとか。まあ相応の反動も来ますけどね」

「なるほど」

「では行きますよ」

「例によって方向は適当かよ?」

「そんな感じで」

 

 軽く笑うとヒョウエは身を翻し、ふよふよと飛び始めた。

 

 

 

 十分も歩かないうちに閃光が走り、風景が変わる。

 植物性の家の中、どうやら木の葉を魔法で細工して作ったその中に蓑虫のミノのようなゆりかごが、天井から蜘蛛の糸でつり下げられている。

 そこに眠るピクシーの赤ん坊を、両親らしき男女のピクシーが見下ろしていた。

 

「何と言うこと・・・私たちの・・・」

「こんな不安定な・・・」

「何故・・・娘に・・・」

 

 途切れ途切れに聞こえてくる声。

 男女の顔は見えない。

 

「産まなきゃよかった」

 

 女性が呟いた最後の言葉だけが嫌にはっきりと聞こえた。

 

 

 

「・・・今のは」

「ミトリカの過去の記憶ですよ。少なくともあれに近いことがあったはずです」

 

 セーナの顔には嫌悪感と義憤。

 他の面々も大体同じような表情。

 

「ピクシーには時折『ドータボルカス』と言う破格に強力な魔力を持つ子供が生まれるそうです。古い言葉で『とんでもないもの』のような意味だそうですが。

 しばしば自分の魔力を制御できずに自滅したり、周囲に被害をまき散らすので忌まれているようです」

「・・・だからってなあ!」

 

 手近な木の幹に拳を打ち付けるモリィ。

 貧しい中でも必死で自分を育ててくれた両親を持つ彼女からしてみれば、あれらを「親」と呼ぶ事は到底出来ない相談だった。

 ヒョウエが溜息をつく。

 

「想像はしていましたが・・・ともかく、先に進みましょう。そうしなければなりません」

 

 陰鬱な顔で四人が頷いた。

 

 

 

 代わり映えのしない森の中を歩く。

 どれだけ進んだか、方向感覚も距離感覚も時間感覚もあてにならない。

 やがて、再び白い閃光が走った。

 

 

 

「ミトリカちゃん! ルリイロスズメの雛がかえったの! 見に行かない?」

「ほんと? いくいく!」

 

 物心つく頃にはミトリカがドータボルカスだというのは知れ渡っており、誰もが遠巻きにしていた。

 ただ、その中でも一人だけミトリカと親しくしてくれる友人がいた。

 名前はノーチー。ふわっとした金髪の優しい女の子だ。

 

「それでね、今育ててるギンバネテントウが結構大きくなってね。今度見に来てよ!」

「うん、いいよー」

 

 他愛もない話をしながら森の中を飛んでいく。

 大半はミトリカが一方的に喋り、ノーチーがそれに相槌を打っている。

 

(このころはまだ男言葉じゃないんですね)

 

 楽しそうな二人を見るうちに、視界が暗転した。

 

 

 

「あ・・・あああ・・・」

「ち、違う・・・違うのよ・・・そんなつもりじゃ・・・」

 

 ノーチーの顔が恐怖に引きつっていた。

 地面に散らばるのは原形をほとんどとどめていない鷹の死骸。首だけが冗談のように綺麗に残っている。

 散乱する枝と葉と羽根。孵化しかけで割れた卵。生まれる事の出来なかった雛。ちぎれた瑠璃色の小さな翼。

 

「わたし、あなたを、助けようとして、それで・・・」

 

 ミトリカの言葉が途切れる。

 自分を見るノーチーの目にあるのは、紛れもない恐怖と嫌悪。

 抵抗しようもない何かがミトリカの背筋を走る。

 

「・・・・っ!」

「ミトリカちゃんっ!?」

 

 耐えられずに身を翻し、全力でその場を飛び去る。

 

「待って?! ミトリカちゃん、待って!」

 

 ノーチーが何かを言っていたが、ミトリカにそれを聞く余裕はなかった。

 

 

 

 またしても視界が暗転する。

 ノーチーの前で力を暴走させ、そこから逃げたその足でミトリカはピクシーの森を飛び出していた。

 元より親も含めてミトリカを愛してくれる人はそこにはいない。

 唯一の心のよりどころであるノーチーを失った今、未練はなかった。

 

「ほれ、ミトリカ。あの店だ」

「おうよ、任せときな」

 

 ミトリカが小さく何かを呟くと、頑丈に施錠された店の扉がばらばらに吹き飛んだ。

 素早く侵入する盗賊たち。不寝番をしていた用心棒も、ミトリカの呪文で意識を失って眠りこける。

 そのまま店の奥の頑丈な金倉にたどり着くと、またもやミトリカの呪文で錠前がバラバラになった。

 扉を開けて中の金貨を運び出す盗賊たち。

 そのまま戦利品を持って、彼らは夜の闇に消えていった。

 

 ――幼いミトリカが森を飛び出して、拾われたのは旅芸人の一座だった。

 気のいい人々で、ピクシーを珍しがりこそすれ怖がる事も虐待することもなかった。

 芸人夫婦の娘である10才の少女とも仲良くなったし、一座の興行に参加して喝采を浴びたりもした。

 

 が、それも長くは続かなかった。

 襲ってきた盗賊たちに力を使い――そしてやりすぎてしまった。

 ノーチーを失ったときと同じように、ミトリカはまた友達を失った。

 

 そこからは転がり落ちるだけだった。

 都市のスラムにまぎれこみ、その力で恐れられ、口先三寸でいいように利用された。

 荒稼ぎしすぎて官憲に目を付けられ、最後には盗賊団にすら捨てられた。

 

 誰もいないねぐらで待ち続けていたミトリカと、手入れに入った官憲が出くわした。

 ものを壊すのは平気だったが、人を傷つけることは出来なかった。

 ノーチーの、旅芸人一座の少女の恐怖の表情が忘れられなかった。

 

 幻術で警吏達を惑わして逃げた。

 逃げて逃げて、気がつけば町外れの夜の森にいた。

 

「――どうしよう」

 

 もうわかっていた。

 優しかった様に見えた盗賊団のみんなも、結局はミトリカのことを恐れていたのだ。

 恐れていたから、用済みになったら捨てられたのだ。

 

「ねえ」

 

 はっと顔を上げた。

 たった今まで誰もいなかった場所に女が立っていた。

 黒いローブ、フードを下ろしているので顔は影になってわからない。

 

「友達になって上げましょうか?」

 

 右手にぶら下げたものをミトリカの足元に転がす。

 盗賊達の生首だった。

 

「・・・!」

 

 目を見張る。

 女の顔を覗き込む。

 そこには―――

 

 

 

「っつう!?」

 

 突然、脳裏にノイズが走る。

 テレビ画面が砂嵐になって雷が走るような感覚。

 

「ここは・・・」

「あ~? おまえさんがた、どこから現れなすったね?」

 

 間延びした声。

 "歩く樹(ウォーキング・ウッド)"の巨大な顔がヒョウエたちを見下ろしていた。

 

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