毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
数分か数十分か、熱心な問答を続けていたヒョウエが四人のげんなりした視線に気付いた。
時計の針が時を刻むように、浮かぶ矢も向きを変えて斜め下の方に向いている。
「ん? なんです皆さん、そんな景気の悪い顔をして。また一歩前進したんですよ?」
「それはいいんだけどよぉ・・・正直ついていけねえんだよ。まあいつものことだけど、今回はそっちの爺さんもいるし」
モリィの言葉にリアスとカスミが頷いた。
セーナも疲れたような表情で額に指を当てる。
「せめてわかる言葉で話して欲しいものだな・・・」
「今回はそこまで難しい言葉は使っておらんわい」
じろり、とシャンドラがセーナを見た。
「普段勉強していないからそうなるのだぞ。学ばぬかい、姫よ」
「ぐう」
正論の一言で叩き伏せられ、セーナがへこむ。
リアスが恐る恐るカスミを見て、視線に気付いた従者がにっこりと微笑んだ。
「まあそれはともかく、だ」
周囲で演じられる小芝居から目をそらし、モリィが咳払いをした。
「取りあえず下に降りねえか? それともまだ近くで観察する必要があるか?」
「ああ」
それは気付かなかった、とヒョウエが頷いた。
「まあ降りてもよかろう。書庫で漁りたいものもあるしな」
「わかりました」
SDヒョウエが杖を一振りすると、一行がゆっくりと降下し始めた。
落ちてきた矢を回収した後、歩きながら会話を交わす。
なにぶん例の顔を見上げるには1キロか2キロほど離れないといけないので、歩きだと入り口まで二十分ほどかかる。
「んーまあ何となくわかった。近く見えるけどすっげえ遠いんだな?」
「そんな感じです。モリィの目でも何かわかりませんでしたか?」
「いやさっぱり。ただ、空の上であの顔を見たときに雷光銃で撃ったらどうなるかな、と思ったんだけどよ」
「思ったんだけど?」
続きを促すヒョウエ。
いつの間にか二人の会話に全員が耳を傾けている。
「当たらねえ、って思ったんだ。いや、正確に言えば届かねえ、か? 見た目は確かに2キロかそれくらいしかないし、見るだけなら顔の表面の木肌のシワまで見て取れたんだけどよ」
「・・・なるほど」
「やはり見た目だけは通常通りと見るべきかのう」
頷いたのはシャンドラ。長い顎髭をしごく老人をヒョウエが見やる。
「エルフの魔法で突破することはできませんか?」
「難しいのう。わしらの魔法は精霊の力――自然のあれこれを媒介とする事で成り立っておる。
森や木、あるいは川の流れなどに沿って結界を張ったり破ったりは出来るが、結界そのものを操る術には実はうとい。こう言う場合はむしろ神授魔法のほうが向いておる」
「精霊魔法は概念の術ですからね。核となる概念に沿っていない術はどうしても苦手になりますか」
「うむ。とはいえそれで諦めるのも芸がない。サーワにあれこれ捜して貰う必要はあるが・・・」
話しながら一行は王宮に入っていった。
「お探しの本はこちらの書架にはないようですね」
「そうか」
サーワの魔法による検索が不発に終わり、シャンドラがヒゲをしごいた。
「では奥の扉を開けて貰うしかないのう」
「・・・今の状況はご存じですね、シャンドラ様?」
「わかっとるわい。弟子から報告は受けとるからの」
サーワが溜息をついた。
「わかりました。シャンドラ様にセーナ様、ヒョウエ様たちもいらっしゃいますし、まあどうにかなるでしょう」
「待て待て待て。いったい何が起こってるんだ?」
「あら、ご存じありませんでしたか?」
「聞いてない」
かわいらしく小首をかしげる――理知的な妙齢の美女がやると奇妙な味が出るしぐさ――サーワに、僅かに汗を浮かべてセーナが突っ込む。
「まあ、想像はつくじゃろう?」
くくく、と含み笑いをするシャンドラ。
そのあたりでヒョウエ達にも何となく察しが付いた。
嫌そうな顔でモリィが口を開く。
「サーワさん、つまりそいつは・・・」
「はい、禁書庫の中が変異を起こしております。森の木々や動物達のように」
にっこりと、サーワが微笑んだ。
ぱたぱたぱたぱた。
がさごそ。
がりがりがり。
ノブのない扉の向こうからは、そのような怪しげな音が聞こえてきていた。
既にモリィなどは回れ右して帰りたそうな顔をしている。
「それではこれから扉を開けますが、開けたら素早く中にお入り下さい。
皆様が入り終わったらすぐに扉を閉じて施錠いたします」
「そりゃねえよサーワさん!」
悲鳴が上がる。
にっこりとサーワ。
「私、戦いは不得手ですので。
それともこちらの書架にある本に被害が出た場合、弁償して頂けます?
数千年以上経過した書などもゴロゴロございますが」
「・・・」
引きつった顔のモリィ。
あきらめ顔でその肩をぽんぽんとセーナが叩く。
「何を言っても無駄だモリィ。サーワは書庫の中では最強だからな」
「キッチンでは負けたことがないんですねわかります」
「はい?」
「いえなんでも。それより突入の準備をしましょう」
この世界の人間にはわからないボケを自分で流し、ヒョウエは扉に向き直った。
「あ、中の本は傷つけないで下さいね」
「無茶言うなよ!?」
モリィが今日何度目かの悲鳴を上げた。
「お疲れさまでした、皆様方」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
禁書庫の扉を開けて、サーワが深々と頭を下げる。
結論から言うと、禁書庫の掃討は女性陣の精神に深刻なトラウマを刻みつつも何とか完了した。
モリィの引きつった表情が元に戻らなくなっていたり、
後頭部に謎のたんこぶを作って気絶したリアスがヒョウエの念動で運び出されたり、
謎の粘液まみれになったカスミが泣きそうになっていたり、
ひたすらけたけたと笑い続けるセーナが、ほとんど半裸レベルにボロボロになった服の上からマントを一枚はおる扇情的な格好だったり――
「尊い犠牲じゃったの」
「今だからいいですけど、彼女らが正気だったら袋叩きにされてますよ」
「だから言っとるんじゃないか」
「・・・」
そんなことを言っているシャンドラとヒョウエもひどい有様だ。
シャンドラ自慢の白髪と長い白ひげは右半分がチリチリのアフロになっているし、ヒョウエも頭からつま先まで虹色の粘液まみれだ。
更にシャンドラの左腕はタコの足のようになって吸盤が生えているし、ヒョウエの髪も先端がうにょうにょと勝手にうごめいている。
「これ治りますかねえ・・・」
「わしの腕はすぐには難しいのう。お主の髪は・・・まあ自分で解呪の術を使えばどうにかなるじゃろ」
「ですか」
ヒョウエが溜息をつく。
帽子を脱ぐと虹色の粘液がボタボタと床に垂れた。
「申し訳ありませんがそうした事は外でやっていただけますか? これから掃除が大変なんですよ」
「お前さんはもうちょっとわしらにねぎらいの気持ちを持つべきじゃないかね」
シャンドラがサーワをじろりとにらんだ。