毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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05-13 浴場にて

 

 ともかく、その日はそれでお開きになった。

 ヒョウエの"浄化"の呪文で粘液やら体液やら返り血やらをざっと綺麗にしたうえで魔法治療。

 禁書庫にある色々な「もの」の悪影響を外に持ち出さないための魔法的検査。

 場合によっては何かを植え付けられている可能性もある。

 

 ヒョウエの髪やらリアスのたんこぶやらは簡単に治ったが、精神的ダメージ――生理的嫌悪感だけではなく、特異な存在との精神的接触によるもの――を癒すには癒し手の長であるエルフの老婆の尽力が必要だった。

 シャンドラは自前で左腕にあれこれ術を施したり魔法薬を振りかけたりしていたが、やはり治療には時間がかかりそうだった。

 

 幸いにも検査で異常はなく、治療が終わってようやく一行は解放された。

 服も洗濯だ。

 

 ちなみにヒョウエのローブと帽子には術式が仕込んであり、魔力を通すとシワはぴんと伸び、損傷は自然に補修され、付着した汚れも綺麗になる優れものである。

 魔力で綺麗になるからとずっと着ていて、サナとリーザに怒られたことがあるのは秘密だ。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 さしわたし10mほどのスペースに湯気が満ちている。

 巨大な木のうろの中、天然の木の壁が音を吸い込んであたりは静かだ。

 

「ふう・・・」

「癒されますわね・・・」

 

 湯船に浸かったモリィとリアスが並んで溜息をついた。

 カスミがコクコクと頷き、セーナは放心したように壁にもたれかかっている。

 普段なら入浴のマナーあれこれで口論が起きてもおかしくないところだが、今日ばかりはじゃれ合う元気も二人にはなかった。

 

「何なんだよあの紫のタコは・・・吸盤に一つ一つ牙が生えてたぞ」

「虹色の粘液を吐いてくるとは思いませんでしたわね・・・どういう取り合わせなのでしょう」

「サーワの話によるとあそこには異界の知識を記した書もあるそうだから、その関わりかも知れないな・・・カスミはあの球体に丸々飲み込まれていたが大丈夫か?」

「そちらはまだ我慢できました。むしろあのヒトデのようなナメクジが・・・」

 

 カスミがぶるっと身を震わせる。その頭を慰めるようにセーナが撫でてやった。

 

「倒した後にタコが爆発するとは思わなかったな」

「ヒョウエ様がまともにかぶってましたわね・・・」

「幸いにも毒や酸でないからようございましたが、正直危なかったと思います」

「そうだな」

 

 そんな感じでだべっていた彼女達であるが、ふとモリィがリアスの顔を見た。

 睨むような、呆れるような、恐れるような、微妙な表情だ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「な、なんですの?」

「いや・・・お前、強かったんだなって」

 

 その時のことを思い出し、モリィの背筋に冷たいものが走る。

 戦闘中、紫のタコが微光を放つ体の表面色を変化させてきた。

 これにどうやら催眠効果があったらしく、リアスが見事に引っかかってしまったのである。

 

「いやほんと、マジで死ぬかと思ったわ」

「も、申し訳ありません・・・」

 

 ひきつった笑顔で首筋をさするモリィ。

 赤面したリアスが湯船に体を沈め、ぶくぶくと泡を吐いた。

 

 催眠洗脳されて振り向きざまに首を狙って来た一撃を(《目の加護》があったとは言え)かわせたのは奇跡だったと言える。

 ヒョウエが素早く気付いてリアスに全力の金縛りをかけ、金属球で気絶させなかったら間違いなく死人が出ていただろう。

 もっともその代償として、爆発した紫タコの粘液をまともにかぶってしまったのだが。

 

 と、モリィが雰囲気を変えてニヤリと笑った。

 

「けどあれ明らかに殺気があったよな。この機にあたしを抹殺しておこうと思ってたりしたか?」

「い、いえ、そんな事は!」

 

 慌てるリアスにモリィのにやにや笑いは更に大きくなる。

 

「だってさあ、後ろにはあたしと並んでセーナもいたろ? あたしの方を一直線に狙って来たのはどう考えてもあったよなー、殺意」

「よ、良く覚えておりませんので・・・」

「ふむ・・・ただ攻撃するならリアスに背中を向けていたカスミが一番攻撃しやすかっただろうし、無意識で目標を決めていた可能性はあるな」

「セーナさん!?」

 

 こちらも面白がるようなセーナの物言いに、リアスが悲鳴を上げた。

 にひひひひ、とモリィの笑みが限界まで大きくなる。

 

「まあー、しょうがないよなー? ヒョウエが好きなのはあたしだしー? 始末しようと思ってもしゃーねーよなー」

「・・・ほう?」

 

 一瞬で空気が冷えた。

 温かい湯に浸かっているはずなのに、寒気を感じる。

 

(やべっ)

 

 笑みはそのまま、モリィのこめかみに一筋冷や汗が流れる。

 白甲冑も刀も抜きでも、リアスは近接戦闘の専門家だ。本気で取っ組み合ったら勝ち目は全くない。

 眼を細めたリアスの視線は剣呑で、からかうつもりで一線を越えてしまったことは明白だった。

 

「お、落ち着いて下さいお嬢様! モリィ様は冗談をおっしゃっておられるだけです!」

「そ、そうそう! 冗談だよ冗談! いやー、本気になっちゃって困るぜ!」

 

 二人がかりで止めに入るが、モリィに襲いかかりはしないものの剣呑な雰囲気は収まらない。

 カスミが振り向いた。

 

「セーナ様も何とか言って下さい!」

「・・・」

「セーナ様?」

 

 セーナが先ほどのモリィのようにニヤリと笑った。

 いやな予感にカスミが表情をこわばらせる。

 

「何故止めるのだ? モリィとリアスが共倒れになれば、その隙にお前がヒョウエの横に滑り込めるだろう?」

「「「ブーッ!?」」」

 

 三人娘が一斉に吹き出した。

 

「カカカカカカカスミ、あなたやっぱり?!」

「汚ねぇ・・・流石ニンジャ汚ねぇぜ・・・!」

「違います! 違いますってば!」

「ははははははははは!」

 

 一転自分が標的になり、あわあわと手を振り回して弁解に追われるカスミ。

 こらえきれなくなったのか、セーナが爆笑していた。

 

「・・・?」

 

 笑いながら、セーナが首をかしげる。

 胸にちくりと刺さるものがあった。

 それが何であるか、今の彼女はまだ気付いていない。

 

 

 

「はー・・・」

「むっはー・・・」

 

 一方男湯。

 ヒョウエとシャンドラが並んで湯に浸かり、溜息を吐いている。

 

「効きますねえ・・・」

「ええのう・・・」

 

 女湯の騒動をよそに、ここはどこまでも平和であった。

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