毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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01-14 クリーブランド商会

 

 詰め所には幸いヒョウエの顔なじみの警邏がおり、手続きや事情聴取は簡単に済んだ。

 七人を引き渡して二人は夜道を歩く。

 

 ちなみに町の治安を維持する警邏という組織を作ったのも冒険者族だ。

 町奉行所やスコットランドヤードと言った治安維持組織が生まれるのは通常近代になってからであり、それまでは「自分の身は自分で守る」が当然のことだった。

 多くの貴族や商人が私兵を抱えるのもそう言う理由なのである。

 閑話休題(それはさておき)

 

 王都の街路にはほぼ全て50メートルに一本くらいだが街灯が立っており、行政府に雇われた光術師の灯した魔法の光がそれなりの明るさで周囲を照らしている。

 

「なー、飛んでこうぜー。お前、飛ぶくらいなら全然疲れないんだろ?」

「そうですけど、すぐそこですから」

「あん?」

 

 ヒョウエが杖で指さした先には、周囲の邸宅に比べても一際きらびやかな豪邸が建っていた。

 

「クリーブランド商会会頭――依頼人の家ですよ。ついでに猫もお返ししましょう」

 

 

 

 門番に用件を告げて緑等級の認識票を見せると、僅かな時間を置いて二人は邸内に招き入れられる。

 広い中庭を抜けて玄関ホールに入ると、奥から上等な服を身にまとった中年男が小走りにやってきた。

 喜色満面に、二人を迎え入れるように両腕を広げる。

 

「おお、おお、良くやってくれた! 報酬は・・・」

 

 声が途切れる。その目はモリィの抱えた猫の喉元に注がれていた。

 

「な、なんだよ・・・?」

「首輪は! 首輪はどうした! 貴様ら盗んだな!」

「はあ!?」

 

 一転して激怒の相になった中年男が、モリィに詰め寄る。普段なら即座に十も二十も言い返すだろうモリィだが、あっけにとられて反論の言葉も思いつかないらしい。

 

「若旦那様、落ち着いて下さい!」

「お前は黙ってろ!」

 

 家人らしい壮年の男がなだめようとするが、中年男に殴り飛ばされる。

 再びモリィに詰め寄ろうとする男の前に、すっとヒョウエが割って入った。

 その手にはいつの間にか取りだした依頼書の写しがある。

 

「私どもが猫を見つけたときには既に首輪はありませんでした。これについてはファンゾ街警邏詰め所のゾード警邏長にご確認頂ければよろしいかと。

 また依頼には装飾品についての条項はありませんでした。私どもが故意に窃盗を働いたのでなければ、これで依頼は完全に遂行したものと考えますがいかがでしょう」

「ふざけるな! 仕事も果たさずに一丁前の口を! 大体猫など――」

「そのへんにしておけ、ピエトロ」

 

 静かな声が中年男の激昂を遮った。

 今まで荒れ狂っていた男が、嘘のように大人しくなる。

 玄関ホールの奥からゆっくりと、杖をついて現れたのは小柄な老人だった。

 

 小柄で寸詰まりの、吹けば飛ぶような老人である。ヒョウエより小さい。

 だがその体からは、この場にいる全員を静かに圧する威厳が放たれていた。

 "リトル"ヴィル・クリーブランド。一代で王都最大の商会を起こした立志伝中の人。

 そして今なお現役の、クリーブランド商会会頭でもある。

 

「―――――」

「・・・・・」

「・・・??」

 

 その眼差しが静かにヒョウエを見据える。そしてモリィを。

 ヒョウエは静かにそれを見返し、モリィは戸惑いながらも何か既視感を感じていた。

 

「お若いの、済まなかったな。依頼書にそのあたりを書かなかったのはこちらのミスだ。依頼料は先ほどの詫びと三日で見つけてくれた分も含めて色をつけてお支払いしよう」

「ですが父さん、首輪がなくては・・・」

「猫が戻ってきたのだ、それでいいではないか」

「しかし――」

 

 じろり、と会頭が息子を睨む。

 それだけで男は黙った。

 

「ところでお若いの。えーと・・・」

「ヒョウエです」

「ヒョウエくんか。首輪の行方に関してはわかりそうかね?」

「正直何とも。犯人たちもさっぱり心当たりが無さそうでして」

「そうかね」

 

 それきり、ヴィルは黙り込んだ。

 誰も口を開かず、僅かの間沈黙が落ちる。

 

 その沈黙の中、モリィが顔を上げた。絨毯の上を走る軽い足音。子供だろうか。

 果たして数秒後、足音の主は玄関ホールに姿を現した。

 二階から階段を二段飛ばしで降りてくるドレスの少女。年は七歳くらい。

 

「おじいさま! お父さま! バッカイが見つかったって本当?!」

「あああラナリア! 危ないじゃないか! 階段は静かに降りなさいとあれほど・・・」

 

 先程の剣幕が嘘のようにあたふたするピエトロ。ヴィルが僅かに苦笑を漏らした。

 

「こんなのへっちゃらよ、お父さま! それでバッカイは・・・あ、バッカイ!」

 

 目ざとく猫を見つけ、駆け寄ってくる少女。

 モリィがヴィルのほうを見ると、老人は僅かに頷いた。

 

「そーら、お姫様。放蕩者のお嬢さんのお帰りだぜ。今度は逃げられないようにな」

「えへへ! ありがと、お姉ちゃんたち!」

 

 猫を受け取り、無邪気な笑顔で礼を言うラナリア。

 ヒョウエが微笑み、モリィは照れたように笑った。

 猫を高く抱き上げたラナリアが怪訝そうな顔になった。

 

「あれ? 首輪はどうしたの? あの綺麗な赤い石、気に入ってたんだけどなあ」

「ごめんな、お姉ちゃんたちが見つけたときにはもう無かったんだ」

 

 ちょっと難しい顔をしていたラナリアであったが、すぐににぱっと笑った。

 

「ううん、いいよ! バッカイが戻ってきてくれたんだもの、石くらい何でもないよ!」

 

 それを聞いて父が複雑な表情になり、祖父は――今度ははっきりと――苦笑を浮かべる。

 ラナリアが更にヒョウエとモリィを手招きした。

 二人がしゃがんで頭の高さを合わせてやると、その頬に柔らかい感触が触れる。

 

「えへへっ、ありがとうのキス! 私からのお礼だよ!」

 

 満面の笑みで宣言する少女に、モリィはまたしても照れ笑いを見せ。

 ヒョウエはこれ以上なく優雅な動作で一礼した。

 

 

 

 二人が去った後――報酬は冒険者の酒場を通して後日払うことになっている――屋敷の廊下を歩く父と息子の姿があった。

 新しい首輪を約束し、部屋で猫と遊んでおいでとラナリアを下がらせた後、ヴィルは息子についてくるよう促し、以来無言のままだ。

 

「そ、その・・・すみません、父さん。我を失いました」

 

 じろり、と睨まれてピエトロの言葉が途切れる。この父には一生勝てる気がしない。

 だがその口から出てきたのは少なくともピエトロには意外な言葉だった。

 

「それはまあいい。良くはないがいい。だが相手を間違えるな」

「相手?」

 

 怒るなら冒険者や家人ではなく犯人や黒幕に怒れと言うことだろうかとピエトロは思ったが、父の言葉がそれを否定した。

 

「喧嘩は相手を見て売れと言うことだ、馬鹿者め」

「・・・?」

 

 それきり、ヴィルは口を開かなかった。

 




 ちなみにピエトロのイメージキャストはビッグオーのアレックス・ローズウォーター社長。
 ヴィルは巨神ゴーグのGAIL会長ロイ・バルボアです。
 ラナリアはドリス・ウェイブちゃん7才かな?
 バッカイはオハイオ州の別名で、州の木であるトチノキのことです。

 作者のモチベーションは読者の皆様の評価と感想です。
 評価と感想よろしくお願いします。
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