毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
翌朝、大樹から2kmのいつもの場所で何やら作業が始まった。
シャンドラがあれこれと指示を下して色とりどりの砂だの、磨いた綺麗な石ころだの、奇妙な木の杭だの、様々な器具を配置させているが、彼の左腕は呪紋の施された布で巻かれており、動かせない。
なので雑用兼護衛にシャンドラの弟子と、衛兵が十人ほどせわしげに行き来していた。
一方ヒョウエは精緻な紋様を編み込んだじゅうたんの中央にちょこんと座り、結跏趺坐っぽいものを組んで目を閉じている。
「なんだよそりゃ、ザゼンってやつか?」
「わたくしがお師匠様から受けたあれですか? ・・・肩を叩く役目を引き受けた方がよろしいのでしょうか」
「いりませんよ。別にこのポーズに意味はありませんし。寝っ転がっても逆立ちでもいいんですが、強いて言うなら集中しやすい姿勢と言うだけですか」
ふむ、とセーナがしゃがんでじゅうたんに触れる。
「私の知らないものだが、魔力を伝達する紋様だな。ヒョウエの魔力を何かに利用しているのか?」
「けっこうけっこう。姫よ、多少は勉強しておったようじゃな」
じゅうたんを覗き込んでいた一行の後ろから上機嫌そうな声がかかった。
シャンドラである。
「そいつは上に座ったものの魔力を魔道具の魔力源として利用できるようにするためのものじゃ。
いやあ、普通なら術式の準備で一日がかりじゃが、時間が短縮できてありがたいの」
「あー・・・ヒョウエを財布にして好き放題財布の中身を使ってるってことか?」
「まあ大体そんな感じで」
的確だが容赦のないたとえに、ヒョウエが肩をすくめる。
本人が金で苦労しているだけに、直感的に理解出来たらしい。
「おい、お前搾取されてんぞ。使った魔力の分ちゃんと請求しとけ」
「人聞きの悪い事を言うな。ちょっと手を貸してもらっとるだけじゃわい」
割と真顔で言い放つモリィに、心外そうにシャンドラが返す。
そのまま口論になる二人を、ヒョウエが苦笑して見ていた。
「だから働いたならその分上乗せするのは当然だろうが!」
「よく働いてくれとるんだから当然考慮はするわい! じゃがいちいちそのたびに勘定してたのでは面倒にもほどがあるじゃろうが! これだから人間はせせこましいんじゃ!」
「エルフの方が大雑把すぎんだよ!」
ヒートアップしていく口論。
周囲は呆れたように眺めるばかりだ。
「ここはエルフの森なんだからエルフの流儀で通すべきじゃろうが!」
「わざわざ森の外から助っ人に呼ばれたんだから、報酬は人間の流儀で貰いてえな。毛皮とか木の実じゃ話になんねえぜ」
「この・・・」
「なんだ・・・わぷっ?!」
にらみ合う二人の上から文字通り冷や水が浴びせられた。
「はいはい二人ともそこまで。お弟子さんが困ってるでしょうが」
"
口論していた二人を挟んで向かい側で、設営の終了を報告しに来たシャンドラの弟子が、困った顔でたたずんでいた。
「で、結局これから何すんだ?」
まだ髪を湿らせたモリィの質問に、同じく髪とヒゲを湿らせたシャンドラが振り返った。
円を描いて地面に打ち込まれた奇妙な杭、紋様を描いて地面に撒かれたカラフルな砂や磨いた石の中心。
持ち出した書物を弟子に持たせて、記述をチェックしていたところである。
「そうさな、簡単に言えばあの結界を盾として、その盾を力づくで叩き割ろうとしているところかの。ヒョウエ殿の魔力も借りれば、結構いいところまでいけるんじゃないか」
「やっぱりヒョウエを搾取してんじゃねえか。ちゃんと報酬上乗せしろよ」
「ケチ臭いのう。互いに協力してんじゃから少し位ええじゃないか」
「お二人とも、そこまでにして頂きたいですね。今度は氷水にしますよ」
冷たい視線のヒョウエに、二人が首をすくめる。
「わかったわかった。まあ話を戻すが、わしが弟子の補助を受けて術式を構成、そこにヒョウエ殿の魔力を注ぐと言ったあんばいじゃな」
「
「なぬ? ヒョウエ殿と
「うお!?」
シャンドラがセーナに詰め寄り、セーナが思わず一歩下がる。
しばらくセーナを質問攻めにした後、うむむとシャンドラが唸った。
「精霊魔法と神授魔法の
「わかりました」
儀式が始まった。
円陣の中心に立つシャンドラの詠唱に周囲を囲む弟子たちが同調し、再びじゅうたんの上で結跏趺坐を組んだヒョウエは目を閉じて精神を集中している。
「~~~」
「~~~~~~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
低く始まった詠唱は次第に高調し、それと共に魔力視覚を持つものには円陣がまばゆいばかりの魔力に包まれていくのがわかる。
「クリミロアノ・ヴェグダ!」
最高潮に達したところでシャンドラが「力ある言葉」を叫ぶ。
円陣に満ちていた強大な魔力が可視光となって放たれ、上空に飛ぶ。
飛びゆく光が上空に伸び、やはり上空一キロほどのところで四散して消えた。
「・・・」
「・・・・・・」
沈黙が落ちる。
しばらくしてそれを破ったのはモリィだった。
「・・・なあ、どうなったんだ? 成功したのか? 失敗したのか?」
「まあ失敗じゃな」
溜息をついて答えたのはシャンドラだった。
「こちらの放った魔力が、全く手応えなく消滅したわ。
結界自体はさほど高度でもないが極めて堅牢じゃ。込められた魔力も底が知れん。
これを張ったのがそのピクシーの小娘かどうかはわからんが、そうであるとしたら流石ドータボルカスと言ったところじゃの」
「となるとどうします?
「そうさのう。引っ張り出してきた
シャンドラとヒョウエ、加えてシャンドラの弟子の一人が上を向いた。
それにつられて何人かが更に上を向く。
「!?」
頭上に花咲く暑苦しい顔。
それがバチン!と衝撃波を生み出しそうな勢いで左目をウィンクさせる。
その余りの暑苦しさと存在感に、上を向いたもの、それにつられて上を向いたものが全員絶句した。
「うえっぷ」
「なんですのあれは・・・」
「いやなものを見てしまいました・・・」
口々に感想を述べたりうめいたりする一同。
「・・・?」
だが、その中でもヒョウエとモリィ、そしてシャンドラだけは怪訝そうな顔をしていた。
「なあ、ヒョウエ、じいさん。今何か・・・」
「モリィも感じましたか。いえ見えましたか、かな?」
「ふむう、《目の加護》か。魔法の素質は皆無のようだが、それで今のを感じたのは大したもんだ」
会話を交わす三人に、他の面々も気付く。
「どういうことだ?」
「何かお感じになったのですか?」
セーナとリアスの問いかけにシャンドラが頷く。
「あの不気味な目配せの瞬間、奇妙で微細な魔力の波を感じた」
シャンドラの言葉にヒョウエとモリィが頷く。
「何らかの魔術を放ったと?」
「魔術とは違いますね。魔力の波ではありますが、そう言う明確な術式のない・・・。!」
「どうしたヒョウエ? ・・・あっ?!」
空を見据えて固まったヒョウエ。
その視線の先を見て、モリィもまた驚愕の表情になる。
中天高く昇った太陽。
頂点に達したそれが、今正午であることを告げていた。