毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第三章「スペードの女王」
05-16 黒い獣


『首をおはね!』

 

                          ――ハートの女王――

 

 

 

「衛兵が今、シャンドラ様を殺害したとおぼしき怪物と交戦中・・・」

「行きますよ!」

「おう!」

「はい・・・っと!?」

 

 衛士の言葉を遮ってヒョウエが叫んだ。

 モリィ達が応えるのとほぼ同時に、セーナを含む五人の体が宙に浮かぶ。

 

「失礼します!」

 

 返事も待たずに、ヒョウエたちが窓から飛び出す。

 きらめく光の矢が大樹の王宮内部から放たれ、同じ窓から飛び出したであろう黒い影が空中を滑空していくのが見えた。

 

「うおっ!」

 

 鋭角に方向転換し、黒い影を追撃する。

 大きい。

 全体的な姿はむささびのような皮膜と、体中に角のような突起を持つ、黒いオオトカゲ。

 赤い結膜に金の虹彩を持つ目が、ぎょろりとこちらを見た。

 

「このっ!」

「フゥッ!」

 

 雷光と魔力をまとった矢が空を切り裂いて飛ぶ。

 不安定な体勢から放った射撃だったが、双方は過たず黒い獣の体に命中する。

 

「?!」

 

 するっ、っと雷光が体の表面を滑った。

 続けて命中した矢も、同様に体の表面を滑ってそれる。

 そのまま滑空を続け、広場の端、周辺の森にほど近いところに着地する。

 

「待て!」

 

 再度放たれる光の矢の射線を遮らないよう、斜め前から追跡する。

 三度目の光の矢が放たれる前に獣は森に逃げ込み、ヒョウエたちも後を追った。

 

 

 

「・・・!」

 

 風が唸る。

 周囲の空気と念動障壁がぶつかり、音を立てる。

 

 3mの巨体ながら、まさしく影のように木々をすり抜けていく黒い獣。

 木々の間からちらちらと見えるそれを追うヒョウエたちだが、森の中と言うこともあり距離を詰め切れない。

 

「ちっ!」

 

 時折モリィが雷光銃を放つが、命中はしてもやはり弾かれる。

 セーナは弓を撃てない。

 木々の間をすり抜けるのに、四人を一塊のように小さくまとめているからだ。

 

「くっ・・・」

 

 追い切れない理由はもう一つある。

 魔力を効率よく媒介する呪鍛鋼の杖を介さず、念動術で直接四人を浮かせて動かしているからだ。

 ヒョウエ自身が小さく軽くなった分を差し引いても、やはりこれが不利であった。

 

「ヒョウエ様、私たちを置いて先に!」

「!」

 

 後ろを振り向こうとしたところでリアスが叫んだ。

 

「ヒョウエ様が先行して奴を足止めして下さい! 私たちが後から追いますわ!」

「そうだな、それがいい。森の中なら私なりモリィなりが後を追える」

 

 セーナもそれに続く。

 逡巡は一瞬だった。

 

「わかりました、では下ろしますよ!」

 

 言うなり四人を念動から切り離して着地させる。

 一瞬逆方向の念動でブレーキをかけた後、術の力を全て自分に集中させる。

 

「!」

 

 人間四人を支えていた力が、30センチの体になったヒョウエ一人にかかる。

 まさしく弾丸の速度でヒョウエは森の中に姿を消した。

 

「ヒュウ、すげえな。しかし良いかっこしやがって。あたしが言おうと思ってたセリフなのによ」

「先んずれば人を制す、とニホンでは言うそうですよ。今回はお嬢様とセーナ様がモリィ様を制されたかと」

「ちぇっ・・・とと」

 

 苦笑するモリィをリアスが無造作に担いだ。

 人並み外れた身体能力を持つ他の三人と違い、モリィは基本常人並みのスペックしか持たない。

 

「では、行きますわよ!」

 

 三人がヒョウエの後を追って走り出した。

 

 

 

 弾丸の速さでヒョウエが飛ぶ。

 鋼鉄よりも固く圧縮された念動障壁が、時折木に接触する。

 枝が吹き飛び、幹がえぐれて弾ける。

 

(エルフの皆さんすみません!)

 

 心の中で謝罪しつつ、更にスピードを上げる。

 

(・・・?)

 

 木々の間に見える黒い影。

 もうすぐ追いつけそうで追いつけない。

 

「しまった!」

 

 魔力を切り替え(スイッチ)

 全力の"解呪(ディスペル)"を放つと、木々の間に見えていた黒い影は足音や気配もろともスッと消えた。

 

幻術(イリュージョン)――!」

 

 恐らくは森に飛び込んだあたりで入れ替わったのだろう。

 モリィの《目の加護》でも木の向こうを見通すことは出来ない。

 とはいえセーナの、エルフの感覚をもごまかしきったのだから並の術者でないことは確実だ。

 

(ミトリカか・・・? いや、まだわからないか)

 

 そこでハッともう一つの違和感に気付く。

 今ヒョウエは立ち止まっている。

 モリィ達と別れて単独で追跡していた時間はそうは長くない。

 リアスたちであれば、少なくとも足音くらいは聞こえて来ていいはずだ。

 にもかかわらず森は静かだ。足音どころか、獣の息づかい、鳥の羽ばたき、風が梢を揺らす音すら聞こえない。

 

「参りましたね・・・分断された・・・いや、閉じ込められたのか?」

 

 溜息をついてヒョウエは周囲を見渡した。

 

 

 

 三人が走る。

 

「・・・おかしいと思わないか?」

「あんたもそう思うか」

 

 セーナの問いに、真剣な顔で答えるモリィ。

 もっとも、リアスの肩に米俵の如く担がれている状況ではいまいち締まらない。

 

「どういうことですの?」

「ヒョウエの気配が途切れた」

「それと、さっきから足跡が全然見あたらねえ。あのトカゲ野郎が何なのかは知らねえが、空を飛んでる訳じゃねえだろ。ってことは幽霊かそれとも・・・」

「幻像ですか!」

 

 カスミが目を見張った。

 三人が足を止め、モリィがリアスの肩から降りる。

 

「一杯食ったみてぇだな」

「セーナさんの感覚でもわかりませんの?」

「恥ずかしい話だがさっぱりだ」

「・・・」

 

 四人が顔を見合わせた。

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