毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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05-18 ズールーフの一番長い日

 

 時間はやや巻き戻る。

 ヒョウエたちが飛びだした後、会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 治癒の長ナッグのところに運び込まれたシャンドラは幸い息を吹き返したものの、手を尽くしても意識が戻らないとの報告が上がっていた。

 

「傷は治ったのだろう。毒か、それとも呪いの類か?」

「わたくしも検分しましたが、呪いではございません。ただ極めて衰弱しておられ、また精神の働きがひどく弱くなっています。ナッグ様なら癒すことは可能かと思いますが、時間はかかるものと・・・」

「そうか」

 

 アディーシャの言葉に族長が頷く。

 

「それこそ心と魂の術はシャンドラが得手であったからのう・・・他に使えるものはおらんのか、アディーシャ」

「わたくしは全く・・心得のあるものでしたら何人かおりますが、シャンドラ様に比肩するものとなると、とてもとても――強いて挙げるならナッグ様でしょうか」

「弟子くらい育てておかんか、馬鹿ものめ・・・それだからお前は抜けているというのだ」

 

 族長が首を振り、寂しそうにつぶやいた。

 僅かに生じた沈黙を、ナタラが敢えて破る。

 

「問題は何者がシャンドラを害したかと言うことだ」

「窓が破られておりました。室内には物色された様子もなく、窓が内側から破られておりましたゆえ、犯人はシャンドラ殿を害して外に逃げたものと思われます」

 

 セーナの上司でもある護りの長が答える。

 

「それ以外には何かわかっておらぬか?」

「アディーシャ殿を始め、そうした術に長けたものの助けも借りましたが、痕跡が残っておりませんようで」

「周到に自分の痕跡を消す手段を講じていたものと」

 

 アディーシャが言葉を引き取る。

 

「しかし何が目的だ? このタイミングでシャンドラ様を害するとなると・・・」

「それはあの顔への対処を妨害、もっと言えば今回の異変を維持したいものの仕業であろうよ」

「くだんのピクシー・・・いやその他の手駒か、あるいは黒幕か」

「うーむ・・・」

 

 周囲で交わされる議論。ナタラが唸ってから周囲を見渡した。

 

「昨日、シャンドラにおかしな様子はなかったか? 夜に彼に会ったものはいるか?」

 

 サーワが手を上げた。

 

「おそらく、ここにいる中では私が最後にお会いしたと思います。

 昨日、夕食の前に禁書庫から再び魔導書を出してお渡ししました。

 その時は特に変わったことは・・・ただ」

「ただ?」

「わたくしの見間違いでなければ、先ほど部屋を見たときにはありませんでしたね」

「・・・」

 

 周囲の視線がサーワに集まった。

 

「なんです?」

「いや・・・わかるのか?」

 

 ヒョウエの部屋にも負けず劣らず本と巻物の腐海になっているシャンドラの部屋を思い返しつつナタラ。

 呆れつつもこいつならやりかねないという顔になっている。

 

「わかりますよ?」

「わかるものですよ」

 

 うんうんと頷き合うサーワとアディーシャを見て、周囲のエルフ達の視線も疑念のそれから生暖かいものに変わる。

 

(((ああ、こいつら同類か)))

 

 ・・・と。

 

「サーワ、一応確認してきてはくれんか」

「かしこまりました」

 

 サーワが退出すると、一斉に溜息が漏れた。

 唯一まじめな顔を崩していない護りの長が話を無理矢理もとに戻す。

 

「しかしそうなりますとまた話が変わって参りますな。

 その魔導書にあの顔に対処しうるような重要な術なり情報なりがあって、犯人はそれを知っていた、もしくは魔導書そのものが目的だった可能性もあります」

「それもありうるか」

 

 苦々しげにトゥラーナが呟く。

 サーワが魔導書の紛失を報告したのは五分ほど後のことだった。

 

 

 

 サーワと時を同じくしてモリィたちが戻ってきた。

 事情を説明するとうなり声がそこかしこで上がる。

 逆に今までの経緯の説明を受け、セーナがほっとしたように息をついた。

 

「それではシャンドラはとりあえず無事なのだな」

「まだ安心できるかどうかはわかりませんが、少なくとも今のところは」

「それでいい。息があるならあの爺様のことだ、簡単にくたばりはすまいよ」

 

 セーナの言葉に、トゥラーナ始め何人かが笑みを漏らした。

 

「そうじゃな、あのクソジジイがそう簡単にくたばるものか。

 治りかけたところで見舞ってからかってやろうわい」

「父上、生死の境をさまよったのは事実なのですからお手柔らかに」

「わかっておるわい」

 

 笑みを浮かべながらもナタラが父をたしなめる。

 セーナ達も笑みをこぼすが、それをまじめなものに戻した。

 

「で、どうでしょうお爺様。アディーシャ達を借りたいのですが」

「適切な判断かと存じます、族長」

 

 二人がトゥラーナのほうを見ると、パンダ姿の老エルフが頷いた。

 

「それがよかろう。シャンドラが倒れた今、ヒョウエはこちら側では最も優れた術者であり、欠くべからざる人材じゃ。ローラとの約束もある。

 セーナ、アディーシャ、使えるものは全て使って構わん。ヒョウエを助けよ」

「無論です、お爺様」

「かしこまりました」

 

 二人が一礼して、モリィ達と共に立ち上がった。

 退出しようとしてアディーシャが振り向く。

 

「そう言えばサーワ様、シャンドラ様が借りだされた魔導書は何の?」

「いくつかの禁術が載った書だと聞いております。ものがものだけに、私も詳しくは・・・」

「ですか・・・ありがとうございました」

 

 一礼してアディーシャはセーナ達の後を追った。

 

 

 

「待ってたんだよヒョウエ! いっぱい、いっぱい、いーっぱい話そうね!」

「・・・!?」

 

 ヒョウエの首っ玉に抱きつき、頬ずりするミトリカ。

 15センチほどだったはずの身長が、何故か30センチほどの今のヒョウエと変わらない大きさになっている。

 初めて会ったときのような男言葉でもなく、険しい表情もしていない。

 幻視の中で友達と飛んでいたときのように、無邪気で優しい笑顔を浮かべている。

 

「ほら、いこ!」

「え、ええ・・・」

 

 ヒョウエの首から腕を放し、今度はヒョウエの手を引いてこぶの沢山ある巨木のほうに連れていこうとする。

 取りあえずついていくことにして、ヒョウエは頷いた。

 

(これは・・・ピクシーの家でしょうか)

 

 蜂の巣のような丸いこぶの一つにヒョウエたちは入った。

 中には木材を射出成型したような、滑らかな形の家具が並んでいる。

 蜘蛛の糸のような半透明の繊維で出来たハンモックや寝具もあった。

 

「座ってて! すぐに香草茶用意するから! あ、蜂蜜のお湯割りのほうがいい?」

「え、ええ・・・取りあえず香草茶で」

「わかった、ちょっと待っててね!」

 

 新妻の如く甲斐甲斐しく飛び回るミトリカ。

 ヒョウエの目からすると多少手際は悪かったが、それでも香草茶のポットと、お茶請けらしい木の実が並んだ皿をお盆に載せて持って来た。

 

「さ、召し上がれ! とっておきのサトウドングリの実だよ!」

「ありがとうございます」

 

 礼を言ってカップを手に取る。

 ミトリカはやはり満面の笑み。

 

「それで・・・」

「なに?」

「これからどうするつもりですか?」

 

 ミトリカが一瞬きょとんとするが、すぐに笑い出した。

 

「そんなの決まってるじゃん!

 ヒョウエはわたしとここで暮らすの! ずっと! ずっと! ずーっとだよ!」

 

 幸せそうな、満面の笑みでミトリカが言い切った。

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