毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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05-19 世界には二人だけ

 ミトリカは何くれとなくヒョウエの世話を焼きたがった。

 食事、ピクシー風の服のコーディネイト、森の中の案内、背中流し、添い寝。

 とにかく片時もそばを離れようとしない。

 

 

「ね、ね、おいしい? イノシシタケをソテーにしてみたんだ! 本物の肉みたいでしょ!」

「ええ、おいしいですよ(実際おいしいなこれ・・・)」

「こっちのポルチーニのスープも飲んでよ! 自信作なの!」

「おお、これは・・・」

 

 

「ヒョウエもね、そんなに綺麗なんだからオシャレしたらもっとビシッと決まるんじゃない? ほら、この胴着(ダブレット)なんかどう? こっちの髪飾りも!」

「と言っても僕は魔法使いですし、これが気に入ってるんですよ。大体もっとオシャレしたらますます女の子みたいに見られかねないし・・・」

「ん、何か言った?」

「いえ、なんでも」

 

 

「あっちにさ、クレナイリンゴの木があるの! 今丁度実がなっててね、木の上から下までずらりと赤いリンゴが連なってるんだよ!」

「へえ、クレナイリンゴは鮮やかな実をつけると聞いてましたけど、見るのは初めてですね」

「きっとびっくりするよ! とても綺麗なの!」

 

 

「ちょっと、入ってますよ?!」

「えへえ。大丈夫、やりかたはわかってるからさ!」

「どこでそんなことを覚えてくるんだか・・・」

 

 

「寝床が一つしかありませんけど」

「え? 一緒に寝るんだよ? 当然じゃない?」

「(無言で天を仰ぐ)」

 

 

 幸いと言うべきかミトリカの性意識は十歳程度で、背中流しも同衾も子供のやるそれと何ら違いはなかった。

 安堵の息をついて自分にしがみついて寝息を立てるミトリカの髪を撫でてやる。

 

 この「隠れ里」の目的がミトリカを利用したヒョウエの足止め、ないし封印なのは疑う余地は無いだろう。

 ただ、その術者がミトリカなのか、それともただの囮に過ぎないのか、あるいはここにいるミトリカがそもそも本物ではなく、本人が生みだした願望の表れとしての分身なのか。

 それを見極めないことには、強引な行動は取れない。

 

「とはいえ、ずっとこのままというわけには行きませんよねえ・・・」

 

 ミトリカの髪を撫でつつ、ヒョウエは溜息をついた。

 

 

 

 それから数日、ヒョウエはミトリカと過ごした。

 おままごとのような二人の暮らし。

 ヒョウエとしては妹がもう一人出来たようで悪い気はしなかったが、それでもこのままここで過ごすわけには行かない。

 

 ミトリカを観察し、会話で何か情報を引き出せないか試してみる。

 あるいはミトリカと共に森を歩き回り、何かないかと探し回る。

 それでも、何かを見つけることは出来なかった。

 

「しかし・・・」

 

 ヒョウエは植物学についてはそこそこ程度だが、植生からしてこの森のモデルはミトリカの精神世界で見た彼女の故郷の森であるように思われた。

 植生は、だ。

 

 最初に森をさまよっていた時から感じていたが、この森には動物がいない。

 鳥のさえずりも、下生えを走りぬける小動物の音も聞こえない。

 虫すらいなかった。

 聞こえるのは木々を揺らす風の音だけ。

 この森は沈黙に満ちていた。

 

「なに、ヒョウエ? 何考え込んでるの?」

「いや、静かすぎるのも何ですねと。ミトリカ、この森には獣や鳥はいないんですか?」

「!?」

 

 びくん、とミトリカの肩が震えた。

 見開いた目に恐怖の色がある。

 

「ミトリカ?」

 

 恐る恐る呼びかけたヒョウエに、堰を切ったようにミトリカがしゃべり始める。

 

「いや、いらねーだろそんなの! この森は安全なんだよ! 動物なんていないんだ!

 狼も、鷹もいないんだ! 大丈夫なんだよ!」

 

 必死にまくし立てるミトリカ。口調が最初に会ったときのような男言葉になっている。

 いぶかしげにそれを見ていたヒョウエが、ハッとした。

 

(・・・そうか、ミトリカにとって動物・・・いや、僕に危害を加えるような存在は恐怖の対象なんだな。もっと言えば、『力を使わざるを得ない状況』が)

 

 鷹に襲われた幼友達の前で力を爆発させて、鷹とルリイロスズメの親子を殺してしまったこと。

 襲われた旅芸人の一座を助けようとして、野盗を無惨に殺してしまったこと。

 

 コントロールできる範囲ならまだいい。

 だが「自分の力を使って外敵を排除する」状況、それによって「友達を失う」事こそがミトリカにとって最大の恐怖なのだ。

 

「ミトリカ・・・」

「・・・!」

 

 取り乱していることに自分でも気付いたのか、ミトリカが身を固くする。

 

「うん、大丈夫だよヒョウエ。とにかく、ここは安全ってこと」

 

 一呼吸ほど置いてにっこり笑い、元の表情と口調を取り戻すミトリカ。

 明らかに努力して自分を押さえ込んでいるのがわかる。

 

「そうですね」

 

 そう答える以外、ヒョウエに選択肢はなかった。

 

 

 

 それから二日後の夜。

 ベッドの上。

 大の字になったヒョウエにしがみつくようにしてミトリカがベッドに潜り込んでくる。

 この数日ですっかり習慣になってしまった行為。

 

「おやすみヒョウエー」

「・・・」

「ヒョウエ?」

 

 身を起こし、いぶかしげに顔を覗き込んでくるミトリカを寝たまま見返す。

 

「ミトリカ。このままでいいと思ってますか?」

「な・・・何がよ?」

 

 僅かに動揺。

 

「ずっと僕と二人だけでいいのかって、そう言ってるんです」

 

 いつの間にかその目がひどく真剣なものになっていた。

 

「たぶん、僕と一緒なのは楽しいんでしょう。

 いえ、自分を怖がらない誰かと一緒にいられるだけで嬉しいんでしょう?」

「・・・・っ! そ、そうだよっ! お前だってわかるんだろう、そういうの?!

 "来たりし者(アラーキック)"だものな! なんだよその魔力! オレよりよっぽどお前の方が化け物じゃんかよ!」

 

 ハッと気付いて口を閉じるミトリカ。

 そのまま目をそらそうとしたその頬を、両手で包む。

 

「・・・ヒョウエ?」

「ええ、あなたの言う通りですよ。僕は"来たりし者(アラーキック)"・・・オリジナル冒険者族だ。

 桁外れの魔力を放つ、恐れられる存在だ」

「・・・」

 

 少しほっとしたように見えたミトリカの顔が、だが苦しそうに歪む。

 

「けど・・・お前には友達がいるじゃんかよ・・・なんでだよ! 何で友達がいるんだよ!」

「・・・運が良かったんでしょうね」

 

 脳裏に浮かぶのは両親、リーザ、サナ、サナの母親、そして伯父や伯母、いとこたち、大公家に仕える使用人たち。

 長老やナヴィを始めとするスラムの人々、そしてモリィ、リアス、カスミ、セーナ。

 

「じゃあオレは運が悪かったのか」

 

 自嘲するミトリカを見て、ヒョウエが眼を細める。

 

「運なんて良くなったり悪くなったりするものですよ。少なくとも、今のミトリカは明らかに運が良い――僕に出会えたんですからね」

「それって・・・」

「僕の友達を紹介しますよ。まずは彼女たちと友達になりましょう。大丈夫、僕と友達になれる人たちです。きっとミトリカとも友達になってくれますよ」

 

 何かを言いかけて、ミトリカが俯く。

 

「でも、ここは・・・ここには、もう誰も・・・」

「そんな事はありませんよ。みんな、きっと迎えに来てくれます。ほら、そこに」

「!?」

 

 振り向いたミトリカの目の前に、空間のゆらぎがあった。

 それにヒョウエが手を伸ばして、魔力を込めながらノブのようにひねる。

 魔力をつぎ込み、ゆらぎをひねるごとにそれは広がっていき、やがて空間がひび割れてはじけると、ヒョウエとミトリカは森の中に浮かんでいた。

 いつもの服装のヒョウエ、前に見たのと同じ姿のミトリカ。

 周囲を囲むのはモリィ、リアス、カスミ、セーナ、そしてアディーシャとエルフの術師達。

 全員の顔に歓喜の色がある。

 

「ね?」

 

 ヒョウエが、とっておきの笑顔でミトリカを振り向いた。

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