毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
05-24 腑に落ちないこと
『誰かさんが言ってましたよ。みんなが余計なお節介をしなければ世界は回るって!』
――不思議の国のアリス――
「うーん」
「どうしたの、ヒョウエくん? 何かここのところずっと上の空だけど」
「まだセーナさんたちの森のことがお気になるんですの? 変異した方々や森もみんな元にお戻りになったではありませんか」
「・・・」
あれから一週間、夕時のヒョウエ邸。早めに依頼を終わらせて、全員揃っての夕食時だ。
あの後、リアスの言う通り森の変異は完全に収まり、木々や動物、エルフ達の変異も全てもとに戻った。
ミトリカもおとがめなしで、今はアディーシャのもとで魔力制御の修行に励んでいる。
唯一シャンドラだけはまだ意識が戻らなかったが、体調は徐々に回復しているため、まず問題はないだろうとのことだ。
毎日戦隊エブリンガーの面々も、宝石や稀少な素材、いくつかの魔法のアイテムを貰ってめでたしめでたし・・・のはずなのだが。
「うーん」
ヒョウエはスプーンを口にくわえ、天井を見ながら椅子を揺らしている。
「ヒョウエくん、お行儀悪いよ」
「うーん」
リーザの指摘にも上の空のヒョウエ。
この一週間というもの、ずっとこのような調子であった。
サナが口を開いた。
「ヒョウエ様。何か気になる事がおありなのですか?」
「具体的にどうこうと言うんじゃないんですよね。
ただ、ミトリカもあの黒い女体型の正体を知りませんでしたし、何より何のためにやっていたのかが不明なのが気になるんですよ」
「森の中に変異をまき散らして楽しんでいた・・・じゃねえのか?」
「そういった愉快犯的犯行にしては、色々本気すぎたと思いませんか?」
「まあ、そりゃな」
モリィ達の脳裏に黒い怪物、ブラゴールの姿がよぎる。
分体でさえ小さな象なみのサイズと、雷光銃やセーナの矢を弾く表皮、肉体を破壊されても瞬時に再構成できる異常な再生能力。
本体である巨大ブラゴールに至っては、巨大化した怪人に匹敵する戦闘力に加え、焦点温度数千度の圧倒的な熱量にすら耐えて見せた。有機物なら蒸発分解し、岩や鉄でさえ一瞬で熔解を免れないレベルのそれにだ。
「それほどお気になるのであれば、もう一度森を訪ねてみては? ヒョウエ様と方々ならば門前払いは受けないでしょう」
「ですがしかし・・・いえ、そうですね。明日にでも行ってみましょう。みんな、いいですか?」
モリィ達三人が一斉に頷いた。
翌日。
朝食をとって朝一番で出発する。
ヒョウエの杖にまたがって北西、ズールーフの森の方に飛んでいく一行。
城門から飛び立って数分ほど、モリィが眉を寄せた。
「・・・ん~~~?」
「どうしました、モリィ?」
「いや、森が・・・ピンクとか紫とかじゃあないんだけどな。その、なんか・・・説明しづらいな。『なんか元気がない』って感じか? 特に色がくすんでるわけでもねぇんだけどよ」
「うーん?」
やがて森に接近すると、ヒョウエにもモリィの言葉の意味がわかってきた。
「確かにこれは何と言うか・・・『元気がない』というのが適切な表現ですね」
「だろう?」
「?」
「どういう事でしょうか、ヒョウエ様、モリィ様」
頷き合うヒョウエとモリィに対して、リアスとカスミは腑に落ちない顔だった。
「もしや魔力の?」
「正解です。何と言うか、森の魔力がよどんでいるというか・・・良くない魔力が森を覆ってる感じがします」
硬い表情のヒョウエ。
一行はそのまま孔雀鷲の発着場に降下していった。
幸い拒絶されることもなく、取り次ぎが行き来するしばらくの時間を挟んでヒョウエたちは王宮に案内された。
「・・・」
森の中を通り、王宮への道を歩いて行く。
エルフ達の居住区もだ。
確かに以前来た時のような奇妙奇天烈な変異は姿を消している。
しかしここまで来ると魔力知覚能力を持たないリアスやカスミにも、雰囲気がよどんでいることが察せられた。
森に生気はなく、生き物の姿もない。
居住区を行き来するエルフ達にも活気がなかった。
「・・・」
案内役として一行の前を歩いていく若いエルフの女性衛士も、発着場を離れて以来硬い表情で口を利かない。
結局一行は、そのまま無言で王宮に到着した。
「ヒョウエ!」
王宮に入るなり、セーナが駆け寄ってきた。
ヒョウエの手を掴み、安堵の表情を浮かべる。
「良く来てくれた! モリィもリアスもカスミも!」
「友達じゃないですか。それに、終わったはずの依頼が終わってなかったというのは冒険者として問題がありますからね」
笑顔で答えるヒョウエに、手を掴む力が強くなる。モリィ達もにやりと、あるいは微笑んで頷いた。
それに頷き返すとセーナがヒョウエの手を離した。
「来てくれ、案内する」
また頷いて、ヒョウエたちは歩き出した。
王宮の廊下を歩いていく。
「ミトリカはどうしてます?」
「素直なものだ。回りにもかわいがられていて、アディーシャのところで頑張っている――」
「セーナ?」
「これからお爺様のところに連れていく。驚かないでくれ」
「パンダ族長よりも驚く事なんてそうそうありませんよ」
「はは、そりゃそうだ」
ヒョウエの冗談にモリィ達は笑みを浮かべるが、セーナの顔は浮かないままだった。
「――族長様」
「おお、ヒョウエたちか。よう来てくれた・・・」
「族長様、そのまま」
案内されたのは謁見の間ではなく、トゥラーナの私室だった。
部屋の主は寝台に伏せている。
起き上がろうとする彼を手で制してヒョウエが歩み寄る。
トゥラーナが力尽きたように再び寝台に沈んだ。
「一体これは?」
「特に病があるわけでもないのだが、体の動きがおかしくなってしまってな・・・アディーシャの見立てでは一種の呪いと言うことだったが、解呪まではかなわなんだ。こうして無様をさらしている有様よ」
「確かに」
今起き上がろうとしたときの動きだけでも、ただ弱っているというのではなく、言ってみれば半身不随の人間が何とか起き上がろうとしているようなぎこちなさがあった。
「失礼」
"
「・・・?」
ヒョウエが眉を寄せた。
トゥラーナの体幹を中心に走る術式は意外なほどに整然としていて、いわゆる呪いのような混沌としたものとは一線を画している。
「アディーシャも驚いておった。正確に言えば解呪は何度か成功したのだが、そのたびにまた術式が復活してしまうのじゃ。解呪にも手間がかかるし、体を動かしにくいこと以外には支障はない故、しばらく放っておいて貰っておる」
「うーん・・・取りあえず僕も解呪させて頂きたいと思いますがよろしいでしょうか」
「うむ、やってみてくれ」
トゥラーナが頷くのを確認して、ヒョウエが解呪の術を発動する。
老エルフの体に走る術式が、さほどの抵抗を見せることもなく綺麗に消えた。
「おお、やはり余計なものが無くなるといいのう。すまんなヒョウエ」
「いえいえ。これくらいなら片手間で出来ますし」
ヒョウエはそう言うが、アディーシャ達がここにいたら恐らく溜息をついただろう。
熟練のエルフの術師が数人がかりでやっと解ける術が、片手間で解かれるとは・・・と。
トゥラーナが身を起こす。
今度は動きも軽やかで、人間で言えば80才の老人とも思えないほど自然で力強い。
ぐっぱ、ぐっぱ、と手を開け閉めしている。
「術式が復活とおっしゃいましたがどの程度で?」
「そうじゃなあ、正午に解呪して貰った時は、夕方になる前に体の動きがぎこちなくなってきて、日が沈んだ後にはもう完全に元通りになっておったわ」
「ふむう。それでは半日ほどしたらまた参りますので、その時にもう一度お体を診せて頂いてよろしいでしょうか」
「うむ」
トゥラーナの首肯を確認して、ヒョウエが立ち上がった。
「それではこれで」
「うむ。わしの体もそうじゃが、森にかかる呪いを何とか解いてくれ。頼んだぞ」
「微力は尽くしましょう」
一礼してヒョウエたちは部屋を辞した。