毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
その後ヒョウエたちは許可を取ってシャンドラの部屋に向かっていた。
ヒョウエたちを王宮まで案内してくれた護り手のエルフが一人、世話役としてついてきている。
戦士ながら武張ったところを余り感じさせない、穏和な女性だ。
「護り手のティカーリです。改めてしばらくの間よろしくお願いします」
「ヒョウエたちの世話役なら私一人で十分じゃないか。何でお前がついてきている?」
自分が不適格だと言われているような気分なのか、不服そうにセーナ。
ティカーリが溜息をついた。
「それはもちろん戦いならセーナの方が強いよ? でもセーナって自分が正しいと思うと、意地になって突っ走るじゃない。
今は難しい時期だし、いくらヒョウエくんが人族の王子で腕の立つ術師だと言っても、人間を森に入れること自体いい顔をしない人だって少なくないんだよ?
そう言う人たちは、事件解決するのに人間族の手を借りたことさえ文句言ってるのに、そこにセーナが正論でぶつかったらどうなると思う?
そりゃトゥラーナ様もナタラ様も心配するに決まってるじゃない」
「うぬ・・・」
悔しいのか、口元がひくつくセーナ。
反論しないあたり、自覚はあるらしい。
随分と気安いことからして、幼なじみかそれに近い立場なのだろう。
ヒョウエで言えばサナやリーザに相当するような。
「・・・なんです?」
「別に」
視線に気付いたヒョウエがモリィ達の方を振り向くと、モリィは口笛を吹いて誤魔化した。
シャンドラの部屋は窓が仮修繕されてはいたが、それ以外は事件の時のまま保全されていた。
「本は・・・先だって見た時と変わりませんね」
「お前本当に本については記憶力とんでもねえのな・・・いや本以外でもすげえけどさ」
「サーワさんには及びませんよ。習得できるものなら弟子入りして本の魔法を学びたい位です」
「あれはまあ、この森でも特別だからな・・・」
「だよねー」
溜息をつくセーナ、うんうんと頷くティカーリ。
「で、あたしは何を見ればいいんだ?」
「まあ全般的にと言うか、どちらかというと念のためにですね。現場百回とも言いますし」
じゅうたんにべっとりひろがる血痕は既に固まり、黒ずんでいる。
「よくもまあ生きてたものです」
「シャンドラはまあ、生き汚いじじいだとお爺様がよく言っていたよ。家族みんなして苦笑していたものだが、今回ばかりはそれが本当でよかった」
苦笑を浮かべるセーナに、他の面々も僅かに苦笑を浮かべる。
血痕のほとりにヒョウエが杖を突いた。
微弱な念動波が広がり、部屋を舐めるように伝わっていく。
しばらくヒョウエは目を閉じて集中していたが、やがて目を開いた。
「やっぱり特に隠された部屋とか宝箱とかありませんねえ。ダイイングメッセージとかも見あたりませんし」
「なんだそりゃ?」
「物語ではよくあるでしょう、殺された人間が最後の力を振り絞って血文字を残すとかのあれですよ」
「あー。・・・特にないな、そう言うのは」
血のりを含めて床を注視するモリィだが、やはり《目の加護》をもってしても何も見えない。
「まあこれだけ血だらけではね――"
「今かけた術は何ですの?」
「周囲に敵意を持つものや危険な何かがあったら注意を喚起してくれる術ですよ。
あの四本腕のおじさんとか、そうでなくてもエルフ一の術者を不意を打って倒した怪物がいるわけですからね」
「なるほど。例えばわたくしが透明になって襲いかかろうとしても――」
「カスミが僕の探知術を妨害できる、"
先だっての事件を機に学んだ、警戒・探知系の術。
一応くらいのつもりでかけておいたそれが後で役に立つことになる。
「お、いいぜ。何もねえ」
「わかりました」
念動で宙に浮いていた本棚がゆっくりと床に降りた。
本や様々な呪術の道具、家具などを調べては持ち上げ、いちいちモリィの目とヒョウエの"
特にダイイングメッセージや犯人の遺留品が見つかると言うこともなく、一行は部屋を後にした。
「あーあ、無駄足だったな」
「まあ捜しても何もないという結果は得られましたよ。決して無駄ではありません。他のところを当たってみましょう」
「捜索というのは面倒なものだな・・・私は護り手で良かった」
「セーナは興味のないことはとことん根気がないからねえ・・・」
階段を下りていく一行。
ヒョウエのローブの袖に、すっかり固まってつくはずのない血痕が赤々と、一滴だけついていることにまだ誰も気付いていない。
階段を下りながら、ヒョウエがふとセーナを振り向いた。
「そう言えば、結局魔導書は見つかってなかったんでしたっけ?」
「え? ああ、シャンドラが禁書庫から借りだしたというあれか。そうらしいな。詳しいことは聞いていないが」
「何が書かれていたのかはわかります?」
「アディーシャやサーワも詳しくは知らないらしい。禁呪の類がいくつか載っていたそうだが」
「ふーむ」
口元に拳を当ててヒョウエが考え込む。
「歩きながら考え込むなよ。危ねーぞ」
「大丈夫ですよ。リーザみたいな事を言わないで下さい」
「見てて危なっかしいんだよ・・・で、何がそんなに気になるんだ?」
ヒョウエが足を止める。
他の五人も足を止めてヒョウエの言葉を待つ。
「状況からして魔導書はシャンドラさんの部屋にあったはず。
それがなくなっていたというならあのブラゴールが持ち出したか、混乱に紛れて何者かが奪ったことになる。
つまり、やはり明確に敵は残っている。そして魔導書を用いて何事かをしようとしている。そう考えるのが自然でしょう」
「うむ、そのあたりは長の集いでも議題に上がって、同じ結論が出たらしいな」
「が・・・」
「が?」
「どうもそこが引っかかるんですよね。そう考えるのが一番筋が通っているとは思うんですが、何か見落としているような気が・・・」
「うーん・・・」
全員で頭をひねるが、答えは出ない。
そうこうしているうちに窓の外から声が聞こえてきた。王宮の下の方がざわついているらしい。
「? どうしたんだ?」
「騒ぎになっているみたいだな。降りてみよう」
「外ですよね? 面倒ですし窓から降りましょう」
「え、窓って・・・きゃああああ!?」
ヒョウエたちがふわりと浮かぶと一列になって窓をくぐり、大樹の外に飛び出す。
慣れていないティカーリが悲鳴を上げた。
窓から飛び出すと、ヒョウエたちは一塊になってゆっくりと降下していく。
「おお~~~」
ティカーリがセーナの肩につかまり、こわごわと周囲を見渡していた。
滑空するように、降りながら王宮正面へ向かっていく。
正門周辺に人だかり。
「うん? あいつぁ・・・」
「モリィ?」
「ナパティだぞあれ?」
「え、あの鍛冶屋と細工師の?」
「ナパティさんが? この森の出身だろうとは思ってましたが・・・」
「・・・ナパティ?」
「・・・」
口々に疑問を口にするヒョウエたち。セーナだけは無言。
首をかしげながら六人は王宮正門前に降り立った。
「だから中に入れてくれ! 族長に話があるのだ!」
「いや、ですから・・・」
「その、あなたは・・・うん? ヒョウエ殿? それに・・」
「なぬ、ヒョウエ?」
衛士達と何やら言い合っていた褐色長身のエルフ。
衛士達の反応で後ろのヒョウエたちに気付いたらしく、振り返ると喜色を浮かべた。
「おお、ヒョウエか! 天から降ったか地から湧いたか、地獄に仏トイレに巻紙! こいつらに言ってくれ! 俺を奥に通せと――ぐぼばっ!?」
言葉を遮って、セーナの槍がナパティを殴り倒した。
どよめきが起きる。
何故か一人の女性衛士がガッツポーズを取っていた。
「ぐおおおお、ぐふっ!?」
頭を抑えて悶絶するナパティの腹を、踏み抜かんばかりの勢いでセーナが踏みつける。
頭上で回転させた槍の穂先が、その喉元にピタリと据え付けられた。
慌ててヒョウエが間に割って入った。
「す、ストップストップセーナ! 一体どうしたっていうんですか!」
ふーっ、ふーっ、と荒く息をつくセーナ。必死に自分を抑えているようにも見える。
「こいつは・・・ヒョウエ、こいつはな・・・私の兄なんだ!」
「えっ」
「えっ?」
ヒョウエたち四人の動きが止まる。
あちゃあと言う顔をしてティカーリが額に手を当てていた。