毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「いかん、これはもう遅かったか」
幻像のシャンドラがうめく。
王宮前広場には森全体に漂っていた陰鬱な魔力――瘴気が濃度を増し、黒い竜巻となって渦巻いていた。
その竜巻の中に舞っているのは無数の本のページ。
「恐らくあれが禁書庫の怪――サーワに成り代わっていた禁書の一つじゃ」
「異界の知識を記した書物とか言う?」
「うむ。書物とは言うが、わしらの知っている書物ではなく、異界に存在する何者かの知識そのものを魔法で書物の形にしたものである可能性がある。
であれば、知識だけではなくその存在の自意識の欠片が混じっていると言うことも有り得る話だ」
「「「なんて迷惑な!」」」
モリィ、リアス、セーナが声を揃えて悲鳴を上げた。
その間にも森全体から瘴気が集まり、渦に吸い込まれていく。
差し渡し5kmを越える広場全体が薄い瘴気の嵐に覆われていく。
「くそ、やべえな。あれどうにかならねえのか?」
「出来なくはないが、極めて強力な魔法が必要じゃな。最初からこれが目的だったんじゃろう」
「ちょっと待って下さいよ、本物のサーワさんは?」
「わからん。アディーシャのようにどこぞに封じられておるのか、あるいは取り込まれておるのか・・・おい、どうした!?」
「く・・・かっ・・・」
「ティカーリ!?」
ティカーリを始めとしたエルフの衛士達が苦悶の色を浮かべて膝をつく。
倒れないまでも、胸を押さえて苦しんでいるものも多い。
セーナも顔を僅かに歪めていた。
「いかん! 衛士達を王宮の中へ連れていけ! 王宮の中なら大樹の護りで多少は防げる!」
「わかりましたわ!」
「シャンドラ、これはどういう事だ!」
ティカーリに肩を貸しながらセーナ。
その後ろではミトリカが倒れた衛士達を数人まとめて念動の術で引きずっている。
「魔力――精霊力を吸われておるようじゃ。あの瘴気がその下準備だったのかもしれぬ・・・この分では森中の同胞が精霊力を吸われておるぞ」
「セーナ様は大丈夫なのですか?」
「この娘は術がへっぽこなだけで魔力だけは馬鹿みたいに高いからの。多少吸われてもそりゃ平気じゃろう。
そっちのドータボルカスも同様じゃろう。逆にお主ら人族は元から体内の精霊力が薄いから、さほど影響が出ているようには見えんのだ」
「へっぽこは余計だ!」
セーナが叫ぶがそれ以上の反論はしない。ヒョウエ達が苦笑する。
シャンドラもそれには取り合わず、ちらりとカスミのほうを見た。
「ただ、ヒョウエ殿はともかくそちらのお嬢さんは、いつも通りに術は使えんと思った方が良かろうな」
カスミが頷く。
ヒョウエが真剣な表情になった。
「つまり、ここは――」
「ああ、お前さんの出番と言うことじゃな。"
不敵な笑みを浮かべてヒョウエが頷くと、次の瞬間その姿がふいと消えた。
「!」
渦巻いていた瘴気が急速に収束する。
渦のあった空間の中央、空中10mほどの高さに浮かぶのは黒い人型。
ただしブラゴールと違ってその姿はどこか霧のようで、シルエットもおぼろげ。
これはブラゴールの女体化と同じ顔のない顔が、一同を見下ろす。
その口元が確かに裂けて笑みを浮かべる。
あの女体型と全く同じ笑み。
「ちっ・・・!」
モリィ達が手に手に得物を構える。
幼なじみをまだ元気な衛士に託して戻ってきたセーナもだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
笑みを僅かに大きくして右手を上げたその瞬間、"インフェ・ビブリオ"が弾かれたように上を見上げた。
対照的にモリィ達は全員が笑みを浮かべ、残っていたエルフの衛士や、シャンドラも困惑した顔になる。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
空中に浮かぶ黒い影。
それを睥睨するかの如く、青い騎士が更に高く、天空に浮かぶ。
腕組みをして見下ろす青い鎧。
顔のない顔で、それでもはっきりと憎々しげにそれを見上げる黒い影――"インフェ・ビブリオ"。
「・・・」
「・・・」
青と黒の視線が交錯し、世界が止まる。
五秒。十秒。三十秒。一分・・・
そのまま世界が止まり続けると思われた中、戦いは唐突に始まった。
閃光となって急降下する青い鎧。
それを迎え撃つべく、黒い影が霧のような瘴気を吹き出す。
「!」
重力を味方に付けて突貫してきた青い鎧の拳が黒い霧に包まれて勢いを殺される。
ぐにゃりと歪んだ黒い霧に完全にスピードを殺されたと同時に、インフェ・ビブリオの体から黒い槍のような触手が数十本射出される。
「くっ!」
後退しながら両手両足でそれをさばく青い鎧。
矢の速度で迫るそれを何とか凌ぎきって、距離を取る。
インフェ・ビブリオもやや後退して、一人と一体は空中で対峙した。
最初の攻防を終えて、状況は振り出しに戻る。
距離を置いて対峙する一人と一体。
「やべえな・・・あいつの拳止めるとかどうなってんだあの霧は?」
「あれは瘴気・・・よどんだ魔力の塊だ。
巨大な地脈の上に広がるズールーフの森、そこから少なくとも一週間、いや、場合によってはこの異変が始まった半年ほど前、あるいはそれより更に前から溜め込んでいた魔力。
下手をすればヒョウエ殿の《加護》をも上回るかも知れん・・・!」
「・・・!」
唇を噛み、少女たちが空を見上げた。
「スゥー・・・ハァー・・・」
呼吸を整え、相手を見つめ直すヒョウエ、否、青い鎧。
視線の先には戦いの当初から変わらぬ黒い影、そして裂け目のような笑みの表情。
その笑みに冷たい怒りが湧いてくる。
頭は冷静なまま、昂ぶる心。
(ままよ、わんざくれ、だ)
どうにでもなれ、の意味である。
本来ヒョウエは戦闘向きの人種ではない。
慎重に慎重を重ねて石橋を叩いて渡るタイプだ。
だが両親の血か、それともオリジナル冒険者であるせいか、最後の最後でこうしてタガの外れる、あるいは全部投げ出して全力で突破してしまうところがある。
「!」
再び青い閃光が走った。
再びインフェ・ビブリオの手からほとばしる黒い霧。
結果も先ほどと同じ。
青い拳が黒い霧に絡み取られ、勢いを殺される。
「~~~」
ニヤリと笑いを大きくする黒い影。
再び黒い槍を射出しようとしてその顔が驚きに歪んだ。
「押して駄目なら・・・」
止められた右拳はそのまま、振りかぶる左の拳。
「押し潰せっ!」
右を引き、叩き込まれる左の拳。
それも途中で勢いを殺され、黒い霧に埋まって止まる。
だが僅かに黒い霧が押され、後退した。
「オオオオオオオオオオオッ!」
「!?」
更に右を叩き込む。間髪入れず更に左。
右。左。右。左。
右、左、右、左・・・
右左右左右左右左右左右左右左右左右左――!
亜音速に達する拳の連打が黒い霧をへこませる。
黒い霧を更に吹き出し、射出される黒い槍がその勢いを僅かに削るも、青い鎧は止まらない。
見る見るうちに黒い霧が削られ、押し戻され、本体が露出する。
連打。連打。連打連打連打連打。
全身を滅多打ちにされてシルエットを大きく歪ませる"インフェ・ビブリオ"。
「これで、しまいだ――!」
胸の中央を拳で打ち抜かれ、黒い影が爆発四散した。