毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「何にだって教訓はあるもんだよ。見つけさえすればね」
――公爵夫人――
青い鎧の纏っていた炎と、きらめく剣が四散し、消滅する。
その後には元通りの青い鎧。
インフェ・ビブリオの倒された後に現れた異様な色のきらめく光が一瞬強くなり、ぱっと弾ける。
光の中から現れたのはサーワ。
「!」
青い鎧が素早く飛び寄ってその体をキャッチ、横抱きに支える。
熱を持った鎧でやけどしないように、念動で僅かに隙間を空けて体を浮かせていた。
「ん・・・」
サーワが目を開ける。
青い鎧の魔力感覚から見ても間違いない、正真正銘エルフのサーワだ。
「ヒョウエ殿・・・ありがとうございます・・・このたびはご迷惑を・・・」
「お気になさらず。あなたがご無事で何よりだ――何かあったら本を探して貰えないからな」
サーワが微笑む。
そのままゆっくり目を閉じると、寝息を立て始めた。
「おやすみなさい、ごゆっくり」
兜の下で微笑むと、青い鎧は手を振る仲間達のところへ降りていった。
「うおおおお! 青い鎧! 感謝するぞ! よくぞこの森を救ってくれた! ズールーフのエルフを代表して御礼申し上げよう!」
「勝手に代表するなこの馬鹿兄が!」
「ぐぶぉっ!?」
青い鎧に真っ先に駆け寄ってきたナパティが、青筋を立てた妹に後ろから殴り倒される。
はぁはぁと息を整えるセーナに、同じく駆け寄ってきていたモリィ達も苦笑を禁じ得ない。
「いやすまん、見苦しいところを見せた。だが私からも感謝するぞ。また森を救ってくれたな」
「気にするな。好きでやっていることだ」
笑みを含んだ声で返事をしつつ、抱き上げていたサーワをセーナに渡す。
「サーワは大丈夫なのか?」
「見た感じは大丈夫そうじゃがの。ナッグの婆さんのところに連れていった方がええじゃろの」
と、再び姿を現したシャンドラ。
親指を立てて目をつぶるモリィに同じくサムズアップを返すと、早くも回復して起き上がってくるナパティに会釈する。
「ナパティどのもかたじけない。貴公の助けがなくば、あの怪異は討ち滅ぼせなかった」
「いやいや、当然のことをしたまで! 大いなる加護には大いなる義務が伴うからな!」
胸を張るナパティ。
実際インフェ・ビブリオ打倒には彼の力が欠かせなかったので、セーナももう一度殴り倒したりはしない。
殴りたそうな顔はしていたが。
「・・・ん?」
ナパティの様子にモリィ達が首をかしげた。
腰に手を当てて高笑いするナパティに頷いて、青い鎧が一歩下がる。
頷くとその体が宙に浮かび、空の彼方に消えた。
「いやあ、強敵でしたねえ」
「!」
後ろからかけられた声に振り向くと、ヒョウエがいた。
モリィ達が何かを言う前に、ずかずかとナパティが歩み寄って肩を叩いた。
「おお、ヒョウエか! 今までどこに行っていたのだ! 青い鎧が全て解決してしまったぞ! まあこの俺の力も大きかったがな!」
「へぇ、それはそれは」
笑顔で話すナパティと、笑顔で話を合わせるヒョウエ。
その後ろではモリィ達が声を潜めてひそひそ話をしている。
(まさかとは思いますが、あれ気付いていないのでは・・・)
(どうするのです? 教えなくてよいのでしょうか?)
(まあヒョウエがすっとぼけてるって事はそう言うことなんだろうなぁ・・・)
エルフの衛士達もひそひそと声を潜め、セーナが何とも言えない顔になる。
巨樹の根元に、脳天気なナパティの高笑いが響き渡っていた。
翌日。
サーワが療養している一室にヒョウエたちやトゥラーナなど、関係者一同が集まっていた。
なお昨日、へたれたヒョウエをどちらが担いでいくかでモリィとリアスが一触即発になったのは余談である。
(結局ジャンケンで勝ったモリィが担いでいくことになって、負けたリアスが芝生に沈んでいた)
「恐らくだが、全ての始まりは禁書庫の中でも厳重に封印されていた例の書物の封印が緩んだことだったのだ」
話し始めたのはシャンドラ。
既に元の肉体に戻っている。
治療を受けたとは言え死にかけたダメージは大きいはずだが、それを感じさせるものはなかった。
隣に座っているトゥラーナが「やっぱり心配するだけ損だったわい」と呟いたほどのものである。
「それは例の地震で?」
とヒョウエ。
シャンドラが首を振った。
「それが決定的なきっかけにはなっただろうが、始まったのは随分と前だろうな。サーワに本人が気付かないほど少しずつ浸食を続け、下準備をしていたのだろう。
それが先だっての地震に伴う地脈の異常活性化で更に霊気を喰らって力を増し、完全に封印を解いてサーワと入れ替わったのだ」
「オレを誘ったあの黒いのは? あれ半年くらい前だから、地震とは関係ねえと思うんだけど」
「恐らくはブラゴールだったんじゃろう。自分は動けなくても、使い魔を派遣するくらいの力はあったわけじゃ。
偽のアディーシャと似た感じを受けたのも、本質が同じだったからじゃろうな」
モリィが溜息をついた。
「ぞっとしねえ話だな。あんなのがまだ残ってるのか?」
「可能性はある・・・としか言えんのう。本体は滅したが、それで自然消滅するかどうかはわからん」
リアス達もため息を漏らす。
「全滅していればいいのですが・・・そう言えば私たちがこの森に来た時のなんというか、訳のわからないあれらは何だったのでしょう?」
「・・・」
部屋にいる全員が眉を寄せ、こめかみを揉んだ。
あの狂気の世界を思い出したくもないらしい。
「恐らくはサーワさんの無意識の抵抗だったんじゃないでしょうか?」
「どういうことでしょう?」
サーワがかわいらしく小首をかしげる。
怪異に乗っ取られていたときと、そこは変わらない仕草に笑みを誘われつつ、ヒョウエが言葉を続けた。
「あれの目的は多分、森の地脈から溢れる魔力を自分の為の魔力――瘴気に変換して力を付けることだったでしょう。
あの巨大な顔によってその瘴気を様々な異変を起こす事に流用して、結果的にインフェ・ビブリオに魔力が集中しないようにしたんだと思いますよ」
「あれを壊してしまったので、相手の計画の本筋が発動してしまったわけか・・・危ないところだったな」
セーナが冷や汗をぬぐう。
トゥラーナが頷いた。
既にその体にかかった呪術は解除され、健康体を取り戻している。
「思えばサーワがわしの執務室に頻繁にやってくるようになったのがその後だったの・・・今にして思えば、その時何を話したか、何をされたのかは全く覚えていなかったし、来た事自体忘れさせられていた節がある」
「こやつの体にはこの森のエルフの中で最も純粋で強力な大樹との結びつきがある。
大樹はこの森の地脈の中心でもあるから、恐らくはそれを利用して地脈の力を一気に吸い上げるつもりだったんじゃろうな」
「危ないところだったんですねえ・・・」
お付きで来ていたティカーリが心底からの安堵の息をつく。
寝台の上に上半身を起こしていたサーワが深々と頭を垂れた。
「禁書庫の管理人でありながら禁書に取り込まれ・・・面目次第もございません。申し訳ありませんでした」
「気にしてはいけませんよ、サーワ。むしろあなた一人に禁書庫の守護を任せていたのが私たちの力不足なのですから」
サティがサーワの肩を抱いて慰める。
トゥラーナやナタラ、シャンドラも頷いた。
トゥラーナが座っていた椅子ごとヒョウエたちに向き直り、頭を下げた。
「改めて礼を言うぞ、ヒョウエ。お主らがいなければ、ズールーフの森の同胞たちは全滅していたかもしれぬ」
「いえいえ、友達のためですから」
ちらりと横を見ると、頬を染めたセーナが嬉しそうに頷き、ミトリカもくるくると喜色を露わにして宙に舞った。
「ありがたいことじゃ。この前のそれに加えて礼は厚くせんといかんの」
「ふむ」
ヒョウエが考え込む。
「なんじゃ?」
「そう言う事なら母とのあれこれを話して頂いてもよろしいでしょうか?」
「それはまだじゃの。言ったろう、約束があると?」
「・・・このくそじじい」
ぼそっと呟いたヒョウエにトゥラーナは、老いた顔にいたずら小僧のような笑みを浮かべた。
ふうっ、とナタラが息をつく。
「しかし今回の功績を考えると、ナパティを森に戻す必要があるだろうな」
「まあ、そうじゃの。若もこの森を救ったのだ、獲物を仕留めた狩人には肉の分け前があって当然だろう。そもそも若がこの森を追放された一件にしても、サーワに取り憑いた禁書の仕組んだことではないのか?」
「いや、あれは俺の意志だぞシャンドラ?」
あっけらかんとしたナパティの言葉に、部屋の中に沈黙が下りた。
セーナの額にぴしりと青筋が走る。
冷や汗を浮かべたティカーリが慌てて割って入った。
「い、いやそのね? ナパティ様が覗きとかしたの、あの怪異が悪いんだよね? お願いだからうんって言って!」
「何を馬鹿な事を言っているのだティカーリ! 俺はナパティ! 自分を曲げない男!
責任を他人に押しつけるような不誠実な男ではない!
天地神明、精霊神も御照覧あれ! 俺は俺の望むままに好色であった!」
言っている事は一見格好よく聞こえるが内容は最低である。
ティカーリが頭を抱え、セーナが拳を握った。
「この・・・!」
セーナが立ち上がってこの馬鹿兄に天誅を加えようとした瞬間、部屋が揺れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋に痛いほどの沈黙が満ちる。
全員の視線の先には、木の壁に頭をめり込ませている
裏拳を振り抜いたポーズのまま、ナパティとセーナの母サティがにっこり笑った。
「母さん、久しぶりに親子水入らずで話したくなったわ。そう言うわけですので皆様、失礼ながらちょっと中座させて頂きますね――セーナも来る?」
ぶんぶんぶん、と冷や汗をダラダラ流しながらセーナが勢いよく首を振る。
「その、わしは・・・」
「あなたは来なさい」
「はい」
屠殺場に連れて行かれる豚のような目でナタラが立ち上がった。
冷や汗を浮かべたサーワが懇願するように友人を見上げる。
「その、サティ・・・ほどほどにね」
「大丈夫よサーワ。家族の話し合いをするだけだもの。それでは皆さん失礼しますね」
にっこり笑ったまま、馬鹿息子の頭をわしづかみにして引きずりつつ、虫も殺さぬ風情の貴婦人はサーワの部屋から出ていった。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
部屋にまたしても沈黙が落ちる。それを破ったのはヒョウエだった。
「あー、おほん。お礼で思い出しましたけどセーナとミトリカに贈り物があるんですよ」
「えっ!?」
「えっ!」
対照的な二人の反応。
戸惑いと恥じらいが混じるセーナに比べて、ミトリカは純粋に無邪気に喜んでいる。
反対にモリィ達は、一斉にむっとした顔になっていた。
「えーと、これだこれ。はいどうぞ」
「おお・・・」
「わーい!」
ヒョウエが出してきたのはそれぞれエルフとピクシー用の首飾りだった。
セーナのものは銀のメダルに弓と矢、ミトリカのそれには同じく銀のメダルにディフォルメしたピクシーの図柄が彫り込まれている。
モリィ達の表情が不機嫌から戸惑いになった。
「あ・・・それって」
「ふむ・・・精神感応系の術の気配がするの?」
覗き込んでくるシャンドラに頷く。
「これを身につけていると僕の友達を介して念話が届くようになります。二人には持っていて欲しいんですよ」
「やっぱそれかあ」
納得して頷くモリィ達。同じものを彼女たちも持っているのだ、それは嫉妬することでもない。ちょっとだけもやっとはするが。
「ねえねえヒョウエ、これ付けてよ!」
「わ、私も・・・」
「はいはい」
はしゃぐミトリカと頬を染めるセーナの後ろに回り、銀のメダルを付けてやる。
「ねえ、似合ってる? 似合ってる?」
「ええ、とても似合ってますよ」
くるくる回るミトリカと、熱っぽい目つきでメダルを手に取るセーナ。
「やれやれじゃなあ」
トゥラーナが苦笑してためいきをついた。
毎日戦隊は毎日が毎日日和。
雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。
かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。
全て世はこともなし。
追記:ナパティは「親子の話しあい」の結果、「人間の世界で修行する」という名目でもうしばらく森から叩き出されることになった
ちなみにセーナを始め、ズールーフの森のエルフ達はインドの神様から名前を取ってます。
セーナはシヴァの息子で孔雀に乗る韋駄天(スカンダ)の別名、マハーセーナ(偉大な戦士)から。
セーナの祖父トゥラーナはブラフマーの異名チャトゥラーナナ(四つの顔を持つ者)。
セーナの父ナタラはシヴァの別名ナタラージャ(踊る者)
母であるサティはシヴァの最初の妻の名前から。シヴァの妻は全て輪廻転生した同一人物という説もありますので、カーリーやドゥルガー、パールヴァティのイメージなども混ぜてます。
兄のナパティはガネーシャの別名ガナパティ(衆生の主)。
サーワは学問と技芸の神サラスヴァティ(弁財天)のもじり。
シャンドラは九曜星(太陽と月、水火木金土星と流星、暗黒星の9つの星)とその神々のこと。
その他の名前もインド神話から持ってきたりひねったりしてます。