毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
隊商と赤箱冒険者たちの歓声と感謝の言葉とともに、ヒョウエたちは再び空に舞い上がった。後ろでごそごそと袋を開く気配がする。
「おー、良い香りだなあ。"メナディ"の焼き菓子なんて久しぶりだぜ」
「僕にも下さいよ。メインで働いたのは僕なんですからね」
「へいへい、わかってますって」
後ろから手を回して、袋の中身のビスケットをヒョウエの口に押し込み、自分の口にも放り込む。保存のために固く焼き締めてあるにも関わらず、小麦粉と油脂と砂糖、刻んだ干しリンゴの風味がふわりと口に広がった。
(――――懐かしいなあ)
郷愁。自分でも意外なほどの懐かしさ。もしヒョウエがこの時のモリィの表情を見ていたら、少し驚いていたろう(そして生暖かい視線を向けてはたかれていた)。
だが残念な事に、さすがのヒョウエも頭の後ろに目は付いていない。
「――さん、モリィさーん? 二つめが欲しいんですけどー? まさか独り占めする気じゃ・・・」
「うるせえこのいやしんぼが! 空気読め!」
「むぐぐっ!?」
物思いを邪魔された腹いせに、モリィは二つめを力一杯ヒョウエの口に押し込んだ。
二つめのビスケットを飲み込む頃には、ヒョウエにもクソン村が見えてきていた。
「あれで間違いないですよね」
「ああ、村の入り口の看板に名前が書いてある」
「・・・読めるんですか」
「便利な目だろ?」
にやっと笑うモリィ。ちなみにまだ数キロ離れている。
うーむと唸るヒョウエ。それから一分ほど飛行して、二人は高い柵で囲まれた村の入り口に降り立った。
周囲で農作業やその他の仕事をしていた村人たちが目を丸くしている。
用向きを伝えると、そのうちの一人が村の奥に走り去っていった。
遠巻きにこちらを眺める村人たちを見て、モリィが溜息をつく。
「田舎の依頼は面倒なんだよなあ。あいつら自分で依頼しておいて、あたし達をごろつき扱いするしよ」
「実際そう言う不心得者もいますからねえ・・・まあ見ててくださいよ」
数分ほどして小走りに村長らしき老人が何人かの村人と共にやってきた。
どこか警戒していたその表情が二人を、正確にはヒョウエの派手な衣裳を見た途端にホッとしたものに変わる。
「・・・あれ?」
「結局の所、人間は外見で他人を判断するんですよ。
その辺の人がイメージする『ちゃんとした冒険者』というのは光り輝く鎧を身につけた騎士や、豪華なローブの魔術師、法衣を着た大司教とかなんですよ。上級の冒険者ほどちゃんとした格好をしてるのはそういう意味もあるんです――まあ受け売りですけど」
小声で囁くヒョウエ。今度はモリィの方がうーむと唸る。
冒険者ギルドが設立されるまで、いわゆる冒険者というのはアウトローのごろつきが大半だった。今でもそうした者達がいなくなったわけではない。
一方吟遊詩人の叙事詩では英雄的な冒険者が姫を救ったり怪物を退治したりする。
そうした二極化した認識が農村部では一般的なのだ。
ちなみにいわゆる「カブキモノ」もこうした一般人には比較的ウケがいい。わかりやすいからだ。
繰り返すが冒険者はフリーランサーの何でも屋であり、まず名前と信用を売るのが成り上がる早道だ。派手な格好は一般人からすれば「英雄的冒険者」じみて見えるのである。
なので初心者を脱したカブキモノが「真っ当な」冒険者の格好に切り替える事は実は少なくない。もちろん実力者になってもそうした格好を続ける、もしくは実力者になってからカブキモノに染まる冒険者もいるが。
依頼はトントン拍子に進んだ。
服装とヒョウエの見せた緑等級の認識票で村長たちからの事情聴取その他は順調に進んだし、ゴブリンに足跡を隠すなどという知恵はなかったからモリィの《目の加護》を併用した
後はゴブリンたちを殲滅して、村長に報告すれば終わり。
二人が村の入り口に降りてから一時間も経っていなかった。
半日ほど後、二人はほとんどの依頼を片付けて最後の村に向かっていた。
人喰いサンショウウオと巨大蜘蛛、ウニ怪物はやや手間が掛かったものの敵ではなかったし、水瓶山の巨人は甲冑を着た遺体だった。
知的で「優しい巨人」とも言われるスカイ・トロウル種であったため、仲間がいるにしても周囲の村落や人間に被害を及ぼすこともないだろうと判断、その旨を依頼者である近くの村の村長に伝えた。
ギルドの判断次第で追加の調査があるかもしれないが、取りあえずは依頼完了だ。
「見えたぜ。ファール村だ。あ、ちょい左な」
「はい」
モリィの指示に従って針路を微調整すると、数分して村が見えてきた。
山あいという事を除けば最初のクソン村と大差ない、どこにでもあるような村。
程なく二人は村の入り口に着地した。
クソン村と同じく、村長との折衝は問題なく進んだ。
が、その後巣穴を探して直行することはせず、二人は村の中を見回っていた。
ヒョウエは村長が案内役につけた若者と何やら話をしながら歩き回り、モリィは手持ちぶさたにそれについて行っている。
隠れているつもりなのだろう、子供達がチョロチョロついてきながら家や樹の影から二人を覗き込んでいた。その子供達を横目で見つつ、モリィが首をかしげる。
「なあ、ゴブリンだろ? なにか調べるようなことあるか?」
「ただのゴブリンとはちょっと思えないんですよ。普通のゴブリンなら村に侵入しても火をつけたり人を殺したりして無意味に被害を大きくします。
ところが今回人的被害や家屋の被害がほとんどない。東側の一軒で火事が起きてそちらに注意が向いたところで、家畜小屋が襲われて山羊や鶏がごっそりやられてる。
しかも村の人が気付いたのは火事が消えてから。ゴブリンにしては鮮やかすぎます」
「・・・なるほど」
説明されて、モリィの表情も真剣なものになる。
改めて周辺の地面を観察するが、踏み荒らされて足跡はほとんど残っていない。
「すいません、なにぶん襲われたのがもう五日は前の事で・・・」
「まあしゃーねーか」
若者の言葉にモリィが溜息をついた。
王都から離れた、しかも山奥である。徒歩かせいぜいロバくらいしか移動手段もない。
襲撃があってから依頼を決めるまでの時間、山道を王都まで向かう時間を考えると、村人からすればむしろ驚くべき速度でヒョウエたちが来たという感覚だろう。
恐らく王都に行った村人もまだ帰ってきてはいるまい。
「まあ、ここでわかる事はこのくらいでしょう。"
「便利だな魔法・・・」
「実際にそんなもの使える人は滅多にいませんよ。よほど探知系に長けているか、特殊な素質を持ってるか、さもなければ神様から直接授かるか、そういうレベルです。
いたとしても警邏や政府が高額で雇い入れて手放さないでしょうね」
ヒョウエが肩をすくめた。
二人はゴブリンが陽動で火を放った東側にも足を運んだ。
もう再建が始まっているのか、木を割ったり削ったりする音が響いている。
その中に、長さ10mほどの切り出したばかりの木を担いで運んでくる大きな影があった。身長は3mほど、不格好な人型で二足歩行するフォークリフトと言った感じだ。
「へえ、こんな田舎の村にもあれあんのか。えーと『ぱわーどすーつ』だっけ? それとも『ぱわーろーだー』か?」
「"
ともかく、むしろあれはこうした田舎の村の方が需要が高いんですよ。ああした力仕事には必要不可欠ですからね。開拓を始めるときにはそう言う術師を一人連れていって、代々それを受け継いでいくわけですよ」
「ほーん」
この世界では呪文そのものが実体を持つ事がある。
例えば火球の呪文なら火の球を吐く杖、遠視の呪文なら望遠鏡のような中空の筒、透明化の呪文ならかぶると透明になる布。
術者が死んでも具現化した呪文術式は残るし、魔力を通しさえすれば術者でなくてもある程度術を使うことができる。いわゆるマジックアイテムと呼ばれるものの半分くらいはこれだ。
そして筋力強化の呪文が具現化したものこそ、今目の前で木を運んでいる"パワードスーツ"だった。
どんな術者、どんな呪文であってもこれは起こりうる。
呪文を使っていると、ある日突然"
はっきりとした理屈は真魔法文明衰退とともに失われたが、高度な術式を用いたり、同じ術を繰り返し使ったりすると発生しやすいことは知られている。
「ああいう・・・まあパワードスーツと言ってしまいますが、その手の具現化術式の中でも特に需要が高いですからね。専門の術師集団がいるんですよ。
一族の子供とか素質のある子を引き取って、子供の頃から筋力強化の術だけをひたすら使わせて具現化術式を生み出すんです」
「へーえ。なあ、あいつ借りられないかな。あんな丸太を持ち上げられるなら、人食い鬼くらい殴り倒せそうじゃね?」
誰もが一度は考える事だが、ヒョウエは肩をすくめた。
「やめておいた方がいいですよ。あの手の民生用の装着術式は筋力を本来の術式以上に強化するために速度を犠牲にしてるんです。軍用の装着術式はもちろんそんな事無いですけど、それほど出力が高くなかったり、魔力を馬鹿食いしたりしますからね。
ものによっては一分動かしただけで干からびますよ」
「うへえ、そう言うのは勘弁だな」
なお、魔力を練れない人間でも魔力結晶を組み込めばそうした術式を作動させることができる。ダンジョンで見つけた魔力結晶が高く買い取られるのも、多くは軍用民生問わずそうした具現化術式やマジックアイテムの動力源としてであった。
「というか、そもそも"
「え、マジか?」
「"真なる魔法の時代"には"
「へえ~」