毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
06-01 陰謀の胎動
「
主に犯罪者を相手として、賞金やギルドからの報奨金を収入とする冒険者の俗称。
ライタイム王国の"星の騎士"がその代表格とされる」
――ディテク広辞苑――
「良くやった」
後処理を終えてサフィが酒場に戻ると、楽屋で杖をついた男が待っていた。
40がらみでこざっぱりした格好、均整の取れた体つき。右足は膝から下が棒状の義足。
髪は灰色で顔立ちもそこそこ整ってはいるが、剃刀のような雰囲気と無愛想の極みのような表情がそれを帳消しにしていた。
「マネージャーのおかげです」
サフィが神妙に頭を下げる。
先ほど店の外の音を聞きつけ、サフィアに指示を出したのもこの男だった。
彼女が子供の頃にその才能を見いだし、これまでみっちり鍛えてきたのがこのマネージャー・・・「Q・B」を名乗る男であった。
歌手としての彼女のマネージャーであると共に冒険者としての彼女のパーティメンバーであり、"
常に漂わせる隙のない雰囲気から元はベテランの兵士か冒険者だろうと思ってはいたが、聞いたことはない。
ただ武術や盗賊的な技能のみならず、様々な知識や教養の教授、果ては歌のレッスンまでこなせる多芸ぶりに、元は貴族だったのではないかと思う事はあった。
(それにしては気品と愛想がないけれどね。交渉術は達者なくせに普段は鉄面皮だし)
そんな事を考えているとちろりと睨まれた。
「何か言ったか?」
「いえ、何でもありませんマネージャー」
内心はおくびにも出さず、しれっと答えるサフィ。
QBがふん、と鼻を鳴らす。
「無愛想なのは生まれつきだ。それより今の事件、どう感じた?」
「ひえっ。まあそれはさておきそうですね・・・マネージャーの耳がなければ迷宮入りだったかもしれませんね。青い鎧が片方を捕まえてくれましたけど、そうでなければあちらの方は逃げおおせていたでしょう。
仮にも緑等級であるボクより足が速いとなれば、多分警邏じゃ捕まえきれない。《獣の加護》、それも獣人になれるレベルのそれですから、戦いになったらかなりの犠牲者が出ていたかと」
ぴくり、とQBが眉を寄せた。
「青い鎧が出て来ていたのか――他に気になったことは?」
「そうですね、獣人になれるレベルの《獣の加護》が二人もというのは少し珍しいですか。まあ同類の悪党同士が意気投合したというのもありそうな話ではありますが・・・それでも青い鎧なら・・・」
「サフィア?」
「・・・いえ、なんでもありません。それよりそろそろ次の出番ですね」
「今は歌姫の時間か」
サフィアが指輪の台座をつまんで回すと、服装が先ほどまで着ていた銀のドレスに変わる。
「それじゃ行ってきます」
「ああ」
サフィアが身を翻して楽屋を出て行く。
「・・・」
QBが無言のまま考え込んだ。
「サフィア」
「はい、マネージャー」
遅い夕食の後、QBがサフィアを呼んだ。
彼女らの「アジト」である、QBの所有するこじんまりとした家だ。家主の性格を反映してか中は殺風景で、サフィアの用意した花瓶と花くらいしか装飾と呼べるものはない。
呼ばれたサフィアは背筋を伸ばし、次の言葉を待つ。
「宝石店から奪われた宝石の中に、いわく付きが混じっていたらしい」
「いわく付き、ですか。呪いの宝石とか?」
「少し違うが似たようなものだな。記憶の宝石というのを知っているか? 中に色々な情報を詰め込める、真魔法文明時代の遺物だ。様々な魔法機器にはめ込んで、動きを制御していたらしい」
サフィアの目が鋭くなる。
「例えば兵器のような?」
「可能性はある」
サフィアが顎に手をやって考え込んだ。
「あの二人組は知っていて盗んだのでしょうか?」
「わからないとしか言いようがないな。ただ"レスタラ"、知っているだろう」
「! はい」
"
真魔法文明時代に存在した統一王国の系譜を引くと主張する、50年ほど前に存在した武装組織。
オリジナル冒険者族によって統率されたそれは選民主義を奉じ、古代王国人の血を引く者達による統治を掲げていた。
圧倒的な遺失兵器、空中要塞"
残りの金等級冒険者たちとライタイムから駆けつけた「星の騎士」によって残党も駆逐され、滅びた――はずだった。
「あいつらの体にレスタラの構成員が入れる刺青――髑髏と放射状に交差する三本の剣――があったそうだ」
「レスタラが復活したと!?」
驚きの表情を浮かべるサフィア。
普段は余り仕事をしない彼女の表情筋だが、今回は例外だったらしい。
「予兆はあったようだ。それらしき活動がな。ただ、はっきり尻尾をつかめたのは今回が初めてと言うことだ」
「なるほど」
明らかに公的組織からでなければ入手できない情報。
広い情報網を持つ男であったが、時々こうした不可解な情報を持って来ることがあった。
疑問に思うことがないではないが、それが"
恐らくは官憲なり諜報機関なりにコネがあるのだろう。
ときおりそれらの組織のために働かされているのではないかとも感じてはいたが、たとえそうだとしても犯罪と戦っていることに違いはないし、何よりQBはサフィアに命令しなかった。
拒否したときは「そうか」というだけで叱責も非難もしない。
自分を鍛えてくれた恩義や十数年来の付き合いもあるが、主にそうした理由でサフィアはこの男と組んでいた。
「ではボク達はそれを捜査するわけですか?」
「雲を掴むような話だがな」
QBが溜息をついた。
サフィアが苦笑する。
「手掛かりはないんですか、手掛かりは」
「あいつらの似顔絵くらいだな」
かばんから取り出した紙を二枚、テーブルの上を滑らせる。
片方はサフィアにも覚えがある狼男の変身前の顔。もう一枚にはもう少しごつめの男の顔が描かれていた。
「明日は俺も聞き込みに回る。自分の分は写しを作っておけ。絵はお前の方がうまい」
「マネージャーは芸術的センスに欠けてますからね」
「放っておけ」
QBが鉄面皮を僅かに歪める。それを見たサフィアが少し笑った。
「この人たちを見た事ないかな?」
「ううん」
「しらなーい」
「ひょっとしてねーちゃんたんてい? ヒョウエ様の劇で観たぞ!」
「けいじかも!」
「すぱいだよ!」
「えいごだとどれも『でぃてくてぃぶ』なんだよなー」
「まぎらわしいよ、ねー」
「キミたちは何を言っているんだい?」
戸惑う一幕はあったものの、子供達は何も知らなかった。
サービスで一つずつあめ玉を上げてから、歓声を上げる子供達と別れる。
聞き込みを始めて二時間。いまだに収穫はなし。
地味な服装――当然のように男物だが、豊満な体を隠し切れておらず、かえって目立っている――のサフィアがふう、と息をついて辺りを見回す。
粗末だが不潔ではない格好。
あちこちからかかる呼び込みの声。
スラムの市場であった。
聞き込みの舞台にここを選んだことに特に理由はない。
強いて言うならば、"
《加護》による仮面の一枚であるそれは、名前の通りの能力と技能を有する。
盗賊に近いことも出来るが基本は頭脳労働者であり、情報収集と分析がメインだ。
「さてと。お昼にはまだ時間がある。もう少し聞き込みを・・・」
「さーふぃーちゃーん!」
「おっ!?」
いきなり抱きついてきたのは、あかね色の髪に露出度の高い服装をした20才くらいの女性。
気さくなお姉さんという言葉を形にしたような娼婦、ナヴィであった。
「んー、やっぱサフィちゃんは良い匂いがするねー!」
嬉しそうに頬ずりするナヴィに思わず苦笑が漏れる。
「変わらないねえ、キミも」
「サフィちゃんもね。今日はどうしたの? お仕事?」
「ああ。キミもこの連中を――」
「サフィア?」
「――サナ?」
振り向いた先にいたのは、執事服を隙なく着こなした男装の麗人――ヒョウエの家令、サナであった。