毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
買い物に出て来たらしいサナを見て、サフィアの表情が柔らかくなる。
「サナか。久しぶりだねえ」
「ええ。あなたも元気そうで何よりです、サフィア」
「え? サナさんとサフィちゃん、友達?」
サフィアの首から腕を放して、キョロキョロと二人を見比べるナヴィ。
「ああ。幼なじみさ」
「腐れ縁と言うべきかも知れませんね」
くすくすと二人が笑い合った。
サフィアは武術道場の娘だった。
四人兄妹の末娘で、他の兄弟が男ばかりだったこともあり、かわいがられていた記憶がある。
小さな頃から武術の才能は目を見張るものがあり、一方で歌もうまかった。
家族からは、末は達人か歌姫かとちやほやされたものだ。
今にして思えば《加護》の萌芽だったのだろう。
QBに会ったのは7才か8才の時。
冒険者になったのは15の時。
時を同じくしてサナが両親を亡くし、大公家に引き取られた。
サナの父とサフィアの父は同門の親友であり、二人も子供の頃から見知った仲だった。
大公家に引き取られるのでなかったら、サナはサフィアの実家に引き取られていただろう。
冒険者として巣立つとき、大公家に引き取られるサナと交わした会話を覚えている。
「やっぱり大公家に行くのかい」
「ええ。あなたがいるならヴァーサイルの家にお世話になることも考えましたが」
「それはそれは。出て行くことになって申し訳なかったね」
笑みを浮かべて肩をすくめる。
サナもクスリと笑みをこぼした。
「いえいえ。元からそのつもりだったのは知っていましたし。でも大丈夫ですか? "
「最初のうちはギルドであれこれ仕事を受けるのがメインになるだろうね。
仕事の合間に治安活動をする感じさ。師匠が歌の仕事も取ってきてくれるとは言っているけど」
「師匠、ですか」
サフィアの背後に立つ男をちらりと見る。
屈強ではないが引き締まった、実戦向きの体に目が行く。
片足が義足で杖を突いてはいるが、その立ち姿に隙が見えなかった。
「実際師匠のおかげでボクは随分と強くなった――武術ではそれでも何とかキミと互角程度だけどね」
「私はあなたほど器用ではありませんので」
笑うサナに、サフィアがもう一度肩をすくめた。
「ボクとしてはキミの方こそ心配だけどね。貴族の家に仕えるのも色々大変と聞くよ。大公家なら尚更だろう。そもそもなんで大公家に?」
「大公妃様が母の友人だったようで。まあ、待遇についてもそこに期待するほかはないでしょうね」
「そうか・・・がんばりなよ」
「あなたも」
最後に拳を軽く打ち付けて、二人は別れた。
二人が再会するのは七年後のことになる。
「そういえばキミの王子様は元気かい?」
「ええ、今日も今日とて、借金返済のために飛び回っていますよ」
溜息をついてサフィアが周囲を見渡した。
「かなわないね、まったく。ボクがクライムファイターを志したのは
青い鎧といい、キミの王子様といい、彼らのおかげでボクの人生設計は狂ってばかりだよ。ここのところは歌姫が本業みたいなものさ」
よよよ、と芝居がかって嘆いてみせるサフィアにサナが苦笑する。
「でもサフィちゃん、この前も泥棒捕まえたりと頑張ってたじゃない。サフィちゃんが頑張ってるから助かってる人、いると思うよ?
それに青い鎧や領主様がいなかったころ、スラムのために頑張ってくれてたのはサフィちゃんだけだった。助けて貰った人はみんな感謝してるんだよ。
もちろん私も」
「ふふ、ありがとう」
ナヴィの頬に軽くキスをする。
「えへへ」
その顔が嬉しそうに笑み崩れた。
歓声を受けて青い鎧が空に舞い上がった。
眼下の通りには昏倒して警邏に束縛された男と、手を振る女性と警邏の姿。
通り魔に刺されて負傷した被害者と、それを止めようとしてやはり負傷した警邏だったが、青い鎧によって怪我どころか服の穴や血のりも綺麗に消えていた。
満足そうに頷いて手を振り返し、空の彼方に飛び去ろうとして――ふと青い鎧が北の方を向く。
一瞬逡巡して、青い鎧がそちらに飛び去った。
("
目指す先は王都北西にある瀟洒な屋敷の一つ。
幻影を発動して、カラスの幻影を自分に重ねる。
人一人入るほどのカラスは明らかに巨大すぎるが比較するもののない空中、下から見上げてそれに気付くのは難しい。
(げっ)
庭で待つ人影を見て、思わず青い鎧がうめいた。
心の中で盛大に頭を抱えつつ、着地と同時にカラスの幻影を解除する。
バルコニーで先ほどから青い鎧の名前を呼んでいた男がほっとしたように叫ぶのをやめた。
庭のあずまやに設置されたテーブルセット。
そこに年の頃20ほどの貴婦人が座り、傍らには40ほどに見える長身禿頭の男が立っている。
貴婦人が立ち上がり、スカートのすそをつまんで優雅に礼をした。
「ごきげんよう青い鎧様。メットーの守護騎士、民を守るもの。
わたくしはディテク王国第二王女カレン・スー・ボッツ・ドネ。
まずは招待に応じて頂いたことに感謝いたしますわ」
にっこり笑う従姉に顔を引きつらせつつ――この時ほど、青い鎧を表情の見えないデザインにしたことを感謝したことはない――少なくとも外見は鷹揚に頷く。
「丁寧な御挨拶痛み入る。それがしは青い鎧。ただその様にお呼び頂きたい」
「かしこまりましたわ。それでは青い鎧様。わたくしと一緒に朝のお茶などいかがですか」
「頂こう」
(どうしてこうなった! どうしてこうなった!)
悠然とした態度を維持しつつ、頭の中で裸のヒョウエが転がり回っていた。
ティータイムが始まった。
傍らに控える長身禿頭の男――ヒョウエも知っている王国諜報機関"
どういう理屈なのか、青い鎧は面頬を上げないまま茶を飲み菓子を食べている。
茶や菓子の消える口元をカレンが真顔で見つめていた。"
いくらかの世間話の後、ややあってカレンが話を切り出す。
「"レスタラ"? それはまた古い名前が出て来たものですな」
「わたくしもそう思っていたのですけれどね」
よそ行きの態度で優雅に溜息をつくカレン。
普段の傍若無人な暴君の顔しか知らないヒョウエにとってはむしろ新鮮な心地すらする。とは言えもちろん、それに騙されるようなことはない。
「何か確証がおありか?」
「ええ、実は先だってあなたが"白百合の騎士"と協力して捕まえた宝石泥棒。その盗んだ宝石が――」
カレンの話は、先だってサフィアがQBから聞いたものとほぼ同一であった。
"
「記憶の宝石については、釈迦に説法かしら? あなたが破壊してくださったあの真魔法文明の遺失兵器もそれで動いていたと聞いておりますわ」
「うむ。あれはいささか苦労いたした」
「いささか、ね」
カレンが苦笑する。"
「まあともかく同じようなことが起こりうると考えてよいのですな?」
「王家転覆、世界征服を企む武装組織でしてよ。少なくとも快適な生活のために冷蔵庫や洗濯機を揃えようという話ではないでしょうね」
真なる魔法文明の時代には家事や様々な生産活動を行う魔道具も多数作られていた。
それらを揃えるのが上流階級のステータスの一つであったりもする。
「つまり、レスタラの痕跡を追えと」
「無論、命令ではなくお願いですわ。王家の力をもってしても、あなたに何かを強制できるとは思えませんもの」
艶やかな笑顔。だがその裏にある腹黒さを知っているヒョウエとしては、内心で肩をすくめるしかない。
「そう言う事であれば否やはござらぬ。元より人々を守るのが我が務めゆえに」
「王家と、ディテクの民を代表してお礼申し上げますわ」
「うむ」
鷹揚に頷くと青い鎧は立ち上がった。内心ではこの場から一刻も早く逃げ出したい思いで一杯である。
「ところであなたに連絡を取りたいときはどうすればよいのかしら。よろしければ王宮の南西の塔に青い旗を掲げた時にこの屋敷で会うようにして頂けるかしら?」
「よろしいかと存ずる。茶と茶菓子、美味にござった。ではまた」
非の打ち所のない所作で一礼すると、青い鎧は空の彼方に消えた。