毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「戦闘態勢!」
中尉と呼ばれていた男の鋭い命令が響く。
猫の登場で弛緩していたレスタラ構成員たちが一斉に動いた。
「中尉」を始めとした男女たちが待機中で展開状態の具現化術式に体を滑り込ませ、素早く起動する。
具現化術式を纏った強化兵が次々と立ち上がり、他の者も弓や剣と言った武器を手に取る。
その間にサフィアは猫を抱いていた手を離す。
「ほら、さっさと行きなよ!」
「ナ"ー?」
首をかしげながらもふとっちょ猫は床に降りたってキャットウォークを走って行く。
この期に及んで構成員たちの殺気に微塵も怯えていないのはある意味大物だろう。
「"
「!?」
隣の倉庫に通じる扉に無数のヒビが入ったかと思うと、次の瞬間無数の破片にばらけて飛び散った。
「ぐわっ!?」
クロスボウの男を始め、具現化術式を装着していなかった大半の者が破片に打たれて倒れる。
扉から現れたのはヒョウエたち。
「ちっ! 全員キャットウォークの奴を撃て!」
「!」
念動で体を浮かせ、ヒョウエが飛び出した。
同時に指揮官が整備台の横に設置されていた魔法装置らしいもののスイッチを叩く。
「!?」
モリィ達とテロリストたちの間に発生する揺らめく壁。
モリィの雷光が壁に阻まれて四散し、カスミの手裏剣が弾かれて床に落ちる。
指揮官以外の魔導化歩兵達が手にした筒――日本人が見れば一目で銃だとわかる物体――の筒先をサフィアに向ける。
身を翻して明かり取りの窓を目指して走り出すが、距離が絶望的に遠い。
「なっ!?」
咄嗟に前に飛んで伏せようとするが、その刹那、足元が崩れてボコリと穴が開いた。
古くなっていたレンガのキャットウォークに穴が開く。足元を取られてたたらを踏んだのと、魔導化歩兵が手にした銃が火を吹くのが同時。
「――!」
そしてまた同時に。
一瞬早く形成前に力場の壁をすり抜けたヒョウエがサフィアと銃弾の間に滑り込んだ。
全力で展開される念動障壁。
銃弾が炸裂し、爆発が起こる。ヒョウエが吹き飛ばされ、壁に大穴を開けて外に消えた。
それと同時にキャットウォークが崩れ、サフィアは投げ出された。
壁を蹴って瓦礫に巻き込まれないよう距離をとりつつ、身を翻して着地する。
着地と同時に剣を抜いて構える。
ほとんど同時に19の銃口がサフィアに向けられた。
「ヒョウエくん――! くそっ!」
その顔に浮かぶのは悔恨。
自分より年下の、親友の大事な人である少年を犠牲にしてしまった事への。
「サナに何と言って詫びればいいんだ・・・!」
だが状況は感傷にひたることを許してくれない。
突きつけられる銃口は微動だにせず、ヒョウエの仲間達は力場の壁の向こう。
モリィが雷光銃のチャージを始めているが、サフィアを救うには間に合うまい。
具現化術式を装着した指揮官が一歩踏み出した。
「終わりだ、ヒーローのお嬢さん。どうだ、命乞いでもしてみるか? 我々も案外情け深いかもしれないぞ?
なんなら戦争規範にのっとって捕虜として扱ってやろう」
「断る!」
「ほう」
剣を突きつけて、きっぱりとした拒絶。
指揮官が思わず感嘆の声を漏らした。
「理由を聞いても?」
「キミが言ったじゃないか。ボクがヒーローだからさ!
確かにヒーローだって負ける事はある・・・けど、敵に降参するヒーローなんていやしない!」
そのまっすぐな視線に指揮官の男が眼を細める。
「残念だよ・・・その信念、その勇気、その気高さ・・・同じ旗を仰いでいれば、貴女は私の尊敬すべき同胞だったろう。
最後に名前を聞いてもいいかな?」
「礼儀を知らない人だね? 人に名前を尋ねる時は、まずそちらが名乗るものじゃないかい?」
いたずらっぽく微笑むサフィアに、指揮官の男も苦笑する。
「おっと、これは失礼した。私は
「(やはり・・・)ディテク王国緑等級冒険者、サフィア・ヴァーサイル。人呼んで『白百合の騎士』!」
堂々と名乗りを上げるサフィアに、シャトレイが敬意のこもった眼差しを送る。
「そうか・・・ではお別れだ、白百合の騎士。私は貴女の気高さを永遠に忘れまい」
シャトレイ中尉が手を上げる。
「ちっ!」
力場の壁の方へ走り出すサフィア。
「無駄だ! 潔く死を受け入れたまえ!」
シャトレイの言葉と共に再び火を吹く銃口。
爆発が起こった。
「――――」
「なっ・・・」
「こいつは・・・!」
思わずサフィアの足が止まった。
その瞬間、空気が渦を巻いた。
何かが空気を押しのけたのだ・・・具現化術式より強く、弾丸より早い「何か」が。
まるで魔法のように忽然と、その「何か」はそこに存在していた。
翻る紅いケープ。
銃弾は再び受け止められていた。
今度は、青い騎士甲冑によって。
「青い――鎧!」
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
「魔導兵器を弾き返すだと――まさか、貴様が噂の青い鎧か!」
「まあ、それがし以外にそんな真似が出来る者がいるなら会ってみたいものではあるな」
笑みを含んだ青い鎧の声。
「総員撤退っ!」
シャトレイが一瞬で判断を下す。だがそれでも遅きに失した。
命令と同時に力場の壁をまばゆい光の奔流が貫き、力場発生装置が火を吹いて機能を停止する。
「なっ!」
驚愕と共に振り向いたシャトレイの目に映ったのは、魔導武装らしきものを両手で構える黒髪の少女、突貫してくる白のサムライと侍女ニンジャ。
そこまで見てとった瞬間に強烈な衝撃を受け、シャトレイの意識は暗転した。
瞬時に半数を青い鎧が打ち倒す。
いくら防御力を高めてあるとは言え、人間サイズの強化具現化術式では青い鎧の一撃を防ぐべくもない。
そして残りの半数も、モリィ、リアス、カスミ、サフィアによってまたたく間に駆逐された。
生き残った内の数人が、青い鎧の影から出たサフィアに再び銃口を向ける。
せめて一矢報いたいというのだろう。
「!?」
だが連射された弾丸は、ことごとくサフィアの体をすり抜けるようにして外れた。
後ろの壁面で爆発が起こる。
(――見える!)
"剣士"の
その赤い線から身をかわすと、一瞬遅れて弾丸がその線上を正確になぞって通り過ぎる。
二十本の火線は避けきれなくとも、数本ならば。
緑等級冒険者の速度で接近された魔導化歩兵たちは二射目を発射することも、接近戦武器に持ち替えることも出来ず、防御の薄い関節部を的確に貫通されて動けなくなった。
「これで最後っ!」
ほとんど同時に、最後の一人をリアスが斬り伏せている。
もう倉庫の中には、彼ら以外動く者はいなかった。