毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
06-07 そもそもの始まり
「オリジン(名詞) 起源、由来、源。アメリカン・コミックスにおいては特に特定のキャラクターの生まれ育ちや原体験を描いたものを指す」
――アメコミ用語辞典――
サフィアが"
二十年近く前の事だ。
当時出来たばかりのスラムで知らない子供と友達になった。
サナとも一緒に三人でよく遊んだものだ。
王都から300キロばかり離れた村に住んでいた子供で、畑の作物が全滅して食べていけなくなり、王都まで流れてきたのだった。
その頃は天候不順と飢饉で多くの難民が王都に流れ込んでおり、比較的空白地が多かった南西部に人が集中して難民キャンプに近い状況になってはいたが、まだ一頃ほどに治安は悪くなかった。
本格的に治安が悪くなるのは難民が集まって元からの住人が去り、王都の犯罪者たちが流入するようになってからだ。
難民たちには犯罪を起こすほどの気力もなかったと言った方が正確だろうか。
彼らはただただ生きる為に必死だった。
それでも弱い人々が集まるところには、それを食い物にしようとするやからが集まってくる。
そうした流れの中で事件は起きた。
「離せ、ニカを離せよ!」
「うるせえっ!」
「ぐっ!」
「サフィアちゃん! サフィアちゃん!」
小汚い男に抱えられた少女が泣き叫ぶ。
もう一人の男に蹴り飛ばされてサフィアが地面に転がった。
「ま、待て・・・」
石畳に叩き付けられた頭がぐらぐらする。
唇が切れて血が垂れている。
朦朧とする視界の中で男たちが走り去っていった。
「ニカが悪い奴らにさらわれたんだよ! 助けてよ!」
「けどなあ・・・」
「スラムの子だよな。難民だろう?」
「そんな!」
サフィアの懇願に、困った顔をしつつも動こうとはしない警邏たち。
王都の警邏が全員正義感溢れる働き者ばかりというわけではない。
とはいえこれでも彼らはまだマシな方だ。タチの悪い連中は権柄ずくで賄賂を要求し、気に入らない者に難癖を付けて暴力を振るう。
加えてニカが難民だということが話を難しくしていた。
王都に難民が流れ込み始めてまだ数年、王都の人々から見れば彼らはよそものという意識がある。
彼らも子供が相手だからまだしも柔らかく応対しているが、大人だったらもっと冷たくあしらわれたことだろう。
人さらい達も、だからこそ難民の子供を狙った。
ニカの家族も沈んだ顔で、娘はもう戻らないものと早々に諦めている。
「いいんだよ、もういいんだよサフィアちゃん」
疲れ切った顔でそうこぼしたニカの祖母の顔を、サフィアは今でも思い出せる。
苦難と絶望にうちひしがれ、全てを諦めてしまった人の顔。
カッと頭に血が昇った。
「必ず、必ずニカを取り戻すよ!」
「あ、ちょっとお待ち・・・」
ニカの祖母が止める間もなく、サフィアはスラムの街路を走り去っていった。
「お願いだよ、サナ。ニカを助けるのに力を貸してくれ!」
「わかってます。必ずニカを助けましょう」
家族も二の足を踏む状況、サフィアが頼れるのは親友であるサナしかいなかった。
二人で手分けして、あちこちを探し、あるいは人に話を聞いていく。
子供だからと侮られ、邪険にされながらも二人は根気よく聞き込みを続けていった。
サフィアは年齢の割には恐ろしく頭の回転が速かったし、サナには親に叩き込まれた礼儀正しさといくらかの教養があった。
そして、どちらも運動能力の高さと武術の腕には自信があり、それらは聞き込みの中で役に立った。
特に、間違ってやばそうな相手に話しかけてしまったときには。
「まだ追ってきますよサフィア!」
「意外としつこいな! ひょっとしたらあいつも人さらいかもしれないね!
次の角で曲がって、すぐそこのテントに飛び込むよ! うまく行ったら後をつけるんだ!」
「了解です!」
言うなり二人は林立するテントの間に逃げ込み、姿を消した。
後を追ってきていた男たちはしばらくその辺をウロウロしていたが、やがて立ち去っていく。
テントの中で二人の少女が笑みを交わした。
「あんがとね、おばあちゃん」
「いいさ、困ったときはお互い様だよ」
「悪い奴に追いかけられてるんです!」と飛び込んできた二人を布団の中に隠した老婆は、歯抜けの口で笑う。
老婆に礼を述べると、二人は今しがた追いかけてきた男たちをつけ始めた。
自分たちをつける影があるとは思いもせず。
「うわっ!?」
「このっ・・・ぐっ!?」
幸運は何度も続かなかった。
「運悪く」人さらい達のアジトを突き止めてしまったサフィアとサナは、ヘマをしでかして人さらいどもに捕まった。
粗末な、それでも家の形をとどめた小さな倉庫の中、人さらいの拳が羽交い締めにされたサナの腹に突き刺さる。
大人の男の拳に、サナが胃液を吐いた。
「サナッ!」
「~~~~~っ!」
少女の悲鳴が上がる。縛られ猿ぐつわをかまされたニカと他の誘拐された少女も、くぐもった悲鳴を上げた。
「てめぇもだっ!」
「ぐっ!」
サフィアが拳で頬を張られる。
七才の少女に対して、大の男が手加減も遠慮もなしに暴力を振るう。
十度ほど殴られて意識が朦朧としたところで、男の手がぴたりと止まった。
「・・・!?」
首をかしげた瞬間、どこからか声が響いた。
「火事だ! 火事だぞ!」
この時朦朧としていたサフィアは気付いていなかったが、裏口の方から煙が入り込んできていた。
男たちが一斉に顔を青ざめさせ、サナやサフィア、さらった少女たちも放り出して出口の方へ殺到した。
「・・・?」
「サフィア・・・大丈夫ですか・・・っ」
腹を押さえながらサナが起き上がる。
頷きつつ、サフィアは周囲をいぶかしげに見回していた。
「どうしたんです、サフィア」
ニカたちの縛めを何とかほどいてやろうとしつつ、サナが首をかしげる。
「いやね――火事という割に、煙は出ているけど何かが燃える音は聞こえない。
そもそもあれを見なよ。裏口の下の方から煙が入り込んできてるだろ? 火元がよほど近いか、さもなきゃこの小屋が燃えていないとおかしいんだ。つまりこれは・・・」
「正解だ」
「「!」」
サフィアとサナがはじかれたように振り向く。
入り口から入って来たのは、20代半ばとおぼしき男だった。
鍛えた体付きをしているが、右足が義足で杖を突いている。
「あの、あなたは・・・」
「運に恵まれたとは言え人さらいのアジトを突き止めたのは大したものだ。褒めてやる。だが詰めが甘い。
加えてあちこち聞き込むのは自分の存在を相手に知らせることでもある。
情報収集のつもりでこちらの情報を垂れ流していては本末転倒だ――だが見込みはある。
そのつもりなら南東区画の俺の家に来い。東から3区画目、"
一方的に喋ると、男はきびすを返した。サナが慌てて呼び止める。
「ちょっと待って下さい、警邏に通報を――」
「もうした。お前達は王都の生まれだろう? お前達が踏み込んで捕まったから、この事件は『難民の行方不明』ではなく『メットー市民の誘拐事件』になった。お手柄だな」
「・・・」
僅かに笑みを含んだ声を残して、男は姿を消す。
警邏が到着したとき、小屋の表には手足を折られてうめく犯人たち、裏には何か薬品を燃やした跡が見つかった。
「・・・」
「サフィア?」
男の消えた戸口をじっと見続けるサフィア。
彼女が義足の男――QBに弟子入りしたのは三日後の事だった。