毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-08 正義の誕生

 QBの指導は恐ろしいほど的確で、厳しかったが体を壊すほどに厳しすぎはしなかった。

 素手や武器を使った戦闘技術、地理や言語とそのアクセントの違い、人種の見分け方、文化風俗から様々な教養に至るまでの広範な知識、足跡追跡や鍵開け、尋問、変装、聞き込みや情報分析と言った技能を徹底的に叩き込んでいく。

 

 常にギリギリを見極め、現時点のサフィアならかろうじてクリア出来るというラインを限界まで追求する。

 サフィアが壊れない程度に技術と知識を叩き込み、肉体をいじめ抜く――そのギリギリの見極めが恐ろしくうまかった。

 

 そして限界を超えれば次の日にはまた新たな限界を超える試練を課される。

 その繰り返し。

 

 誰もが――武術家の父ですら案じるほどの厳しい訓練に、サフィアは黙々と励んだ。

 最初はいぶかしがり怪しんでいた家族もQBの巧妙な説得と、何よりサフィア自身の熱意に負けてそれを許容していた。

 

 加えてQBが仕込んだのが《仮面(ペルソナ)の加護》の効率的な使い方だった。

 通常部分的にしか切り替わらない「仮面」を暗示と切り替えのスイッチとなる動作を設定することによって、それぞれの仮面を更に特化させ、尖った能力に鍛え上げる。

 

 平均的な(平均と言うほどこの《加護》の持ち主は多くはないが)《仮面の加護》の持ち主が、全能力と技能のせいぜい三割ほどしか組み替え出来ないのに対し、サフィアは実に八割の能力を切り替える事ができる。

 筋力を知力に、耐久力を知覚力に、剣の技能を医師の知識に、交渉能力を魔法に。

 切り替えられないのは子供の頃から身につけていた武術の基本と歌くらいのものだ。

 

 状況に合わせて剣士にも術師にも学者にも探偵にも軽業師にもなれる。

 その気になれば優秀な盗賊やスパイになれたし、商人や大道芸人になりすますのもお手のもの。

 

 超一流でこそないが、あらゆる方面で一流と言っていい"万能の冒険者(ユーティリティ)"。

 それを一通り完成させた15の春、QBはサフィアが冒険者となり"犯罪と戦うもの(クライムファイター)"となることを許可した。

 いつものように無言で軽く頷いて。

 

 

 

「待てーっ!」

「な、なんだっ!?」

 

 スラムで活動を開始したサフィアの、最初に出会った犯罪者はひったくりのチンピラだった。

 身体能力と運動に特化した"競技者(オリンピアン)"の仮面によってぐんぐんと距離を詰めてくる少女に仰天する小汚い男。

 

「ちくしょう、このガキがっ!」

「!」

 

 逃げ切れないと判断したか、ナイフを抜いて男が斬りかかってくる。

 動揺して仮面の切り替えが遅れた。

 それでも"競技者"の仮面の身体能力で大きく後方にジャンプしてその場を逃れると、指で額に印を描く。

 "剣士(フェンサー)"の仮面をかぶり直し、剣を抜く。

 

「らああああっ!」

「くっ!」

 

 サフィアが逃げたと解釈し、気を大きくして斬りかかってくる男。

 通常であればサフィアの相手になるべくもないチンピラだ。

 だがその時、サフィアの体はろくに動かなかった。

 ぎこちない回避、力んだ突き、冷静さを失った大振り。

 数分程度の斬り合いだったが、当時のサフィアには一時間ほどにも感じた。

 

「はあ、はあ・・・・・・」

「いてえ・・・いてぇよぉ・・・」

 

 レイピアで手足を突き刺され、身動きできなくなったひったくりを、荒い息をついてサフィアは見下ろしていた。

 ぽん、とその肩が叩かれる。

 びくりと震えて振り向くと、QBがいた。

 

「落ち着け。俺は敵じゃない。剣を向けるな」

「あ・・・」

 

 反射的に細剣を向けていたことに気づき、赤面して剣を下ろす。

 

「師匠、ボクは」

「お前にとっては最初の実戦だ。相手がチンピラとは言え、初めての命のやりとりでそれだけ出来れば上等だろう」

「・・・ありがとうございます」

 

 先ほどの無様な戦いを思い出す。

 十年磨いてきた戦闘技術をろくに出す事も出来なかった。

 身体能力さえ活かせていたとは言い難い。

 

 ガチガチに緊張した体で素人のように突き、素人のようにかわす。

 思いだしても恥ずかしい戦いかただった。

 

「最初は誰でもそんなものだ。いずれ慣れる。それよりまわりを見てみろ」

「まわり・・・?」

 

 今始めて気がついたように周囲を見渡すサフィア。

 周囲をこわごわと囲んでいた人々から、まばらに拍手が上がる。

 全員ではないにしろ多くが笑みを浮かべている。

 子供達が歓声を上げた。

 

「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます!」

「良くやったぞ!」

「ねーちゃんかっけー!」

 

 姿勢を正して深く頭を下げるサフィア。

 強くなる拍手。

 QBがごく僅かに――注視していなければわからないほどの――笑みを浮かべた。

 

 

 

 それなりの間、クライムファイターとしての自警活動は仕事の合間にしかできなかった。

 確かに当局は犯罪者に賞金をかけているし、現行犯で捕まえた犯罪者なら賞金がかかっていなくても"嘘発見(トゥルース・セイヤー)"の魔道具でチェックを受けて証明できれば報奨金が支払われる。

 

 とはいえその額は雀の涙で、先ほどのひったくりならダコック銅貨二十枚。一日分の宿代にすらならない。それだけでは到底食って行けなかった。

 であるから、この頃はそれなりに冒険者らしい冒険者をやっていた。

 

 パーティを組んで隊商の護衛、ゴブリン退治、ダンジョンアタック。

 猫を探したこともあれば金持ちの家の警備をしたこともある。夏場には氷結の魔法で氷を作って売りもした。

 

 それに加えてQBの仲介で酒場で歌い日銭を稼ぐ。

 彼をマネージャーと呼び始めたのもこのころだ。

 そんな生活が二年ほど続いた。

 

 青等級に昇進したのを機にパーティを抜け、自警活動に専念することにした。

 しきりに引き留められたが、最後には納得してくれた。今でもたまに会う。

 

 この頃には時折ある賞金首の捕縛や歌(趣味でもあるので歌うのは続けた)でそれなりの収入が入るようになっており、通常の冒険者活動で金を稼ぐ必要は無くなっていた。

 無論これはサフィアが上澄み中の上澄みだからであって、一般にクライムファイターと言われるような人々の大半はやはり赤等級か青等級。

 冒険者活動や実家、理解者からの援助がないと暮らしていけない者が大半だ。

 

 それでも彼らがクライムファイターとしての活動をやめないのは、やはり根本的にこの世界の治安が悪いからだ。

 彼らのほとんどは自分や家族が犯罪に巻き込まれた経験がある。

 義務感や正義感と言ったものは無論あるが、犯罪と戦わずにはいられない衝動を持ったものが大半だ。

 本質的に復讐者(アベンジャー)である、犯罪と戦う者達。

 それがクライムファイターと呼ばれる人種であった。

 

 

 

 それから更に数年、緑等級に上がった頃には白百合の騎士の名は王都中に轟くようになっていた。

 犯罪者の巣窟であるスラムを駆け、悪を懲らし弱きを助ける美貌の女剣士。

 英雄(ヒーロー)と呼ばれるようになり、吟遊詩人は彼女の武勲を歌い、絵姿が売られるようにもなった。

 彼女がスラムを歩くだけで歓声が上がり、人さらいや強盗はコソコソを身を隠す。

 ある程度ではあるが成し遂げた、と思った。

 目標であった、スラムに平和をもたらしたと。

 

 そして更に数年後、自警活動を始めてから七年目。彼女は希望と絶望を同時に見る事になる。

 

 

 

「・・・」

 

 呆然と空を見上げる。

 その場にいた全ての人々と同じように。

 

 ファンファーレが鳴った。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 ファンファーレと共に現れたそれは青い騎士甲冑を纏った屈強な巨漢。

 当時メットーを荒らし回っていた強盗団の巣窟を探り当て、全員を苦もなく打ち倒して捕縛した。

 強盗団の情報を手に入れるために聞き込みをしていたサフィアは、スラムの人々と共にそれを呆然と見上げていた。

 

 そして青い鎧は一時だけの存在ではなかった。

 犯罪が行われるところ、またたく間に現れ、傷ついた人々を癒し、壊れた家を直す。

 

 時を同じくして出奔したヒョウエによってスラムそのものも見る見るうちに正常化された。

 炊き出しが日常的に行われるようになり、下水や街路が修復される。

 テント村が素朴な木の家になり、雨風を凌げるようになった。

 経済活動が起こり、ゆっくりと富が分配されていく。

 

 二年ほどの内にスラムは貧民街ではなくなった。

 犯罪は青い鎧によって根絶された。

 そしてサフィアはそれをただ呆然と見ているだけだった。

 

 ――彼女の心に鬱屈した(おり)がつもり始めたのはこのころだ。

 犯罪を減らしてパトロールをするだけで何かを成し遂げた気分になっていたような自分がたまらなく恥ずかしかった。

 

 いつしか、自警活動も機械的になっていく。

 青い鎧はスラムから犯罪を根絶した後も王都の犯罪と戦い続け、盗賊ギルドはついに暗殺と強盗から手を引いた。

 

(ボクは何をした?)

 

 何も。何もしていない。

 

(ボクは何のためにいる?)

 

 いてもいなくても変わらない。その程度の存在。

 

(ボクは――ボクは誰だ?)

 

 その問いに答える者はいない。

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