毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-11 苦手な冒険

「"床凍結(アイスバーン)"!」

 

 石床に突いたサフィアの手から、ヒョウエたちの足元をすり抜けて術式が走る。

 それは前衛のリアスとカスミの一歩手前で発動し、幅3mの石畳の通路の表面を薄い氷で覆い尽くす。

 

「GRRR!?」

 

 巨大な棍棒を振りかざして突撃してきたトロール達が雪崩を打って見事に転ぶ。

 目の前にまで滑ってきた一匹の首にリアスが一刀を送り込み、綺麗に切り離す。

 カスミが素早く松明で傷口を焼き、再生を防いだ。切り離された頭は声を上げることも出来ず、むなしく歯を鳴らす。

 それでも強靱な生命力でジタバタする仲間の体を這い上がって二匹目が接近するが、四つん這いで突き出た顔にモリィが躊躇なく雷光を叩き込んだ。

 

「~~~~~~~ッ!」

 

 思わず棍棒を取り落とし、両目を押さえ膝立ちで悲鳴を上げるトロール。

 跳躍したリアスが水平にふるった一刀がトロールの首と両手首を切り離し、悲鳴がやんだ。

 

「GWOOOOOッ」

 

 一方通路の奥ではいくつもの怒号が上がっていたが、スイカが砕けるような音とともにそれらが次々にやんでいく。

 風を切って飛ぶのはヒョウエの鉄球。

 それが次々とトロール達の頭を砕き、程なくトロール達は全て沈黙した。

 

「サフィアさん、呪文の解除を。カスミ、手分けして傷口を焼いてしまいましょう。僕が奥から行きますから、カスミは手前からお願いします」

「了解だ、ヒョウエくん」

「かしこまりました」

 

 ヒョウエが奥に飛び、"発火(イグナイト)"の呪文を発動させる。

 カスミは手前から頭部を失ったトロールの傷口をたいまつで焼いていく。

 程なくしてジタバタしていたトロール達の体も絶命し、魔力で構成された肉体が消散して魔石が後に残された。

 

 

 

 数時間後。

 一行は早くも第五階層までたどり着いていた。

 ヒョウエの攻略した「郊外の保養地(サバーブ・リゾート)」と違い、ここ「"迷宮と豹(ラビリンス&レパーズ)"」は石造りの人口建築物(に見える)ダンジョンで、暗い石組の通路は名前通りの地下監獄(ダンジョン)らしさをかもし出していた。

 初手がトロールであったことからもわかるとおり、次々と現れるモンスターも「郊外の保養地(サバーブ・リゾート)」上層部に比べてかなり手強く、総じて中級者以上向けのダンジョンと言えた。

 

「まあ、その分実入りもいいって事なんだけどね♪」

「だよな!」

「いやあ、かけだしの頃を思い出すと天と地の差だなあ。あの頃は苦労したからねえ・・・ヒョウエくんは本当にいい腕といい仲間を持ってるよ、うん」

 

 弾んだ声で会話を交わしながら、足取り軽く進むのはサフィアとモリィ。

 ヒョウエとカスミの「隠しポケット」には既に山のような魔力結晶と拾得物(ドロップアイテム)が収められている。

 金で色々苦労してる分、実感がこもっていた。

 

 ヒョウエも苦労していると言えば言えるが、本質的に王族(ボンボン)なのでそこまで無邪気には喜べない。

 苦笑していると後ろから頭をわしゃわしゃとやられた。

 

「どうしたどうした。君だってお金には苦労してるんだろう? もっと喜んでもいいじゃないか」

「まあ確かに貧乏暇なしと言うやつではありますけどね。僕の場合は額が大きすぎて実感が湧かないというか」

「あーまあそれはそうか」

 

 何しろ端の方とは言え首都の1/5ほどの土地を買収するほどの金額だ。

 王族価格と言うことで多少割り引いて貰ってはいるものの、貴族や王族の尺度からしても目のくらむような金額には違いない。

 

「とは言え少し疲れましたね。次に部屋に入ったら一休みして腹ごしらえしましょうか」

「さんせーい」

 

 嬉しそうにモリィが同意した。

 

 

 

念響探知(サイコキネティックロケーション)

 

 扉の前、ヒョウエが室内に念動の波を送り込むと、静まりかえっていた扉の中が一転してギャアギャアとけたたましい鳴き声に包まれた。

 

「ありゃ、気付かれてしまいましたね。強行突入しますよ」

「オーケイ」

「了解ですわ」

「かしこまりました」

 

 モリィとカスミが素早く位置を入れ替え、リアスが盾を構えて扉の前に進み出る。カスミとヒョウエがその後ろに続いて飛び込む姿勢。カスミは"閃光(フラッシュ)"の詠唱を既に済ませている。

 が、後はヒョウエの号令だけというところでサフィアが声を上げた。

 

「あ、ちょっと待ってくれ」

「はい。どうしたんです?」

 

 ヒョウエの反問には答えず、サフィアが額を指でなぞる。

 しばらく扉の中の音に耳を澄ませた後、もう一度額を指でなぞり、短く何かを呟いた。カスミと同じくあらかじめの呪文詠唱。

 

「『~~~~~』。よし、いいよ。突入してくれ」

 

 詠唱を終えたサフィアが、ヒョウエの前に割り込んで三番手に突入する位置につける。

 サフィアの編んだ術式を見てとり、ヒョウエが片眉を上げた。

 

「それは・・・ふむ。いいでしょう、突入!」

「はいっ!」

 

 リアスが今度こそ扉を蹴り破る。

 ちょうつがいごと吹き飛び、分厚い樫の木の扉が部屋の奥まで飛んでいく。

 

「ギャブッ!?」

 

 不運にも、それをまともに食らって奥の石壁に叩き付けられ、動かなくなったのは人より一回り大きな蝙蝠獣人(マンバット)

 

「光よ!」

「沈黙のとばりよ!」

 

 カスミとサフィアの呪文が続けざまに発動する。

 

「・・・・・・・・!?」

「・・・・・・・! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 

 光に目を灼かれ、沈黙の空間に包まれたマンバットたちが右往左往する。

 彼らは目も決して鈍くはないが、蝙蝠だけあって超音波による音響探知(エコーロケーション)に周囲の感知を強く依存している。

 つまり、沈黙の空間は彼らにとっての真っ暗闇に等しい。

 加えてカスミの呪文でなけなしの視覚も封じられたマンバット達にリアスの剣とヒョウエの金属球、モリィの雷光が襲いかかる。

 戦闘も逃亡も何一つ行動する時間を与えられず、マンバットたちは全滅した。

 

 

 

「いやあ、お見事。中の連中が蝙蝠獣人(マンバット)だとよくわかりましたね?」

 

 リアスが吹き飛ばした扉を修理・溶接しつつ、ヒョウエがサフィアを見る。

 カスミが既に荷物を広げて休息の準備を始め、リアスとモリィがそれを手伝っていた。

 

「まあね。マネージャーから色々な動物の鳴き声は教え込まれたんだ。

 その中にたまたまコウモリのものもあったのさ」

 

 扉の中から聞こえる鳴き声に何か聞き覚えがあるなと思ったサフィアは"学者"の仮面(ペルソナ)をつけて、その声がコウモリの物に良く似ていること、コウモリが音で周囲の物を探知することを思いだした。

 そして"術師"の仮面(ペルソナ)をかぶって"沈黙(サイレンス)"の呪文を発動し、音響探知(エコーロケーション)を封じたというわけだ。

 

「動物の鳴き声を覚えるとこう言う時に役に立つのですね。考えもつきませんでしたわ」

「合図に使うこともございますね。例えばふくろうの鳴き声がしたら味方とか」

 

 準備を終えたモリィがほがらかに声をかける。

 

「なんだ姐さん、ダンジョン苦手なんて言って全然やれんじゃねえの」

「たまたまだよ、たまたま。青等級の頃までは本当に苦労してたんだって。いや、本当にきつかったなあ」

 

 苦笑しながら、サフィアが遠い目になった。

 まあ、基本(シティ)の冒険者である彼女にとってダンジョン攻略や怪物の相手は得手でないのは確かだろう。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「おお、これは綺麗なものだね」

「先日バーバンク子爵という方のお菓子作りを手伝って、お土産に頂いたものなんですよ」

 

 食後のお茶を楽しむ一行。お茶請けは透明な寒天を固めた中にピンク色の花びらを浮かべたもの。川に流れる花びらをイメージして「花の筏」と呼ばれる菓子だ。

 例の事件の後また生クリーム作成に呼ばれた、その時のお土産である。

 

「そういえば少し前にサナが『お裾分けです』とお菓子を持ってきてくれたけどそれも?」

「あの四本腕のオッサンの時かな」

「多分そうですね。あの時は事件解決のお礼に食べきれないくらい貰いましたし」

「四本腕?」

「ああ、それは・・・」

 

 古代遺物(アーティファクト)の胴鎧から生えた腕で二刀流どころか四刀流を駆使する暗殺者、バリントンの話などをして時間が過ぎていく。

 しばらく雑談を重ねて茶を飲み干したあたりで、一行は探索を再開した。




 「花筏」という和菓子は実在します。
 大体作中で描写したとおりの形状。
 実に綺麗でおいしそうでした。
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