毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「ふむ」
杖を手放してヒョウエが溜息をついた。
「大工のトンカチには反応なしか」
「
階層を降りるたび、また数百メートル移動するたびにヒョウエは
場合によっては最近覚えた透視の術も併用する。
事前の予想通り相手がダンジョンの構造を変化させていた場合の事を考えてだ。
なお透視と言っても目の前の壁を抜けてその先の光景が見えるわけではない。
あくまで自身から2mの範囲内のものを壁を抜けて知覚できるだけだ。
(なので壁の近くにいなかった蝙蝠獣人を知覚できなかった)
現在地下十二階。中級のダンジョンではかなり奥の方。
通常のパーティなら数日かけて降りてくる領域だ。
チート魔力で金属球を操るヒョウエ、古代遺物である雷光銃の使い手であるモリィ、同じく古代遺物である魔導パワードスーツ"白の甲冑"をまとうリアス、光の術に多彩な忍び道具を駆使するカスミ。
実力では既に緑等級も遥かに超えている彼らだからこそ、途中の怪物達をほぼ全て瞬殺し、驚異的な速度でここまで来れている。
サフィアもダンジョンが苦手とは言いつつ、的確な支援と臨機応変のカバーリング、時折ヒョウエも舌を巻くほどの知識量でパーティに貢献している。
この辺は流石に緑等級冒険者。加えて十年分の経験が物を言っているのだろう。
「とは言え入ったのが遅かったですからね。流石に今日はこの辺で大休止しましょう」
「ダンジョンの中で野宿か。やったことないけど大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。とっておきの手段がありますから」
「・・・なるほど、これは確かにとっておきだな」
「でしょう?」
ヒョウエが野営場所として選んだのは壁の中だった。
正確に言えば壁の中に穴を掘って出来た空間だ。
念動で壁を剥がし、"物質分解"で掘り進め、空気穴だけを残して跡形もなくふさぐ。
火を使わなければ窒息することもない。完璧な隠れ家である。
「一応一人ずつ見張りに立って寝ましょう。術を使って疲れてるカスミとサフィアさんは最初と最後で。僕は《加護》がありますのでほとんど疲れてませんから」
「そういえばそうだったね。オーケイ、お言葉に甘えよう」
「それではお先に立たせて頂きますので、皆様お休み下さい」
何事も無く休息は終わり、周囲にモンスターや冒険者がいないのを
そして二日後。
「だあああああっ、どうすんだよ、隅から隅まで全部攻略しちまったぞ!?」
「攻略ではなく踏破ですね。ダンジョン・コアを安定化させてません。
未踏破領域まで全部マッピングしましたから、そこそこの稼ぎにはなりましたけど」
「んなこたどーでもいいんだよ! いやもうかったからそれはいいけど、レスタラもアジトも影も形もねーじゃねーか!」
「ヒョウエくんの念響探知でもモリィくんの《目の加護》でも見つからないということは、通常の手段じゃちょっと見つからないだろうね、これは」
サフィアが溜息をつく。
何やら考え込んでいたリアスが、晴れ晴れとした表情で顔を上げた。
「名案を思いつきましたわ! ヒョウエ様が得意とするのは念動と物質破壊の魔法・・・ならばそれでダンジョンの入り口を破壊してしまえばいいのです!
情報を手に入れるのは難しくなりますが、少なくともアジトを潰すことはできるでしょう!」
「「「「・・・」」」」
その場に沈黙が落ちた。
「あ、あの・・・何か問題がありましたかしら?」
「大ありです」
静かに、しかし真冬の風のような声でだめ出しを叩き付けたのはカスミ。
その目が既に真っ青に染まっている。
「え、その、なんで怒って・・・?」
「一般の冒険者の方が巻き込まれたらどうするんです! 普通の方は瓦礫を押しのけることも、石壁に穴を開けることも出来ないんですよ!」
「そ、それは入場者名簿で他に冒険者の方がいないのを確認して・・・」
「目撃された数人以外、誰がレスタラの構成員かわからないんですよ? 一般の冒険者のふりをされたら見分けが付きません。
何食わぬ顔で重要な書類なり証拠なりを持ち出されておしまいです」
「え、ええと・・・」
言葉に窮するリアス。モリィが溜息をついた。
「お前本当に脳筋だなあ」
「も、モリィさんに言われたくはありませんわ!」
「ンだとぉ!?」
例によってぎゃあぎゃあと始まる言い争い。ヒョウエが苦笑した。
「まあ、アジトを潰すという点では申し分ない策なんですけどねえ。
最低限ここのアジトが使えなくなればいいわけですし。
ただ、長続きはしないので効果に疑問があるのと、もう一つ問題が」
ダンジョンは神の夢である。言い換えるとコアを中心に形作られた一つの異界だ。
ダンジョンによって差もあるが、崩落しても一週間ほどすれば大概は自動的に修復される。アジトとしての機能を潰すなら、定期的に破壊しなくてはならない。
「なるほどねえ。それでもう一つの問題というのは?」
「最低億単位の賠償金を課されることになります」
「そりゃあかんわ」
溜息をついてモリィが天井を仰いだ。
「モンスターの暴走でもない限り、ダンジョンの故意の破壊は極めて重罪ですからね。
死ぬことも許されず、ガチガチに精神制御魔法をかけられて一生奴隷として扱われるというルートもありますが」
「大逆罪よりはマシというレベルですわね・・・」
リアスの額に冷や汗がにじんだ。
「まあそう言うわけですので、ちょっと魅力的ではありますがこの案は・・・」
「いいや? 存外悪くないとボクは思うな」
「え」
「えっ?」
驚きの視線が集中する。くっく、とサフィアが笑った。
翌日。
ヒョウエたち五人が、今度は姿を現して堂々とダンジョンに入る。
それと時を同じくしてダンジョンの入り口のある村中央の広場、そこに面した冒険者向けの雑貨屋。
店先で居眠りしていた主人が奥に引っ込んでいくのを誰も見とがめなかった。
店の奥の住居、タンスの隠しスペースから奇妙なペンダントを取り出す店主。
中央の突起を押し込んで少し待つ。
やがてピッ、という奇妙な音と共にペンダントの中央が発光し始めた。
『こちら"穴熊"。こちら"穴熊"。"雑貨屋"、どうした』
「こちら"雑貨屋"。今ヒョウエ王子が現れた」
『何っ!?』
数秒間沈黙が落ちた。
『おい、"雑貨屋"。応答しろ。それで、王子はどんな様子だった?』
「どういう手段を使うかはわからないが、どうも王子はダンジョンを破壊するつもりらしい。今ギルドにねじ込んでいる。入り口を崩落させてアジトとしての機能を失わせるつもりだ」
『何と言うことだ・・・くそっ!』
「どうする?」
『・・・そちらは引き続き通常通り任務を継続しろ。あくまでも普段通りだ。何かあったと気取られるな。
「了解した。任務を継続する。
ペンダントの点滅が止まる。
ふう、と息をついたのは店主ではなく、カスミだった。
いつのまにか通話相手が変わっていた事に、"穴熊"と名乗った男は気付いていない。
カスミが振り向いた先には、沈黙の空間の中に囚われた店主とそれを押さえ込むリアス。
首筋にナイフを突きつけるQBと、術を維持するサフィア。
「向こうも地上を見張る人間を誰か配置しているはずだ」というサフィアの推測は正解だった。
まずヒョウエが幻影の
ダンジョンの入り口を見張れる場所は限られるから、そこで動いた者を抑えればいい。透明化してモリィの《目の加護》で見張っていれば不可能な話ではない。
そこに飛び込んでスパイを取り押さえ、カスミの声色で偽情報を流す。
半日ほど遅れて馬でやってきていたQBとも相談して決めた策であった。
モリィがにやっと笑って親指を立てる。
カスミが微笑んで頷いた。