毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「GYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」
無数の足音が大地が揺るがす。
数え切れないほどのゴブリンどもが口から泡を吹き、奇声を上げてトラル市の北城壁に駆け寄る。
メットーの西10日ほどの場所に位置する、ディテク王国第四の都市だ。
「術師隊、構え!」
対する城壁の上に、二十人ほどの男たちが立ち上がる。
ローブ、軽い革鎧、僧衣に鎖かたびらなど服装も年齢も様々な一団だが、共通しているのは両手の間に1m前後の燃えさかる火の玉を浮かせていること。
軍や冒険者、
「撃てぇーっ!」
「ツァーッ!」
「"
20を越える火球が一斉に放たれた。
城壁に殺到してくるゴブリンの大群に向かって100mほど飛んだそれは着地点で炸裂して、それぞれ直径20mを越える爆発を起こす。
「GYAAAAAAAAAAA?!」
「GY・・・GYGY・・・GYABU!」
悲鳴を上げて、あるいは悲鳴を上げる暇もなく絶命するゴブリンたち。
爆発の端の方にいたものは大やけどを負いながらもかろうじて生きのびていたが、後に続く同族たちに踏み砕かれて先に逝った仲間の後を追った。
「GYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」
だが仲間の死を見ても全く怯えることなく、残ったゴブリン達は遮二無二突っ込んでくる。
臆病で慎重なこの種族には通常あり得ない行動。
数十年に一度起こるモンスターの大攻勢、"
(だがそれにしても異常すぎる・・・前回のそれから二十年も経っていないというのに)
城壁の上で指揮を執るヒゲの騎士が、まだ叙勲を受ける前の従士だった前回の"
とは言えおかしくても何でも、モンスターからこのディテク第四の大都市を守るのが彼の任務だ。
ちらり、と城壁の上の
「ぜえ、ぜえ・・・」
「はあ・・・はあ・・・」
「スー・・・ハー・・・スー・・・ハー・・・」
先ほど巨大な火球を放って千を越すゴブリンを屠った術師たちは、体力を使い切って城壁上の矢狭間にもたれかかっていた。
術を使うには魔力を練る必要があり、魔力を練るには体力を消耗する。
全力の術を放った術者は個人差もあるが通常の疲労と同じく、全快するのに一時間から二時間を要する。
大半は息も絶え絶えであえぐばかり。一部の高度な修行を積んだものが座禅めいたポーズで呼吸法を行い、体力を効率よく回復しようとしていたが、それでも先ほどの規模の術をもう一度放つには二十分ほどはかかるだろう。
火球の術一つに絞って修行を積んでいる火投げ師たちだが、術の熟練とともに威力や魔力効率も上がるとは言え、人間という器には自ずから限界がある。
チートの塊であるヒョウエや、小規模な術がメインのカスミでもなければ普通はこのようなものだ。
「火投げ師たちを安全なところまで連れていけ! しばらく我々でもたせるぞ!」
「「「オオオオオッ!」」」
武器を構えて気勢を上げる王国軍の兵士達。
「弓隊構え! ありったけ撃ち続けろ!」
「弓隊撃てーっ!」
続く号令とともに雨あられと矢が放たれる。
無数のゴブリンが矢に貫かれて絶命するが、それと同じくらいのゴブリンどもが草原を駆け抜け、城壁に取りついた。
枝を落としていない木を城壁に立てかけ、それをはしご代わりにして城壁を昇っていく。
「油落とせーっ!」
「GYYAAA!?!?!?」
城壁上、鉄鍋でぐつぐつと煮えたぎるひまわり油やコールタールがぶちまけられる。石や生ごみ、割れた壺や壊れた家具など、ありとあらゆるものもだ。
悲鳴を上げながら、後続を巻き込んで次々とゴブリン達が落ちていく。
上から更に松明が投じられ、油やタールにまみれた木が炎上する。
「せーの、で押すぞ!」
「「「「せーの!」」」」
炎上して登れなくなった木を槍やさすまたの先端で押しやり、城壁のてっぺんから外す。
隣の木を巻き込み、ゴブリン達の悲鳴を響かせながら木が城壁の下に倒れていった。
時にはそれでも木を登り切り、城壁に到達するゴブリンもいる。泡を吹いて狂ったように戦うゴブリンに兵士達も手を焼くが、それでも何とか押し返す。
「ゲホッ!」
「ゴホッゴホッ!」
その様な事を何度も繰り返し、城壁の下は燃える生木の丸太が山積みになった。
生木から立ち上る煙にいぶされ、城壁の上の兵士達が激しく咳き込む。
だがそれはゴブリン達もこの城壁を登れないと言うこと。
「これで小鬼どもが諦めてくれればいいんだがな・・・」
そんな事はあり得ない、という口調で騎士が溜息をつく。
果たしてその直後に伝令が駆け寄ってきた。
「隊長! 西側にゴブリンどもが移動しつつあります!」
「よし、一番隊はここを守れ! 残りは西の城壁へ移動する!
ゴブリンどもを絶対に城壁の中に入れるな!」
「オオッ!」
一時間近い攻防で疲労しているものの、それでも兵士達は意気軒昂に武器を掲げて雄叫びを上げた。
激しい攻防戦が続く。
西の方に回り込んだゴブリン達がやはり木を立てかけて城壁を昇ろうとする。
「弓隊、てーっ!」
「GBBBB!」
矢が降り注ぐが、枝どころか葉もろくに払っていない木は矢の雨を地面に通さない。
ヒゲの騎士が弓隊の射撃をやめさせた頃には、ゴブリン達は再び城壁の下にたどり着いていた。
「油落とせーっ! 弓隊は後続を撃て!」
「GYYAAA!?!?!?」
再び現出する阿鼻叫喚の地獄絵図。
全身やけどを負ったゴブリンどもが悲鳴を上げて落下する。
そんな攻防が更に数十分続いた。
ゴブリンに登り切られる事も多くなり、負傷者が増える。矢や油などの消耗品も残り僅かだ。
やがて先ほどと同じく、城壁の下は燃えさかる生木に埋め尽くされ、煙が視界を遮る。
そしてその後の展開もまた。
「隊長、ゴブリンどもが今度は南に!」
「聞いたな! もう少しだ、気合いを入れろ!」
「「「オウッ!」」」
疲れた体に鞭を打ち、兵士達が走る。
もう油も矢もない。立てかけられた木を力任せに外し、登ってきたゴブリンを気力だけを頼りに斬り殺す。壮絶な消耗戦。
「"
「おおっ!」
その時、ようやく回復した火投げ師たちが地上に全力の火球を放った。
炸裂した火球が地上のゴブリンと、そして立てかけられた木の根元を焼く。
火球の呪文で着火した木の根元が煙を上げ始め、何匹かのゴブリンが落下する。
「ここが最後だ! 勝つぞ!」
「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」
疲労困憊、満身創痍。
それでも歯を食いしばって槍の穂先をゴブリンに突き立てる。
短くも激しい戦闘の後、城壁の上に登ってくるゴブリンはいなくなった。
立てかけられた木を外し、下に落とす。
やがて生木の煙が視界を覆った。
「・・・うおおお」
「ウオオオオオオオオ!」
最初はぽつぽつと、やがて次々と歓声が上がる。
紛れもない
騎士もそれを止める気はなかった。
地上で生き残っていたゴブリンの数は既に百を切っている。
恐らくは逃亡するだろうし、更に東に回り込んでくるとしても、負ける数ではない。
勝利と言って良かった。
――そのはず、だった。
「・・・・・・・」
東の城壁から駆けてきたであろう伝令の姿を見て、なぜだか心臓をわしづかみにされたような気がした。
怯えきった目。動揺が明らかに見て取れる動き。
「た、隊長殿、た、た、・・・」
「落ち着け! 深呼吸二回! 何があったか正確に、簡潔に話せ!」
命令通り、伝令は深呼吸を二回繰り返してから背筋を伸ばし、叫んだ。
「東の城壁近く、森の中からゴブリンの新手が現れました! その数およそ五千!」
城壁の上が凍りついた。
勝利の雄叫びがピタリとやみ、多くの兵士が膝からくずおれる。
泣き出すものもいた。
「そんな・・・そんな・・・」
「ちくしょう・・・ここまでやったのに」
「勝てっこねえ・・・」
「まだだ! まだ負けたわけではない! 立て! 俺達の街を守るんだ!」
騎士の檄にも兵士達は反応しない。
緊張の糸がぷっつり切れた。意気地が折れた。勝利の高揚から絶望に叩き落とされた、その落差が人の心を凍りつかせる。
「・・・神々は我らを見放したもうたか」
天を仰ぐヒゲの騎士。
その表情がふと動いた。
「――――?」
「!?」
「え・・・?」
心折れていたはずの兵士達もまた、天を仰いだ。
聞こえるはずのないものが聞こえた気がして。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
「!」
「隊長っ!」
「言わんでいい! 見えてるっ!」
東の方角に、巨大な白い爆発が起こった。
「立てる奴だけでいい! ついてこいっ!」
言い放って騎士が走り始める。驚くほど多くのものがその後についていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
たどり着いた東の城壁から、呆然と彼方を見つめる。
数千とも一万とも思える無数のゴブリン達が、氷像となって立ち尽くしていた。
その上空にはためく真紅のマント。
「何だあれは・・・青い、鎧?」
青い騎士甲冑がこちらを振り向く。
次の瞬間、目にも止まらぬ速度で「それ」は空の彼方に消えた。