毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-16 白の翼

「ふう・・・」

 

 城壁から離れたトラル・シティの中央部。

 幻術とカスミの透明化の術を組み合わせて戻ってきたヒョウエが溜息をついた。

 なおサフィアに対しては青い鎧の仕業というところは何とか誤魔化している。

 

「お疲れ」

「お疲れさまでした。しかし、この時代の人間でない私たちが軍のみなさまを助けてよかったのでしょうか・・・確かにここは夢の中のようなものと聞きますが」

「そうですが、苦難に陥っている人間を助けないのはどうでしょうか、カスミ」

 

 難しい顔で首をひねるカスミとリアスにヒョウエが苦笑する。

 

「そうなんですけど全く非現実というわけでもないようですしねえ。

 何よりこの町がゴブリンに蹂躙されるのは見たくないじゃないですか」

「それについては全面的に同意するよ」

 

 頷いたサフィアが眉を寄せた。

 

「しかし、五十年前のメットーにいたかと思えばいきなりトラルか。

 どうも脈絡がないね」

「多分これは歴史書で見たトラルシティ攻防戦ですね。

 後の調査で、真なる魔法文明の時代のアーティファクトを使って人工的にゴブリン達の暴走を引き起こしたと判明したはずです」

「ゴブリンにしちゃやけに手際が良いと思ったが、そう言う事か」

 

 スプリガンがゴブリンの群れを操っていたファール村の事件を思いだし、モリィが顔をしかめる。

 

「・・・実際の歴史ではどうなったんですの、これ?」

「東の城門を破られましたが、応援に駆けつけた冒険者の奮戦もあり、何とか撃退しました。ただ守備兵と騎士団は大損害を受け、市民にもかなりの犠牲者が出たはずです」

「それは・・・やはり助けて良かったと言うべきなのでしょうね」

「まあ、多分ね」

 

 ヒョウエが肩をすくめるのと同時、青い空に白い筋が一本走った。

 

「お」

「なんだありゃ?」

 

 ヒョウエが眼を細め、まぶしそうにその白線を見上げる。

 

「あれがその応援に駆けつけた冒険者ですよ。"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"。この時代の、ディテク最強の金等級冒険者です」

「・・・マジか! マジだ! 本物だ!」

 

 《目の加護》によってその姿をはっきり捉えたモリィが、興奮して声を上げる。

 額に一本、ユニコーンのような角が伸びた銀の騎士甲冑。純白に青の縁取りをしたサーコート。

 背中には火と煙を吐く細長い樽のようなものを背負っており、その側面から白銀の、金属とも有機物ともつかない不思議な材質の翼が広がっている。

 

 モリィも寝物語に聞かされ憧れた、伝説の英雄。

 命を賭けてメットーと四十万の市民を救ったヒーロー。

 

「・・・ああ」

 

 ヒョウエと同じくまぶしそうに眼を細めて嘆息し。

 白い光が走り、周囲の情景が消失した。

 

 

 

 

「やったな、ウォル!」

「僕は何もしてないよ。あの青い鎧の人のおかげさ、ジェット」

 

 髪を金色に染めて逆立てた派手な男が、"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"の胸甲を軽く拳で叩く。背中の翼はたたみ込まれたのか、姿を消していた。

 

「結果は同じさ。生き残りを掃討したのはお前なんだしな!」

「まあそうだけど」

 

 白銀の兜を脱いだその顔は、意外なほどに若い少年のものだった。

 やさしげで、むしろ気弱そうな顔に苦笑を浮かべている。

 

「百匹かそこらだったし、自慢にはならないよ。ほとんど全部トラルの守備隊と、例の青い鎧を着た人のおかげさ」

「あれもすげえよな。何者だろう?」

「少なくとも僕たちの味方だよ。それで十分さ」

「お前は単純すぎるんだよ。もうちょっと疑り深くなってもいいんじゃねえか?」

 

 屈託なく笑う金等級冒険者"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"に、"黒琥珀(ジェット)"と呼ばれた派手な男は肩をすくめた。

 

 

 

 それからも、白い光が瞬くごとに情景は"白の翼"を中心として進んで行った。

 レスタラの尖兵との戦い。

 ジェットを始めとする仲間達との協力。

 時には誰も救えずに涙することもあった。

 

 

 

 村が焼き払われていた。

 人も、家畜もみな死んでいる。

 "白の翼"たちが駆けつけたとき、もう動くものは何もなかった。

 兜を脱いだ"白の翼"――ウォルが涙を浮かべる。

 

「この人たちは、騎士でも兵士でもなかった! ただの、ただの村人だったのに!」

「10km先にレスタラの大部隊がいる。王国軍にこの村を拠点にされると、連中としてはまずいことになってただろう。補給拠点としても潰しておいた方が得策だ」

「ジェットッ!」

 

 激高したウォルがジェットの胸ぐらを掴む。ジェットは無言。

 

「・・・」

「・・・」

 

 しばらくして、ウォルが胸ぐらを掴んだ手を離す。

 そのまま力なく地面にへたりこんだ。

 ジェットが葉巻を取り出し、吸い口を噛み切って火をつける。

 漂う紫煙。

 そのまましばらくウォルも、ジェットも動かない。

 何度目かに煙を吐き出した後、ジェットが口を開いた。

 

「なあウォル。俺達は戦争をやってるんだ。いい加減慣れろよ」

「・・・」

 

 ウォルは無言のまま。

 言ったほうもわかっている。

 こいつは決して兵士になれない奴だと。

 素朴な街の少年がたまたま古代のアーティファクトを見つけてヒーローになってしまった時から、まったく変わっていないのだと。

 

 半世紀前、モンスターの脅威は今より遥かに大きかった。

 人族の領域は現在に比べて圧倒的に狭く、辺境の村がモンスターに襲われて一夜にして壊滅することも珍しくない時代。

 そうしたモンスターたちに戦いを挑み、辺境の村々を護り続けてきたのが"白の翼"とその仲間たちだった。

 もちろん軍への所属を熱心に求められたが、ジェットがそれらを全て断っていた。

 

 ウォルが決して兵士になれない人間だと、彼は知っていた。

 金等級冒険者ではあるが、冒険者でないことも知っていた。

 彼はただ、ヒーローだった。

 だからこそ、ヒーローだったのだ。

 

 ウォルが立ち上がった。

 ジェットが葉巻を投げ捨てて、靴底で踏み消す。

 

「行けるのか?」

「行くさ。そうでなきゃ、誰も守れない」

「また、間に合わないかもしれないぜ」

「だとしても、だよ」

 

 ウォルが白銀の兜をかぶる。

 ただの青年が英雄になるための儀式。

 

「今日の僕は失敗した。誰も助けられなかった。

 けど明日の僕は違うかもしれない。誰かを助けられるかも知れない。

 今日の僕は無価値だ。だが、明日の僕には価値がある」

「そうかい」

 

 ジェットが"白の翼"の肩を叩く。

 二人は仲間達の方に向かって、歩き出した。

 

「"狩人(ハンター)"から連絡があった。"髑髏王(トーテンコプフ)"の新しい古代兵器が現れたそうだ。もうすぐ奴らの前線基地に到着するらしい。

 このへんの村にはまだ人が残ってる。そいつらが逃げる時間を稼ぐ――いや、俺達でその古代兵器をぶっ潰すんだ」

「ああ。必ず破壊してやるさ。僕たちがみんなを守るんだ」

 

 二人は歩いて行った。まっすぐに。

 




ジェット(黒玉)は樹木の化石である真っ黒な石ですが、昔は琥珀(こちらは樹液の化石)の一種と考えられていました。
こちらの世界ではまだその認識ということですね。
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