毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「どうだ、アラタズ?」
肉体に戻ってきた仲間にジェットが聞いた。
手品師でもあり、霊魂を操る術に長けたこの術師は、自らの魂を体から抜け出させて自由に行動することが出来る。今はその能力を使って敵の野営地へ偵察に行っていたところだった。
結跏趺坐を組んでうつむいていたアラタズが体を起こし、深呼吸をする。
「確かにそれらしいのがあった。俺の知識じゃわからないが、真魔法文明時代の
「魔導兵器なのか?」
「わからんと言ったろう。俺は古代文明の研究者じゃない」
肩をすくめるアラタズ。"
「どうする、ウォル。強行突破か?」
地平線の上に灯る野営のかがり火の群れを見ながら、ジェットが尋ねる。
一万近い敵部隊に対して僅か数人の冒険者集団ではあるが、それでも神のごときとまで言われる金等級の
そしてそれらの会話を、カスミの術で透明化したエブリンガーの面々が少し離れた場所で聞いていた。
周囲には沈黙のとばりも下ろし、音は一方通行で集音しているので、音を聞かれる危険性もない。
「どうします?」
「別にいいんじゃないか? こっそり助けちゃえば」
「ですわね」
ヒョウエの問いに、サフィアとリアスが頷く。
わかっていて頷くのがサフィア、わかっていないまま頷くのがリアスだ。
溜息をついてカスミも頷いた。
「モリィはどうです?」
「いや、もうやっちまってるしそれは構わないけどよ・・・」
「けど?」
「どうせならああいう普通にかっこいい名前の
「怒りますよ?」
ヒョウエがモリィを睨んだ。
からかうでなく、ニヤニヤするでもなく、しみじみと溜息をついたのが逆に癇に障ったらしい。
「事実だろぉが。毎回受付の姉ちゃんに笑われる身にもなってみろよ」
「うぬぬぬ」
反論の余地のない事実を前に歯ぎしりするヒョウエ。
もっとも、こんな事を言っているモリィも、(懐にそれなりに余裕も出て来たのに)敢えて改名しようとは言い出さないので何をか言わんやではある。
「・・・ふふ」
"
真魔法文明時代の装束を模したその軍服は、ファンタジー世界のそれと言うよりは現代世界やSF世界のそれをイメージさせる体にぴったりした上下一続きのジャンプスーツ。
鎧下としての機能も考えてか体のあちこちにクッションを入れて厚みを持たせているのは、ある種の宇宙服か特撮ヒーローのスーツのようにも見える。
「"ノイエ・ヨルカー"。この距離からメットーを砲撃できるとは、何と言う素晴らしい兵器か。やはり真なる魔法文明こそ世界を統べるにふさわしいのだ」
ワイングラスを掲げて見上げるのは、画見台に掛かった抽象画。
ヒョウエや美術愛好家など、見るものが見れば真魔法文明時代の絵画だとわかっただろう。
「技術だけではない。文化の面でも我ら"
グラスを傾け、紅い液体を喉に流し込む。
「冒険者族などという異世界人の作った醜い都などいらぬ。メットーの消滅した跡に、我らの理想の・・・」
「たた、大変ですシャトレイ准将!」
「ぬおっ!?」
天幕の入り口の布をかき分けて走り込んできた部下の形相に、思わずむせる。
口元をハンカチで拭いて、走り込んできた部下の少尉を怒鳴りつけた。
「何を慌てておるか! "
「は、はい、申し訳ありません!」
直立不動で謝罪する部下。
無様をさらした溜飲が多少なりとも下がったのか、シャトレイは落ち着きを取り戻して再びワインを口に含む。
「それで? 何があった? つまらぬ事なら承知せんぞ」
「そ、それが・・・」
「それが?」
「"白の翼"が正面から殴り込んできましたっ!」
シャトレイが盛大にワインを吹き出した。
「うおおおおおおおおおおおおーっ!」
"
ヒョウエのそれに似た見えない障壁が全身を覆っており、特に翼がまとうそれに触れたレスタラ兵は、かがり火やテントごと吹き飛ばされていく。
それを踏みしだくのが左右四本、計八本の馬蹄。
そしてもっと異様なのが更にその後に続く巨大な猿。
ゴリラにも似ているが身長4mを越え、馬とほとんど変わらない速さで四つ足で疾走する。
"白の翼"と二騎の騎士の攻撃をまぬがれたレスタラの兵士達を、腕の一振りで吹き飛ばし、叩きつぶす。
"白の翼"の仲間の一人、「コンゴ」と呼ばれる男。
《獣の加護》を持つ彼は、極めて優秀な五感と身体能力、野性の勘を持つ
だが"
「怯むなっ! 小数だ、囲んで倒せっ!」
「魔導化部隊はまだかっ!」
急襲を受けたにもかかわらず、兵士達は統率の取れた動きで隊伍を組み、それなりの矢が冒険者たちに降り注いだ。
大盾を構えた重装歩兵部隊が壁を作り、"白の翼"たちの行く手を塞ぐ。
だが矢は障壁に、鎧と盾に、分厚い毛皮と筋肉に弾かれる。
鋼鉄と人間の壁は亜音速で飛行する翼の戦士に吹き飛ばされ、赤と青の騎士の軍馬に踏み砕かれ、巨大ゴリラの拳に薙ぎ払われる。
「防げ! 防げーっ!」
「奥まで通すなっ!」
人の身である限り、これらに対抗できようとは思えなかった。
だがそれでも"
吹き飛ばされるのを承知でこれらの、人の姿をした暴威に立ち向かっていく。
「理想王国の建設のために!」
「優良種たる復古の民が統治する世界の為に!」
その目には紛れもない狂気がある。
「おーおー、派手にやってるぜ」
(お前の頭ほどではないと思うがな)
「うるせえよ。こいつは俺のポリシーだ」
"白の翼"たちが突入している反対側、草むらに隠れて野営地に近づくジェットの姿があった。
"
"白の翼"達が暴れている方角で爆発音がし、夜空を切り裂く光が走る。
(レスタラご自慢の魔導化兵士部隊が出て来たぞ。急げ)
「ああ」
言葉少なにジェットが頷く。普段の軽い調子とはまるで別人。
そのまま二人は野営地に突入する。その服装はレスタラの兵士のそれだ。
今暴れている四人は陽動。彼らが敵の目を引き付けている間に、隠密担当のジェットがアラタズの案内で古代兵器に接近し、これも古代兵器である小型魔導爆弾で破壊するのが作戦だった。
「西の方に松明の明かりが見えたぞー! 西の方にも敵がいる可能性がある!」
右往左往する兵士達に紛れ、デマを叫びながら古代兵器に向かって一目散に走る。
その耳がぴくりと動いた。
「おい、アラタズ。北の方が騒がしくないか? 別働隊がいるのか?」
(いや、そんな話は聞いてないが・・・ジェット、あれだ!)
「おっと了解だ・・・ちっ、奴らも動きが速い」
古代兵器「ノイエ・ヨルカー」。その形状は我々の世界における列車砲にどことなく似ていた。
そのの周囲を既に兵士達がぐるりと囲んでいる。実弾式魔導銃を装備した魔導兵だ。
あれをすり抜けて古代兵器に接近するというわけにも行くまい。
それでも何食わぬ顔をしてその列に加わろうとすると、腕をぐいと掴まれた。
「貴様、我ら復古の民の同胞ではないな?」
「!」
ふりほどこうとするが相手の方が一手早かった。
掴まれた腕を振り回され、受け身も取れずに地面に叩き付けられる。
仮にも金等級冒険者であるジェットをだ。
一瞬朦朧としたところに追撃が来る。踏み下ろしたブーツの靴底がアバラをへし折った。
「ぐっ」
それでも短くうめいただけで後ろに転がり距離をとる。
「ほう」
ジェットの変装を見抜いた男が感心したような声を上げた。いかにも実戦で鍛え上げた歴戦の軍人と言った風情の男だ。
だが、その両腕と両足は奇妙に膨れあがり、銀色の金属光沢を放っていた。
「ちっ・・・その手足、魔導義肢か」
「いい目をしているな。動きもいい、度胸もある。だがこれは我ら"
既に男の後ろの兵士達は魔導銃を構えてジェットを狙っていた。
いかに金等級冒険者とはいえ、これだけの飛び道具を回避する自信はない。負傷した体では尚更だ。
(ジェット!)
「見届けろ、アラタズ。報告は任せた」
自分でも驚くほど冷静な声が出る。
懐の魔導爆弾に手を伸ばし、投擲の構え。
重要なのは自分の命ではなく、古代兵器の破壊。
メットーの破壊を食い止められるなら・・・
「撃・・・がっ!」
「!?」
懐の小型魔導爆弾を投げようとした瞬間、ジェットのあばらを折った男が短い悲鳴と共にくずおれた。
同時に後ろの兵士も悲鳴を上げてばたばたと倒れていく。
ジェットの目はかがり火の光を一瞬反射して飛び過ぎる何かを捉えたが、金等級冒険者の視力をもってしてもそれが限界だった。
(な、なにが・・・!? 魔法なのか? 魔力は感知できるが・・・)
「今考えてる時間はない。俺達はやるべき事をやるだけだ」
手に持った魔導爆弾を素早く仕掛けて、全力でその場から脱出する。
ジェットが野営地を抜けるのと、野営地の中央で大爆発が起きたのがほぼ同時だった。
白の翼の仲間の名前はスーパーマンの載っていた雑誌「アクション・コミックス」に一緒に掲載されていたヒーローから取っています。
パーティ名もここから。
ミスターアメリカ →タラミス・カリメア
ヴィジランテ→ヴァージル・ランテ
コンゴ・ビル→コンゴ
ザターラ→アラタズ
です。
ノイエ・ヨルカーは「ニューヨーカー」のドイツ語読み。ナチスドイツのいわゆる「超兵器」で、ドイツから直接ニューヨークを攻撃できる超長距離ミサイル・・・というかICBMの原型のようなものだったようです。