毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-18 リビー

「ご苦労だった。"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"と"アクション・ミックス"に感謝する」

「礼を言うなら言葉じゃなくて報酬で言って欲しいね。ま、あいつは気にしないだろうがな」

 

 どこかの建物の一室。

 簡素な石造りのオフィスと言った趣の室内は、主人の人柄を反映してか人間味を感じさせないほどの整理整頓がされていた。

 大量の資料や報告書も整然と積まれて立方体を形作り、幾何学的なラインを描いている。

 

 部屋にいるのは二人。一人は"アクション・ミックス"のジェット。

 その山を機械的な正確さで処理しているのは40絡みに見える禿頭長身の男だった。

 

(・・・"狩人(ハンター)"!)

(驚きましたわね、本当にお年を召されておりませんわ)

 

 そしてヒョウエたちは、今度は情景としてそれを眺めていた。

 部屋の中にいるにもかかわらず、腕利きのスパイである"狩人(ハンター)"と金等級の斥候(スカウト)であるジェットが全く気付いていない。

 

「で、状況はどうなんだ"狩人"さんよ」

「君たちのおかげで古代魔道兵器は破壊され、連中の軍の中核である魔導化歩兵部隊にも大きな損害が出た。トラル方面はしばらく動きはあるまい」

 

 "復古軍(レスタウラツィオン)"は真なる魔法文明時代の古代王国の末裔を称するだけあって、古代兵器のみならず様々な魔道具、具現化術式を擁している。

 それでも大半の兵士の武器は普通の剣や槍、弓や盾であり、精鋭である魔導化部隊を潰せたのは戦力的に大きかった。

 

「ここのところ君たちにも随分と働いて貰った。少なくとも数日は余裕があるだろうからゆっくり休んでくれ」

「本当だよ。一週間でディテクの端から端まで往復する羽目になるたぁ思わなかったぜ」

 

 ジェットのいやみも耳に入らないかのように、"狩人"が書類にサインをして「処理済み」の箱に入れる。

 

「必要な事だったのでな。今軍にもお前達以上の戦力はいない。次の攻勢に備えて力を蓄えて貰わねばならん」

「ンなこったろうと思ったよ。人使いの荒いこった」

 

 もう一枚の書類にサインをして、ふと"狩人"が顔を上げる。

 

「そう言えば"白の翼"はどうしてる?」

「女のところに行ってるよ」

「ほう」

 

 表情をぴくりとも動かさないまま、"狩人"が相槌を打った。

 

 

 

「やあ、久しぶり」

「そうね、半年ぶりだったかしら?」

「そんなものかな。ここのところバタバタしてて、記憶が曖昧なんだ」

「でしょうね、英雄さんは忙しいもの」

 

 メットーの西大通りから少し入ったところの喫茶店「うさぎのピーター」。

 テラス席で待っていた女性と挨拶を交わして席に着く。

 名前はリビー。"白の翼"ことウォルと同じ孤児院で育った仲間だ。

 今はウォルが所有するこの喫茶店の雇われ店長。

 とは言えウォルは金を出しているだけで、実質的な経営者は彼女だ。

 

「英雄はよしてくれよ。僕はただの冒険者さ」

「でもあなたとあなたの仲間のおかげで沢山の人が助かってるのよ。

 トラルシティ、あなたたちが守ったんでしょう?」

「まあね」

 

 その後の調査で判明した、破壊した古代兵器が射程数百kmの超長距離魔導砲だったこと、恐らく狙いはこのメットーだったことを聞いてはいたが、口にはしなかった。

 その代わりに懐から出した紙包みをテーブルの上に置く。

 

「これは?」

「開けてみてよ」

 

 リビーが紙包みを開くと、銀細工のブローチが現れた。

 驚くほど精緻な花をかたどったそれに、「リビー」と名前が刻んである。

 

「すごい・・・」

 

 リビーが息を呑んで、ただ銀の花を見つめている。

 

「気に入って貰えたなら嬉しいよ。ほら、子供の頃どこかの貴婦人が慰問に来てくれたことがあってさ、その人の着けてたブローチを誰が作ったんですか、って尋ねてたじゃない。

 トラル・シティでその人の店を見つけたんで作ってもらったのさ」

「驚いた。私だってそんな事今の今まで忘れてたのに」

「そういうこともあるさ」

「ありがとう。大事にするわ」

「ああ」

 

 しばらくリビーはブローチを見つめていた。

 ウォルはリビーを。

 

「貰いっぱなしじゃ悪いわね」

 

 しばらくして顔を上げたリビーが言った。

 

「そんなの気にしなくていいのに」

「そうも行かないわよ・・・そうだ、あなた劇好きでしょ」

「そう言えば最近見ていないな」

「ロメート劇場で『ヨルセンの詩』をやってるのよ。行きましょう。おごるわよ」

「いやそれは・・・」

 

 悪いよ、と言おうとしてウォルは思い直した。

 これも持ちつ持たれつと言うものだろう。

 

「じゃあそうしようかな。いつ行く?」

「今度のソーマの日でどう?」

「オーケー、それじゃあその日で」

「チケット取っておくわね」

 

 その後は香草茶を飲みながら他愛ない話をした。

 天気の話、食材や香草茶の価格上昇の話、五歳か六歳の頃けんかして、リビーがウォルをノックアウトした話(リビーはウォルより一つ年上だ)、吟遊詩人が歌う「勇ましき英雄・白の翼」の話・・・

 

「本当にそう言うのは勘弁して欲しいんだけどなあ。僕が戦ったのはレスタラの他は危険な野生生物やモンスターくらいで、怪人"アンダーテイカー"なんてのと戦った覚えは毛頭無いんだけど。

 ましてや"真なる火竜(ドレイク)"だって!? 僕は"星の騎士"じゃないぞ!」

 

 お手上げだ、と言いたげに肩をすくめて天を仰ぐウォル。

 リビーがクスクスと笑った。

 

「あら、あなただって金等級冒険者じゃない」

「彼は本物の救国の英雄だよ。彼がいなかったらライタイムは滅んでた」

「あなただって現在進行形で国を救いつつあるけど?」

「あっちは100年ものだ。格が違う」

 

 またくすくす笑い。

 

「普通の人はそんなものよ。英雄とか怪物とかとらわれのお姫様とか、とにかくそう言うものが欲しいの。

 あなただって子供の頃、なんとかっていう冒険者が雷を放つ魔法の杖で怪物や悪人をなぎ倒す話を夢中になって聞いてたじゃない」

「"雷光のフランコ"だよ。オリジナル冒険者族で、早撃ちの名人。

 それに魔法の杖じゃなくて雷光銃。魔力を雷光にする魔法の武器で、僕の『白の翼』と同じ古代の遺産さ」

「それがどう違うのかよくわからないのよ、私には」

「むう」

 

 不服そうに口を尖らせるウォル。

 それを見てリビーがまたクスリと笑った。

 

 

 

 ソーマの日までの時間はまたたく間に過ぎた。

 ジェットやアラタズにはからかわれ、タラミスはまじめくさった顔で着ていく服についてアドバイスをくれた。

 コンゴとヴァジルは肩をすくめただけだった。

 

 当日、花を買っていこうかと思って思い直した。

 別にデートでもなんでもない。

 友達と劇を見に行くだけだ。

 その後食事をして、家まで送っていって、それから、それから・・・

 

(ウォル!)

 

 声のようで声でないそれが、耳を素通りして直接脳裏に響いた。

 

「アラタズ?」

 

 記憶が正しければ、いつもおどけて余裕を見せる霊術師がここまで切羽詰まった声を出したことは今までにない。

 

(すぐに戻れ! メットーを目指して、何か・・・何かとんでもなく巨大なものが飛んできている!

 髑髏に三本の剣の紋章! レスタラだ!)

 

 ウォルは身を翻して駆け出した。

 リビーの面影は綺麗に消えていた。

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