毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-20 ウォルター・ボウイー最後の冒険

「ええ、その日は凄く良く晴れた日でした。

 ところが前日から警報が出てて、メットーから避難することになりましてね。

 城門から数キロほど歩いたところで『あれ』を見たんです」

 

                  ――ロビン・クリストバル、雑貨屋の主

 

 

 

 日は中天にあった。

 抜けるような青空を、真っ白い雲が足早に駆け抜けていく。

 

 メットー郊外数十キロにわたって広がる草原地帯。

 そこに王都を守る全ての戦力が集結していた。

 

 普段は駐屯地の奥にこもって姿を見せることもない数々の魔導兵器。

 "空中歩行(エアウォーク)"の魔力を込めた蹄鉄を装着した空中騎兵。

 装着型具現化術式(パワードスーツ)を装備した魔導化兵士たち。

 

 とは言えそれらの具現化術式は一つ一つが魔術鍛冶――具現化術式を専門に作る術師たちのハンドメイドであり、規格化する方法が事実上存在しない。

 作る人間が同じ術を何度も重ねることによって薄皮の如く形成されていく実体を持った術式。

 作るのに時間がかかる上に、同じ術式を全く同じように発動できる人間は――たとえヒョウエのようなチート持ちでも――現代には存在しない。

 なので形状・大きさ・性能共にバラバラなそれらの具現化術式をまとった兵士達の群れは、統一感にまるで欠けた変異怪物の群れのようであった。

 

 そしてかき集められた冒険者たちは更に統一感に欠けている。

 騎馬に乗った騎士もいれば、いかにも冒険者といった実用一辺倒の鎧姿の斧使い、軽装の弓使いに毛皮と棍棒の蛮人戦士、ローブをまとった術師、更には水着や歌劇の衣裳のような派手な服をまとった"カブキモノ"も散見される。

 

「・・・!」

 

 ざわめきが起こった。

 目のいいもの、視覚強化の《加護》や術を持つものが「それ」を認識したのだ。

 

 銀色の円盤、もしくは船、あるいは要塞。

 とにかくそうした何かが陽光を反射して空中を進んできていた。

 その底面一杯に描かれているのは、髑髏と交差する三本の剣。

 レスタラのエンブレム。

 空中に巨大な影が現れた。

 あの日と同じ、甲冑に髑髏の仮面を着けた男。

 

『ふはははは・・・哀れな下等人種よ。復古軍(レスタウラツィオン)が誇る最終兵器、"夜神(ニュクス)"に対してそれっぽっちの戦力で挑む蛮勇にまずは敬意を表そう。

 そして思い知るがいい。お前達の力などどれほどちっぽけな蟷螂の斧に過ぎないのかと言うことを!』

 

 映像が消える。ギリ、と"狩人"の歯が鳴った。

 それでも冷静に命令を下す。

 

「空中騎兵、上昇開始! 魔導砲兵準備! まだ撃つなよ!」

 

 見えない坂道を駆け上がるように騎兵たちが宙を走り始めた。

 その身に帯びる魔力が飛行ではなく空中歩行であるゆえに、彼らは急激な上昇を苦手としている。

 それでも騎兵の一団が整然と、渦を巻いて天高く駆け上がっていく情景は壮観だった。

 

 続けて馬に匹敵する脚力を持ち、同じく"空中歩行(エアウォーク)"のブーツを支給された十人ほどの冒険者たちも空気の坂を駆け上がる。

 騎兵と冒険者たちが空中要塞と地表の間ほどまで上昇したとき、要塞に動きが起きた。

 

「報告っ! 空中要塞が魔導甲冑部隊を降下させ始めました!」

「よし! 地上部隊、攻撃準備! 魔導砲兵、敵が5km入ったら撃ち方始め! 壁術師、詠唱開始!」

「了解!」

 

 壁術師――つまり石壁や土壁、力場の壁などを作る術師たちの部隊がある。

 冒険者や大地の神の神官までも駆りだして増強した部隊の術師たちが詠唱を開始し、見る見るうちに魔導砲兵達を中心として即席のトーチカが完成する。

 その直後、空中要塞から閃光が走った。

 魔力光が数キロの距離を超えて着弾し、術師たちの作ったトーチカに炸裂する。 

 だが術師たちが魔力を込めて生みだした障壁は、ギリギリのところで中の兵士と兵器を守っていた。

 術師たちが再度詠唱を始め、トーチカの破損部分を修復する。同時に王国側の魔導砲も魔力光を吐き出し、空中要塞に叩き付け始めた。

 

 地平線の向こうから姿を現した二百人ほどの魔導甲冑の一団が恐ろしい速度で距離を詰めてくる。こちらの地上部隊もそれに合わせて接近するが、彼我距離が1kmほどになったところでレスタラの魔導甲冑達が手に持った小型魔導兵器を発射した。

 雷光銃と同じ魔力のほとばしりが冒険者や術式強化兵たちを打ちすえる。

 だが腐っても緑等級、直撃を受けても半数以上のものは耐えた。そのままあっという間に乱戦に入る。

 アクション・ミックスの赤騎士と青騎士、巨大猿が古代兵器を身につけた兵士達を薙ぎ払う。

 

 そして空だ。

 空中要塞からはひっきりなしに魔力光の対空砲火が放たれる。

 そして10人程度の小数ながら放たれる、飛行可能な魔導甲冑のレスタラ兵達。

 空中騎兵たちが魔導甲冑を抑えに掛かるが、空を駆ける以外は通常の騎兵である彼らにははっきりと荷が重い。緑等級の冒険者たちがかろうじて対抗できるレベルだ。

 それでも数の差で何とか魔導甲冑達を押さえ込み、乱戦をすり抜けて"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"は飛んだ。

 

「・・・くっ!」

(ウォル! 無茶をするな!)

「無茶でも何でも、ここで止めなきゃだめだろ!」

 

 地上から撃ち上げられる対空砲火と、"夜神(ニュクス)"から放たれる弾幕の交差する合間を縫って"白の翼"が飛ぶ。霊体化したアラタズが悲鳴のような声を上げるが、聞いている暇はない。

 濃密な、雨のような対空弾幕。地上からの支援砲撃もそれを減ずる役には立っていない。 

 

「もうすぐ・・・もうすぐ・・・」

(ウォル! 後ろだっ!)

「っ!?」

 

 それでも要塞に肉薄するところまで来た"白の翼"がアラタズの悲鳴を聞いて振り返った。

 後ろに迫るのは半数ほどに数を減らした飛行魔道甲冑。

 彼らを足止めしていた空中部隊は全滅していた。

 

「くっ・・・」

 

 両脇に抱えた長い筒、"狩人"から渡された魔導兵装を見る。

 内部から"夜神"を破壊するための切り札だったが、現状では――

 

「やむを得ないか!」

 

 対空砲火を回避しながらセーフティを解除し、筒先を飛行魔道甲冑達に向ける。

 引き金を引こうとした瞬間、その目が見開かれた。

 肉眼でも目視できるほどの魔力を内包した「何か」が飛来する。

 数十条のそれは飛行魔道甲冑部隊に襲いかかり、その大半が命中し、爆発した。

 

「なんだ!?」

「あれは!」

 

 突如空中に現れたのは鮮やかな緑色の翼と、虹色の尾羽を持つ数十羽の巨大な鳥。そしてその背中に乗っているのは・・・

 

「エルフの戦士だーっ!」

「ズールーフの森のエルフ達が助けに来てくれたぞーっ!」

 

 エルフの精鋭達。

 後の王国宰相、ワイリー侯爵が族長トゥラーナを説き伏せて引き出した援軍だ。

 それがギリギリのところで間に合った。

 

 "白い翼"が援軍達に感謝の意を込めて手を振る。

 戦士達の長らしい壮年のエルフが手を振り返した。

 

「よし!」

 

 翼を畳み、体の周囲に力場の障壁を小さくコンパクトに、その分固く展開する。

 次の瞬間、出撃用らしいハッチを突き破って"白の翼"は空中要塞"夜神"の中に突入していた。

 

 "白の翼"が突入してからしばらくして、"夜神"が火を吹いた。

 その巨体がゆっくりと傾き、対地砲火も途切れる。

 やがて、不意に空中要塞は巨大な爆発を起こした。

 

 エルフの戦士達が乗る孔雀鷲たちもバランスを崩し、何羽かは墜落した。

 互角に戦いを進めていたレスタラの魔道甲冑部隊も戦意を失い、あるものは逃走し、あるものは投降した。

 この時"夜神(ニュクス)"内部であったことを、数日後に目覚めた霊術師アラタズはこう語っている。

 

「古代王国の研究者が大雑把だが内部の想像図を作ってくれててな。そいつがドンピシャだったのさ。

 最短の経路で魔力炉にたどり着き、そいつを破壊した。

 その後は推進器だ。そいつも首尾良くぶっ壊してそこから脱出するつもりだったが、そこに現れたのが髑髏王(トーテンコプフ)だ。2mを越す大男で、剣も槍も使わず素手で殴りかかって来やがった。

 ウォルが、金等級冒険者"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"が全力で戦ってなお苦戦するほどに強かった。

 火が回って自分も逃げなきゃいけないだろうに、ただ『死ね! 死ねっ!』と狂ったように叫んで殴りかかっていたよ。

 その後あのとんでもない爆発が起きて、俺も意識を失った――体がないのに意識を失ったってのも妙なもんだがね。

 最後に聞こえたのはウォルの言葉だった。ああ、確かこうだ。

 

『まだ死ねない。「ヨルセンの詩」を見てないんだ』

 

 それだけだった」

 

 

 

 "夜神"の巨体が爆発したその時。

 無数の残骸や破片が落下する中、一筋の銀色の物体がその場にいた全ての人間の目を引いた。

 一直線に落ちてきたそれはまるで墓標のように垂直に草原に突き刺さる。

 "白の翼(ヴァイスフリューゲル)"の、銀の翼だった。

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