毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-21 "狩人"

 メットー郊外で行われた、後に「翼の戦い」と呼ばれるそれに、多くの犠牲を払いながらも王国軍と冒険者たちは勝利した。

 復古軍(レスタウラツィオン)首領である髑髏王(トーテンコプフ)の行方不明と、最終兵器である"夜神(ニュクス)"の喪失をもってレスタラ戦役の大勢は決した。

 その後組織だった戦闘は数年間継続したが王国軍が大きく押し込まれることはついぞなく、占領された一部の地域の解放と残敵掃討を経て王国に平和が戻ることになった。

 

 "白の翼(ヴァイスフリューゲル)"の死亡は今に至るも確認されていない。

 「アクション・ミックス」の面々は彼が空中要塞の爆発に巻き込まれて行方不明になった後も戦い続けたが、王国がレスタラ戦役の終了を宣言したのを機に解散した。

 

 "赤"のタラミス・カリメアは王国騎士であった兄の戦死により実家に戻って家を継いだ。長男には「ウォル」と名付けた。

 "青"のヴァジル・ランテは軍に入って戦い続けたが、レスタラ残党との戦いで戦死。享年二十九才。

 《獣の加護》を持つレンジャー、コンゴは辺境の開拓村に隠遁した。開拓と村の防衛を黙々と続けながら多くの息子と娘をもうけ、孫とひ孫たちに囲まれて穏やかに生涯を閉じた。

 霊術師アラタズは芸人術師に戻った。しばらくは戦役の英雄のネームバリューもあって大いにもてはやされたが、数年ほどして檜舞台からは姿を消す。

 それでも細々と芸人生活を続け、結婚もしてまずまずの人生を送った。

 「アクション・ミックス」の実質的なサブリーダー、ジェットは姿を消した。数年してリビーの前に一度だけ姿を現したが、以降の消息はようとして知れない。

 

 ウォルの友人リビーは喫茶店の経営を続けた。

 その合間にウォルの仲間やその他の当時を知る人々に話を聞いて回り、一冊の本を書いた。

 「ウォルター・ボウイーの生涯――"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"と呼ばれた男」と題されたその本はベストセラーになった。今日人々が彼について知っていることは、ほぼこの本の内容による。

 喫茶「うさぎのピーター」はまだ営業中だ。

 店の奥で時々うとうとしながら、彼女は彼と劇に行くのを今でも待っている。

 

 

 

 路地裏で男は紫煙を吐き出した。

 レスタラ戦役が終了してから数年。

 かつてジェットと呼ばれた男は、今は"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"の一員として"狩人"の腹心、組織のナンバー3にまで上り詰めている。

 トレードマークだった派手な髪型も顔も変え、今はどこにでもいるような平凡な職人にしか見えない。仕事を終えて一杯引っかけようかという装いだ。

 天を仰いで紫煙を吐き出していたその顔が、ふと横を向く。

 

「・・・脅かすなよ。毎回足音も立てずに現れやがって」

間諜(スパイ)がドタドタと足音を立てて現れるわけもあるまい」

 

 ほんの3mほど離れた場所に"狩人"が立っていた。ジェットと同じ職人の格好。

 気付くのが一瞬遅れていれば、そして"狩人"にそのつもりがあれば致死の一撃を送り込める間合い。

 金等級冒険者、それも気配に敏感な斥候(スカウト)であるジェット相手に難無くそれをやってのけた。

 ジェットが舌打ちする。

 

「ったく、心臓に悪いんだよ。変な《加護》でも持ってんのか、あんた?」

 

 "狩人"が唇を歪めた。

 

「そんな便利な《加護》や術は持っておらんよ。

 まあ一つ教授してやるとするなら、人のやることには必ず穴が出来ると言うことだ」

 

 ジェットが肩をすくめるのを見て、"狩人"がまた笑った。

 

 

 

 どちらからともなく表情を真剣なものに戻す。

 

「それで、どこまで進んだ」

諜報機関(うち)の中に虫がいるのは間違いないな。容疑者は十人くらい・・・特に臭いのになると3人に絞られる。フレディ、フィルモア、シャイローだ」

 

 "狩人"が頷く。

 これが、"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"のナンバー2と3が変装して路地裏で会っている理由だった。

 

「戦役の前からおかしいとは思っていたんだ。相手の動きがこちらの上を行きすぎている。古代王国のとんでもない遺物か何かがあるのでもなければ、答えは一つしかない」

「それもかなり上のほうだ・・・念のため聞いておくが、トップがそれ(内通者)ってことはないよな?」

「閣下は青臭いが、それだけに純粋だ。あの方の愛国心を疑うくらいなら自分を疑うよ」

「そうかい」

 

 鼻で笑うジェットだが、反論はしない。

 今の"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"長官――カレンの祖父に当たる男――がそう言う人物だと言うことは彼もよく知っている。

 

「それで・・・」

 

 "狩人"が何かを言おうとしたとき、路地裏で爆発が起こった。

 

 

 

 倒れていたジェットが、頭を振りながら意識をはっきりさせようとする。

 

「・・・畜生、嗅ぎつけてやがったか。おい"狩人(ハンター)"・・・」

 

 呼びかけた言葉が途中で途切れる。

 "狩人"の背中に大きな金属の破片が深々と突き刺さっていた。

 一目で急所とわかる。

 数分以内に治療術師の術をかけて貰わなければ死は免れないだろう。

 "狩人"が身じろぎした。

 

「くく・・・これで一人に絞られたな。私が今日外出することを知りえたのはシャイローだけだ・・・」

「おいまさか、わざと」

「そこまで危ない橋は渡らんよ。それよりも・・・」

「いいからもう話すな! シャイローのことは後だ! 今すぐ医神(クーグリ)の神殿に・・・」

 

 ジェットがぎょっとした。

 "狩人"が自分の顔に手をかけ、それをベリベリと剥がしたのだ。

 剥がれた顔は白い陶器の仮面(マスケラ)に変わり、仮面の下には皮膚のない、筋肉が露出した顔。

 仮面の額には紅い宝玉――記憶の宝石がはまっている。

 

「少し早いが・・・これをくれてやる。これをはめた人間は"狩人"の顔とこれまでの全ての"狩人"の記憶を受け継ぐ・・・今日からお前が"狩人"だ・・・」

「おい馬鹿! 諦めてんじゃねえ! まだ助かるかもしれねえだろうが!」

「馬鹿はお前だ」

 

 言って"狩人"――"狩人"だった男は血を吐いた。

 

「肺を貫通してる。もう五分ともたん。治癒術師がその辺をそうそう歩いているわけがない。

 引き継ぎが出来なくなるリスクのほうを重視すべきだ。さあ、早くこれをかぶれ」

「強制かよ。また義務か」

「義務とは強制されるものではない・・・自ら果たすものこそ義務なのだ・・・」

 

 目の光が消える。

 石畳に落ちた仮面をジェットが拾い上げた。

 それを顔に当てる。逡巡はなかった。

 一瞬にしてその顔が"狩人"のものに変わる。

 同時に"狩人"の護衛だったのだろう、ジェットとも顔見知りの"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"の人員が路地裏に駆け込んできた。

 

「副長官! ご無事ですか!」

「私はな」

「これは・・・」

 

 人員の一人が、石畳に転がる顔のない死体に気付く。

 

「ジェットだ。丁重に弔ってやれ。それよりも急いで本部に戻るぞ。レスタラの虫を全部芋づる式に引っ張り出してやる」

「はっ!」

 

 "狩人"が路地裏の奥に向かって大股で歩き出した。その靴は足音を立てない。

 その後に"ジェット"の体を担いだ護衛たちが続く。

 

「・・・」

「・・・」

 

 幽霊のような状態で一部始終を見ていたヒョウエたちの目の前で、彼らは煙と土ぼこりの中に消えていく。

 白い光が走り、世界が切り替わった。




"狩人"はMGSシリーズのビッグボスと刑事コジャックを混ぜたようなイメージで書いてます。
中身の方は先代がユル・ブリンナーでジェットがジェイソン・ステイサムかなw
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