毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-26 満を持して

 空気を切り裂いて一直線に隕石を目指す。

 雲が吹き飛ばされ、空に巨大な穴が空く。

 

 飛びながら念動で周囲の空気を集め、圧縮固定する。

 空気の薄い上空に飛んだときの酸素ボンベがわりだ。

 

(このくらいで十分か・・・術の制御を手放さないようにしないとな)

 

 圧縮した数十立方メートルの空気を鎧の中に「しまいこむ」と、青い鎧は今度こそ一直線に空の果てを目指して飛んだ。

 

 

 

 高度十キロ、二十キロ、三十キロ。

 見る見るうちに空気の抵抗が減少していく。

 空の青さが黒に変じる。

 高度三十キロを超えればもうそこはほとんど暗黒と星、宇宙の世界だ。

 

 かつて怪人「ムラマサ」を焼き尽くした時でさえ、高度は10km。

 高度30kmともなれば、大気の濃度は地上の僅か1%。

 かつてのヒョウエの世界では地上100kmより上を宇宙としていたし、いわゆる大気圏への再突入は120kmほどから(再突入による圧縮加熱が始まる高度、つまりそこまでは極々僅かながら空気がある)だが、ここまで来れば感覚的にはほとんど真空と言っていい。

 

 その暗黒の真空の中を青い鎧が飛ぶ。

 超望遠視覚(テレスコピック・サイト)によって捉える目標を目指して。

 ぐんぐん大きくなってくる・・・というには青い鎧の速度をもってしてもまだ余りにも遠い。

 

 それでも接触するのは問題ない。問題はうまくランデブーできるかどうかだ。

 隕石の速度は恐らく秒速40km。時速でも分速でもない、秒速だ。

 音速で言えばマッハ30以上。

 空気抵抗のほとんどないこの高度でも、青い鎧の最高速度を恐らく上回る。

 

(しくじれば隕石に激突――そうでなくても二度目のチャンスはない。しくじるなよ、ヒョウエ――!)

 

 遥か彼方の、だが天体スケールで見れば指呼の間の隕石を目指し、ヒョウエは飛んだ。

 

 

 

 アイズナー離宮。

 その中で、外で、幻像の消えた空を多くの人々がまだ見上げている。

 一方で指揮所では冷静な会話が交わされている。

 

「・・・攻め手が遅いわね?」

「同感です。こちらの切り札だった青い鎧がこの場を離れた今、即座に攻めかかって来ると思ったんですが・・・おい、周囲の警戒を密にするよう伝令を出せ。ひょっとしたら気付かないうちに始まっているのかもしれん」

「ハッ!」

 

 待機していた兵士が部屋を飛び出していく。同様に待機していた"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"局員は遠隔通信用の魔道具で各所に指示を伝える。

 同様の疑問を持ったものも何人かいたが、それらは十分ほど後に解消されることになる。

 

「伝令ッ! 南部ビップル駐屯地からの念話です! レスタラの、空中要塞が現れたとっ!」

「! 針路はっ!」

ここ(メットー)に一直線だそうです!」

「それ以外の情報はあるかしら」

「い、いえ。それだけで念話が切れてしまいまして・・・恐らくは・・・」

 

 俯く心術師。カレンがけわしい顔で親指の爪を噛んだ。

 

「やられましたかな・・・だが任務は果たしてくれた。今度はこちらがそれに応えねばなりますまい」

「ええ、わかってるわ。全軍に迎撃準備! 冒険者たちも準備させなさい。

 要人の避難準備、離宮の防衛設備もフル稼働。それと例の部隊は・・・?」

「既に待機しております」

「よし。タイミングは任せるわ、経験者のあなたに」

「はい・・・なんでしょう?」

 

 カレンが自分を興味深そうに見上げているのに気付き、"狩人"がいぶかしげな表情になる。

 

「いえ、ね」

 

 カレンがいたずらっぽい表情でくすくすと笑う。

 

「あなたほど表情の読みにくい人間も珍しいと思っていたけど・・・あなたでも顔に出る事はあるのね。少し安心したわ」

「おたわむれを」

 

 "狩人"が僅かに苦笑した。

 

 

 

「そう言えばメットーの市民は大丈夫かしら。パニックを起こされでもしたらかなり面倒な事になるけれど」

「避難計画は既に立案してあるはずです。我々の仕事ではないことで頭を悩ませるのはやめましょう」

 

 どこかよそ見をするような雰囲気で責任を回避する"狩人"。

 形としてはこの一件の最高責任者である彼らが負うはずだったそれらの仕事を、政治力を駆使して多方面に押しつけたことはおくびにも出さない。

 

「そうね。担当者の幸運を祈りましょう」

 

 同様に、しれっとした顔でカレンは自らの責任を回避した。

 

 

 

 先だって述べたとおり、アイズナー離宮の周辺には深くて広い堀がある。

 船遊びなどをするためのものでもあるが、同時に防衛のためのものでもあり、50mを越える幅と数メートルの深さを持つそれは船や翼なしに越えられるものではない。

 南に幅20mほどの陸橋が続いている他は橋もなく、攻め入るならそこに戦力を集中させるか、空を飛んでくるしかない。

 

 現在その周囲からは一斉にメットー市民の避難が始まっており、その喧騒をよそに周囲を厳しい顔で軍の部隊が固めている。

 陸橋には三重の陣地が配置されており、物々しい雰囲気をかもし出している。

 50年前の「翼の戦い」で活躍した虎の子の空中部隊や魔導砲兵部隊などが離宮の堀ばたで待機し、上位冒険者たちは遊撃として離宮から少し離れた市街地に配置されていた。

 その中に混じっているモリィ達に、合流したQBがその辺を解説していた。

 

「見ての通りアイズナー離宮は堀に囲まれた城だ。落とすのであれば正面から攻略する必要がある」

「メットーの道路は一直線ですから隠れる場所は限定されますが、家屋に潜んで魔導兵器を撃ってきた場合はどうでしょう、マネージャー?」

「ある程度は有効だろうが、こちらには魔導砲兵部隊がある。そうなったら家屋ごと砲撃して終わりだろうな」

「余り市民の財産を損壊したくないものですが・・・戦争ですものね」

「そういうことだ――それでも安心できる状況ではないがな」

 

 顔をしかめるリアス。無感動に頷くQB。

 モリィは不愉快そうに口をへの字にするが、何も言わない。

 と、その表情が変わった。

 

「来るぞっ!」

「え? あっ!」

 

 モリィが叫ぶのと同時に彼方から尾を引く火の玉が降り注いだ。

 アイズナー離宮に炸裂すると見えたそれは離宮の上空10mほどで爆発し、轟音を轟かせ炎の花を咲かせる。

 閃光が収まったその後には無傷の建物。

 

「すげえな、ガラス一枚割れてねえぞ。あれか、ヒョウエの念動障壁みたいな・・・?」

「らしいね。ヒョウエくんもそんなことを言ってたが」

「とは言えこんなのはほんの挨拶程度だろう。本命は・・・」

 

 震動が響く。

 再び全ての人々が天を見上げた。

 

『フフフ・・・』

 

 深くて不快な声が響く。

 

「来たか」

 

 "狩人"が呟く。

 

『ハハハ・・・』

 

 声のトーンが上がる。

 サフィアが無言で上空の「それ」を睨み付けた。

 

『ハハハ! ハハハハハハハハハ!』

 

 底面いっぱいに髑髏の紋章がペイントされた巨大な銀の円盤。

 誰もが知る"白の翼(ヴァイスフリューゲル)"の英雄譚。

 そこに語られる悪の権化、レスタラの空中要塞。

 それが五十年の時を経て、ついにメットーの上空に現れた。

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