毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
"狩人"がサフィアを睨み付ける。
「それで何の用だ。今お前のいる場所は待機中の冒険者部隊のはずだろう。さっさと戻れ」
「冒険者部隊だけでは切り札にならないでしょう。空中要塞がある限り、結局は散らされておしまいだ」
窓の外を指す。
この世界ではほとんど誰も見た事のないだろう壮絶な砲撃戦。
空中要塞の魔導砲は少しずつこちらの遮蔽物を削っていくが、王国側の砲は空中要塞の装甲の表面でむなしく四散している様に見える。
「空中部隊もあるのに、あれのおかげで出せていない。まあ馬の速度であそこに放り出したら、いい的にしかならないから当然ですが」
「・・・何が言いたい」
"狩人"はいぶかしげに眉を寄せる。
にやり、とサフィアが笑みを浮かべた。
「あるんでしょう? それを覆せる切り札。あの砲火をかいくぐれる速度を出せる装備――古代遺物"白の翼"が」
「!」
カレンが目を見張る。
"狩人"が苦虫を噛み潰したような表情になった。
「QBめ、ばらしやがったな・・・準最高ランクの機密だぞ」
地脈を操る古代遺跡の島に現れたディグ達。メットーから丸1日はかかるはずの"
"
英雄"
それが彼らの使う魔道具「銀の翼」だった。
「こう言う状況じゃなかったらマネージャーも教えたりしなかったでしょうね。
高価で数がないとは言え、ちょっとした部隊を編成するほどの数は十分にある。この状況なら出さない訳がない。それが出てきてないというのは――自信がないんでしょう、あの砲火をかいくぐれる自信が。
まあ、マネージャーの受け売りですけど」
「・・・」
"狩人"の表情が更に剣呑なものになっていく。
カレンは無言で二人の様子を観察していた。
サフィアが笑みを消して、胸に手を当てる。
「ボクにならできる。"
これまでの砲撃で確認した。
空中要塞の砲口がどちらに向いているか地上からでも視認できる。
発射の前兆を捉えて、発射までの間に回避行動を取れる敏捷性もある。
障壁力場で体を守りつつ、空中要塞内部に突入できるだけの耐久力もある。
そして内部に入れば"学者"の仮面で構造を類推し、"剣士"の仮面で目的を達成するまで戦闘を継続できる。
ボクにならできるんだ、"
「・・・」
「あっ」
短くカレンがこぼした次の瞬間、"狩人"が爆発した。
「寝言を抜かすな、英雄願望の小娘が! お前青い鎧みたいな
「!?」
豹変した"狩人"にサフィアが唖然とする。激情を吐き出し続ける"狩人"。
「それともお前如きがあいつに――"
お前一人で何ができるっ! え、何ができると言うんだ!」
「・・・!」
サフィアはダンジョン・コアの中で"狩人"の記憶を見ている。
その正体が"白の翼"の親友ジェットであることも、親友である"白の翼"を単身向かわせそして彼が帰ってこなかった事も。
サフィアの表情を見て、"狩人"もそのことに気付いたようだった。
全身にみなぎっていた怒気が消える。
いつもの冷静な表情と、言って聞かせるようないっそ優しげな口調。
「作戦を考えるのは指揮官の仕事だ。今は耐えて時間を稼げ。わかったな」
「・・・・・でもっ! それじゃ被害が広がるばかりです! このまま火力を叩きつけられ続けたら、戦線の維持だってできるかどうか分かりません!」
熱の籠もったサフィアの反論でも、その冷徹の仮面を崩すことは出来ない。
「そんな事は貴様に言われないでもわかっている。だが貴様一人を行かせたところで犬死にだ。持ち場に戻れ。命令違反と不法侵入は見なかったことにしてやる」
「・・・」
無言で"狩人"と視線をぶつけあうサフィア。
その表情から何かを読み取ったのか、カレンが「へえ」という顔になった。
「・・・ボクは確かに青い鎧みたいな超人じゃありません。ひょっとしたらヒーローですらない、ただの人間です」
「だったら・・・」
「だけどっ! 超人じゃないボクにだって何かはできます! この現状を打破するために! 仲間を救うために! 行かせて下さい、"狩人"っ!」
「・・・!」
(今日の僕は失敗した。誰も助けられなかった。
けど明日の僕は違うかもしれない。誰かを助けられるかも知れない。
今日の僕は無価値だ。だが、明日の僕には価値がある)
"狩人"、いやジェットの脳裏に甦る親友の言葉。
五十年間忘れていたそれ。
「"狩人"! お願いします!」
「・・・」
「いいじゃない。やらせてみましょうよ、"狩人"」
「カレン様・・・」
笑みを浮かべる上司をどこか所在なげに見下ろす"狩人"。
この男とは短くない付き合いだが、それでも見た記憶のないその表情。カレンが更に笑みを深める。
「実際彼女の言うことは筋が通ってるわ。ファイルは見たけど、特化した状態であれば彼女の能力は黒等級にも迫る。
"
「ですが」
「どのみち、にっちもさっちもいかない状況よ。賭けてみるしかないのではなくて」
「・・・」
反論が思いつかず、視線を上司から女剣士に移す。
先ほどのそれと全く変わらない、真摯な眼差し。
純粋な熱意を燃やすその目に再び思い出すのは、かつての親友。
(ああ畜生)
心の中だけで天を仰ぐ。
(わかっていたさ。どれだけ頼りなく、未熟に見えても、こいつがあいつと同じ「ヒーロー」って人種だって事は)
「"狩人"」
「今日のお前には価値がある、か」
「え?」
良く聞き取れなかったのか、サフィアが目をしばたたかせた。
「なんでもない。行け。自分の言葉が駄法螺でないと証明してみせろ!」
「・・・はいっ!」
指揮所に使われる建物の一階。客間であろうそこで、サフィアは"
「なるほど、操作自体は簡単なんだね」
「はい。慣れれば思った通りに動きます。ただ機動性に関しては本人の敏捷性次第と言うところが」
「それなら得意分野だよ、任せてくれ」
「それとこちらは通信用の魔道具です。恐らく空中要塞の中に入ったら通じなくなるとは思いますが」
「ミスター・
笑うサフィアに、局員が真剣な顔で頷く。
「ご武運を。それと"狩人"から追加の命令です」
「なんだい?」
今更他に何かあっただろうか、と首をかしげるサフィア。
局員が直立不動の姿勢になり、声を張り上げる。
「命令の内容は一つ・・・『生還せよ』! 以上です、白百合の騎士!」
「・・・了解っ!」
破顔一笑して駆け出す。局員が敬礼でそれを見送った。
庭を走り、いくつか設定された隙間から障壁力場の外に出る。
玉すだれのようにパーツが展開し、その背に銀色の翼が広がった。
浮揚の魔力が体を包み、重力の感覚が消失する。
「スカイ・・・ハァーイッ!」
カレンが。"狩人"が。モリィ達が。QBが。
正規軍が。レスタラの兵が。冒険者たちが。逃げ遅れた市民までもが空を見た。
魔力光の交差する中、銀色の流星がひとすじ、空に駆け上がっていく。
「死ぬなよ、ヒーロー」
指揮所でそれを見上げながら、"狩人"が呟いた。